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METARU Sorcery-帝国の基礎魔術-  作者: 高見 敬
第1章-基礎魔術Ⅰ-
23/25

□失踪の朝

「せーちゃん、戻って来ませんでしたね」

「美代子には嘘を吐くような事はなかったんだがな」

「何してるんだろうねぇ」


 ラップで覆われた幾つかの料理。

 せーちゃんがいつ戻って来ても大丈夫なように取り分けてあった、結城家では豪勢な食事。

 点けっぱなしだったテレビが朝のニュースをはじめている。


「やはり警察にお届けになられた方がよろしいのではないかと」

「島津さん? 久太郎は?」

「先ほど八尾から」

「あぁ、真鍋さんを呼んだのね。じゃ島津さんはあたいを?」

「東京本社まで1人でただ車を走らせるのは退屈でしてね。よろしければ話し相手にでもなって頂ければと」


 たまの休暇にオーストラリア横断1人旅なんてするような男が東京―大阪間で暇に屈するものか。


「ありがと、その時はよろしく。しかしポリねぇ」

「警察ねぇ。うちのバカ息子の事なんぞでご迷惑をおかけするのは……」

「おまわりさん方もお忙しいものねぇ」

「どうせポリなんて届けだしても書類作るだけで探さないって。時間の無駄でしょ」

「ご主人、そして奥さま。警官は国民の安全の為に働くのです。これを迷惑だとするならば、何の為に存在するのかを問われます。

 優子様、警官が行方不明者を捜索するかしないかには決まりがございます」

「決まり?」

「いわゆる家族の捜索願しか受理致しません。

 そして事件性がない場合。これは対象者が自分の意思をもって姿を眩ました場合です」

「へぇー、じゃあ探す時も有るんだ?」

「探すべき場合はきちんと探しておりますとも。ただ断られた方の声がいささか大きいだけです」

「じゃあ今回は探すと?」

「明らかに帰宅の意思を示したにも関わらず帰宅しないのは異常事態でしょう。

 未成年であればなおさらです」

「そうかい、まぁ人手は多いに越した事はないね。そっちは任せたよ。あたいとおじさんは近所を……」

「優子様、話を聞いてられましたか?」

「あ~、おじさんは手続きに行かなきゃなんねぇか。おばさんは美代子ちゃんの面倒あるし」

「行き違いで戻って来る事もあり得ます。こちらで待機していただく方が良いでしょう」


 ……あれ?

 外を探すのあたいだけ?

 なんか無駄足になりそうだなぁ。


「優子様はご友人方の協力を仰いで頂ければと」

「ナイスアイデア。じゃあ早速っと……」


 まずは武統会の面子だな。アイツ等ならもう起きてジョギングでもしているだろう。

 高校の……時のは役に立たないな。

 たぶんまだ寝てるし起きていても遠いとかで意味がない。

 中学時代のは起きてるかは判んないが、連絡入れときゃ誰か来るだろ。


 ざっくりと文面を作って一斉送信。


「ん?」

 送った直後に外で電子音が。そしてすぐに返信が。

『結城先輩、まだ戻ってないんですか?』

「あぁこれは失礼」

「いえ、大丈夫です。こちらこそすみません」


 外で聞き慣れた声!


