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11 鉄棍使い

敵と審判が声のした方に目を遣ると、二人の男が立っていた。とはいえ、一人は齢六十ほどの白髪の小柄な男。いま一人は異国風の壮年という訳の分からぬ取り合わせだ。年寄りはにこやかに応えた。

「まあ、まあ。そう怖い顔しなさんな。儂らは通りすがりの商人ですじゃ」

「ふざけるな。こんな山中、二人で歩く商人がおるか。なんだ、その得物は」

 敵は年寄りが手にした鉄棍と、連れの男の異国の剣が気になるようである。

「ああ、これは護身用じゃよ。お前さん達のような、物騒な連中に出くわしたときのためのな」

 そう言い終るが早いか、年寄りは鉄棍で兵の足を払い、地面に倒れたところを鉄棍でひと突き。兵は血を吐き絶命した。

「貴様、野盗か」

 敵兵が獲物を横取りされかけた獣よろしく一斉に牙を剥いた。だが、この二人は最初からそのつもりだったようだ。異国の男も剣を抜いて応戦する。かなりの腕だ。だが、それよりも年寄りの武力が凄い。体はそう大きくもないが、その体幹の強さは動きで分かる。鉄棍を自在に振り回し、瞬く間に敵兵十数人を叩き伏せ、たちまち殆どの敵兵が屍を晒した。逃げ出した者は異国の男が追って姿を消した。年寄りは側に置いていたのであろう荷物を背負い、審判に近付いた。だが、審判の意識は朦朧として暗闇に落ちてゆく。

「こんなところにいたのか。あちこち逃げ回るもんだから見つけるのに苦労したわい。全く、世話の焼ける奴じゃ」

 薄れゆく意識の中で年寄りのぼやきが聞こえたのが最後だった。


 審判、雷天の一騎打ちから八年の歳月が流れた建安三年の春、審判は立派な青年兵となり、数年ぶりに実家に帰ってきた。真っ先に出迎えたのは母の永夫人だった。雷天と粛を伴って里帰りした審判は気恥ずかしさで子煩悩な母親に腹が立った。

「お帰り。判。暫く見ない間に立派になって。もっとよく顔を見せておくれ」

「やめてください。私はもう子供ではありません。今日、ここに来たのは父上に話があるからなのです」

 すげなくする我が子に永夫人はうろたえつつも家人に命じて宴の準備を始めた。父の審配は先般、冀州牧となった袁紹の官府に詰めることが多く、家に戻らぬ日も多いという。息子の来訪を下男に告げて走らせたが、戻ってくるにしても夜になるだろうと母は言った。

 審判達は暫し家で待つことになった。

 家と言っても巨大な邸に広大な敷地、そこで働く下男、婢の数に雷天は圧倒されているようだ。幼馴染の粛が我がことのように自慢しているのがおかしかった。

 その間、母親が来て何かと世話を焼こうとしたが審判が邪険にするのであまり近づかなくなった。父、審配には他にも妾がいたが男児を生んだのは永夫人だけだったので、彼女が正妻の地位を射止めたという経緯があった。程なくして使いに出した下男が戻り、審配は夜には戻ると言ってきた。

 冀州の牧は韓馥から袁紹に移っていた。

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