3 甘美なる過去
「審判、空元気でもいいから声でも出してくれよ。見ろよ、連中の死んだ魚みたいな目を」
副官の粛が苦言を呈した。副官という肩書きではあるが、幼馴染の誼でのコネ人事である。そんなことが許されるのも綱紀の緩い袁家ならではだろう。実力よりも縁故の方が重視された。粛に促され審判は一同を見回す。皆、暗い顔をしている。分かりきっていたことではあるが。とはいえ、一体何を言えばいいというのか。
元気を出せか。それで元気が出るなら苦労はない。それともお前ら、何だその面は、と、発破をかけるか。この状況でそんなことを言っても反発されるだけだろう。
今、彼らの行く末は大方見当がついている。袁家は負けたのだ。明るい展望など何一つ見出せない。それでも彼らは歩を進めるしかない。止まれば死ぬか、虜囚の憂き目に遭うだけだ。正直、護衛の兵士達がここまで多少の落伍はあったにせよ、ついてきたのは粛の楽天的な性格と、その手腕によるところが大きい。文武に見るべきものはないが、人を纏める力は彼の方が秀でていた。が、それもそろそろ限界に近づいていた。護衛を宥める役目は粛に丸投げして、審判はといえばこれまでの来し方に思いを馳せていた。 いつから、何故、こんなことになってしまったのか。一年前の今頃は自分達には栄光が約束されていると信じて疑わなかった。その更に数年前はどうであったか。あれはおよそ十余年前、初平元年の正月。審判は十余歳だった。




