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12 河北三州

 六年前の初平二年、袁紹を盟主とした反董卓連合軍は董卓を長安に追いやったものの、都、洛陽は焼かれ、天子も連れ去られるという最悪の結果に終わり解散した。何故か。

 十七鎮諸侯は各領地で挙兵したものの、殆どが動かず、静観していた。実際に攻め上がり干戈を交えたのは江東の孫堅、そして陳留で挙兵した曹操くらいで、盟主の袁紹に至っては他の領主と内輪揉めを起こして兵を退く体たらく。勝利したのは孫堅のみで、焼け跡となった洛陽の再建に着手するも何故か主君、袁術に疑われ、突如領地に戻ってしまい、反董卓連合は足並み揃わぬまま瓦解した。ちなみに袁術は袁紹の従兄弟である。歳は袁紹の方が上であり嫡出子だったが、袁術が本家筋なので袁家の莫大な遺産の殆どは袁術が相続している。そのせいか、袁紹は袁術を妾腹の他人と蔑み、袁術は袁紹を分家の盗人呼ばわりし、二人はことあるごとに対立した。

 一方、曹操は董卓配下の将軍、徐栄に手酷く負けたため故郷に戻り再起を図ることになる。この結果に民衆は落胆した。特に冀州人は不甲斐なかった。冀州は一、二を争うほどの大軍を催したにもかかわらず、領地から動かず、負けもしなかったが勝ちもしなかった。別にそれは冀州に限った話でもないのだが、冀州ほどの大軍を単独で用意できた諸侯は他になかった。審判や粛は落胆するよりむしろ呆れた。審判は父が大軍を指揮して戦果を挙げることを期待していただけに、冀州の牧が韓馥でさえなければ、などと思ったものだった。

 その後、冀州の北方、幽州では北平太守の、

 公孫瓚。

 という男が勢力を伸長し始める。十七鎮諸侯の十四位の人物だったが、この序列にさしたる意味はない。反董卓連合が瓦解した後、黄巾賊や野盗の類がまたぞろ息を吹き返し、それを鎮圧した河北の最右翼が公孫瓚だったのだ。

 ちなみに河北とは黄河流域の北方、冀、幽、并の三州を主に指してそう呼ぶ。

 その公孫瓚が勢力を伸ばすと、今度は自分が河北の覇者たらんと野心を抱き、冀州を切り取るべく行動を起こし始めた。実はもう少し込み入った事情があるのだが、ここでは割愛する。

 すると今度は冀州の中で世論が割れた。このまま韓馥が冀州牧でよいものか、それとも黄巾討伐で名を上げている公孫瓚を新たな主君と仰ぐべきかと。

 だが、突如第三の人物が浮上した。それが袁紹だった。

 冀州の国境をたびたび侵す公孫瓚を撃退すべく韓馥は軍を派遣したが実戦を重ねた公孫瓚軍は手強かった。更に河北一帯に勢力を張る、

 黒山賊。

 という賊軍が公孫瓚と手を組んでいたため、冀州軍はこれにも手を焼かされた。 

 韓馥は窮した。そこへ渤海郡の太守だった袁紹が協力を申し出たのだ。とはいえ、袁紹も反董卓連合の瓦解で疲弊していたため、兵、兵糧、軍馬などを韓馥から借り受け、その兵力でもって公孫瓚にあたろうと言ってきた。軍才のない韓馥は了承した。沮授、田豊は危険だと反対したが、審配をはじめとする派閥がこの申し出を受けるべしと主張したのだ。こうして袁紹は大軍を得たのだが、袁紹の参謀の一人、逢紀という男がいっそのこと、冀州ごと頂きましょうと袁紹に進言。袁紹はこの進言を容れ、鄴を包囲し冀州を譲れと韓馥に迫った。この乗っ取り劇は旧知の間柄だった審配、逢紀が水面下で画策したものだった。袁紹の詐欺師のようなやり口に不快感を露にする者は少なくなかったが、またも審配は袁紹に牧の印璽を渡した方が大義であるなどと嘯いた。審配閥は最初からそのつもりだったのだから。

 当の韓馥はといえば、その出自は袁家の庇護下にあった家柄でもあったため、とりわけ漢の名族に対する畏敬の念が強い。袁紹殿のためならばこの韓馥、喜んで冀州牧の印璽をお渡ししましょう。袁紹殿なら、私などより冀州を良く治めてくれるでしょう、などと言い出す始末だった。

 この袁紹の簒奪行為に対する歴史の評価はすこぶる厳しいが、実はこれより約十年後、三国志の英雄、劉備玄徳も殆ど同じ手口で益州を乗っ取っている。両者の評価に大きな隔たりがあるのは、やはり袁紹が早々に乱世から退場したからであろうが、同族の袁術と醜い骨肉の争いをしたのも一因であろう。

 かくて、冀州乗っ取りに成功した袁紹ではあったが、やり口の狡猾さの割には冀州人には好感を持って迎えられた。長らく天下の騒乱から隔絶され、歴史からとり残されたと感じていた冀州人は、やっと乱世にふさわしい為政者を得たと期待に胸膨らませたのだ。乗っ取り劇を演出した審配の人気も更に上がった。鄴の官府に入り、聴衆を前にした袁紹の演説がまた奮っていた。

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