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46 白狼山

 黄巾の乱が起こるより十数年前、遼東半島で暴れ回っていた賊軍、白狼山。彼らは北方の騎馬民族を味方につけ、官軍さえ返り討ちにする戦闘能力を有し、向かう所敵なしであった。その白狼山の頭目が顔狼牙。やがて顔狼牙は勢力拡大を目指し、黒山賊の張牛角と義兄弟の契りを結んだ。彼らは同じく黒山にいた猪飛燕や他の頭目達と共に、三羽烏とか四霊獣などと呼ばれたという。だが張牛角が不慮の死を遂げると彼らは後継を巡って反目。ある者は殺し合い、ある者は黒山を去った。結局、跡目争いに勝利した猪飛燕が首領に収まり、名を張飛燕と改め、黒山を百万と号する大勢力にのし上げた。

「……とまあ、こんな話だ。そういえば、後継に指名された顔狼牙が固辞したせいで、黒山四霊獣の反目を招いた。なあんて噂もあったなあ」

 粛が両手を頭の後ろに組んで説明を終えると城門が開き騎馬の一団が現れ、大将らしき男が下馬し、拱手して名乗った。

「みどもが并州刺史、高幹元才にござる。おお、その鉄棍。まさしく顔狼牙とお見受けいたす。して、何故、この城に立ち寄られたのか?」

 口では礼を尽くしているようだが周囲を衛兵で固め警戒している。顔琉の目的が分からないのだから当然ではある。その意中を察してか、顔琉は鉄棍を粛に預けた。

「うむ。儂もあの黒山の変より世捨て人を気取っておったが、もうこの齢じゃ。死ぬ前にひと花咲かせたいと思うのは人情じゃて。折りしも今、この河北は曹操めに蹂躙されんとしておる。武人の死に場所にはもってこいと思い定め、弟子を連れて馳せ参じた次第じゃ。二人しかおらぬが、いずれも一騎当千の武芸者なれば、戦場ではひとかたならぬ働きを約束しようぞ」

 粛と額彦命は聞いてないよと心の中でツッコミを入れるが、これも審判、甄梅を救うためだと思い黙っていた。

「おお、あの顔狼牙が我が軍に加わって頂ければまさに百万の援軍を得たようなもの。この高元才、その義侠と恩義に感謝の言葉もありませぬ」

 高幹は跪いて謝意を示した。やはり顔琉は顔狼牙だったのだ。でなければこう、上手くいく訳がないと粛は確信した。

「ところでのお、道中、壺関で賊に襲われてな。なに、あんな連中、儂らの敵ではなかったが、お付きの者が攫われてしもうたのじゃ。高幹殿、心当たりはないかのお」

「は、ははっ。そ奴らは我等が壺関の警備に当たらせておる青熊党でござろう。元々、農民上がりの連中なもので、とんだ粗相をしてしまったようです。直ちに、使いの者を出しましょう」

「いや、それには及ばぬ。儂らが直々に向かう。お付きと儂は断袖の間柄でな。殺されては堪らん。ことによると一戦交えるやもしれん」

 粛は思わず吹き出しそうになった。断袖とは男色のことなのだが、顔琉と審判とは、悪い冗談である。が、この脅しが効いたのか、高幹は大慌てで青熊党と渡りをつけるべく手配を始めた。


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