「小田ちゃん! こっち!」

「あ、優子さんお久しぶりです」

「何? 朝からせーちゃんのストーカー?」

「違いますよっ! 優子さんが戻ってるならちょっと会えるかなって、コース変えて来たんです」


 有名メーカーのジャージから少し湯気が上がっており、リストバンドも汗を吸って重そうだ。


「なんだ、優子ちゃんのお友達かい? なんだったら……小田……さん?」

「うん、昨日電話してた例の」

「え〝」

「あぁ、この子が公園で誠一と……」

「ちょ、えぇっ?!」

「そう、そんであたいの自慢の一番弟子」

「ど、どうもはじめまして」


 と、小田ちゃんが頭を下げた所で道からクラクションが。

 警察署まで送る為に島津さんが車を出したのだが、後ろに車が来たようだ。


「おっと、すまないね。どたばたしていて申し訳ないが、ゆっくりしていってくれ」

 おじさんが慌てて助手席側に飛び出して行った。


「ゆ、優子さん……も、も、もしかして昨日の電話……」

「あ、うん、せーちゃん()に居る時だったからみんな聞いてるよ。美代子ちゃんは寝てたかな」

「は、恥ずかしいぃぃっ!」


 顔を押さえて踞る小田ちゃんの背を叩く。


「小田ちゃん、せーちゃんと学校一緒でしょ?」

「はい、学校関係の結城先輩のお友達の連絡先は知りませんよ?」

「ありゃ、そうなんだ」

「学校関係で連絡先知ってるのは、みやち―……宮古瀬さんと」

「剣術部の鷹虎(たかこ)?」

「はい、隣のクラスなんです。あとは山口先生と田中先生と平野先生と……」

「先生ばっかりだな! こっちから教師に伝えると話がややこしくなるからおばさんが学校に連絡してからだな」

「そうですね、私はみやちーに連絡してから帰りがてら何か痕跡が無いか探してみるつもりですが、優子さんはどうします?」

「駅前まで一緒に行こう。この間で何かしらあった筈なんだ」


 おばさんに一声かけてから駅へ向かう道を歩き出す。


「せーちゃんが独自に見つけた近道とか通っていたらどうしようもないなぁ。小田ちゃん知ってる?」

「そこまでストーカーしてませんよ。駅に来るのを待ってたくらいです」

「そっか。まぁ普通そうだわな」

「ちっす、桶場先輩! っと薙刀の小妖精もご一緒ですか。連絡見ましたよ」

「おう、すまんね」


 少し大きな道に出たところで男子薙刀で班長をやっていた子が声をかけてきた。


「結城の家って、先輩ん()の向かいにあるバーベキューさせてもらった工場(こうば)でしたよね」

「おうよ、よく覚えてたな」

「班の連中になるべく道らしく無いところ通ってそこに集まるように指示したんで」

「すまねえな。おばさんにも声かけてけよ」

「へい、了解しやした」


 彼は格好ばかりの敬礼をして他人の家と家との間に姿を消す。


「猫じゃあるまいし、さすがにそんな所には……」

「ここを入る位なら、その2つ向こうの家との間にしますよね」

「え?」


 小田ちゃん、君は一体何を言ってるんだ。


「いや、だってこの隙間の奥だとそのまま今来た道ですから、普通にこの道歩いた方が楽ですよね?」

「そうだね」

「でも、その2つ向こうの隙間なら、月極駐車場の奥になりますから駅前へのショートカットになりますよね?」

「うそん、ずっと住んでいたけど判んなかったぁ。なんで小田ちゃん知ってるのさ」

「地図見たら解りますよ」

「生まれ育った所なんて、地図を見なくても困らないし」


 小田ちゃんの言う隙間を除き込むと、防犯ライトが点灯する。

 もう明るいが、センサー部分はまだ影なんだろう。


「音のなる石が敷かれていますし、誰かがよく通って迷惑に思われたんでしょうね」

「でもこれじゃ向こうからは飛び降りたくないな。踏ん張りが利かないからコケる」

「ですね。日頃の近道には面倒です」


 本来の通り道をゆっくりたどる事にする。

 道路脇の側溝なんかも何か落ちてやしないか注意しながら。


 途中、何人もの後輩達が思わぬ所から飛び出して来て挨拶をして走り抜けて行く。


「さすがに、コンクリの蓋がしてある井戸には落ちないと思うがなぁ」

「そこに居たら完全に犯罪に巻き込まれたって事ですよね」

「誰かが蓋を戻さにゃならんものな」


 二人組で蓋をずらしてスマホのライトを使っている門下生達を見ての感想だ。


 ただ、探し物をするときは「そんな所にあるはずない」と決め付けると余計に見つからない物だし、自由な発想に任せるとしよう。


「落ちないよう気を付けてな!」

「はい! ありやっす!(ありがとうございます)


 思ってたより多くの門下生が動いてくれてるもんだな。

 せーちゃんの顔を知ってる面子に限定したつもりだったが、そいつらが今の仲間達も動員してくれたようだ。


「小田っち~」

「あ、みやち―!」

「おう、宮古瀬。悪いな狩りだしてよ」

「うっす、仲間の大事は自分の大事っすから」

「なんだか眠そうだが大丈夫か?」

「いやぁ、体を動かし足りなかったみたいで、晩飯くった後からなんかモヤモヤして寝付けなかったんすけど、ここまで走ったらバッチリっすよ」

「そうか、無理すんなよ」

「いつも学校で寝てるんで問題ないです」


 学校で寝てるから夜眠れないんじゃねぇの?


「んで、おな中の結城っちの取り巻きやってた子には連絡してたっすけど、まだ返事は無いっす」

「そりゃちゃんとイッてからじゃないと返事できねぇだろぉ」

「も~、そのオナ中じゃないっすよぉ!」

「???」

「小田っちが書いてきたんじゃん、中学時代の取り巻き組なら今の取り巻き組と繋がりある人も居るかもって」

「う、うん……オナ中?」

「同じ中学でおな中な~」

「それは判るんだけど……まぁ良いか」

「直接連絡取れる知り合いは居ないんすよね~」

「そうか~、ごめんね?」

「とかなんとかやってる内にに駅前に着いちまったな」

「そうですね、ここで……」


 駅前公園に入ると、ベンチ前の地面が湿っている。


「そういえば、お茶……」

「お茶?」

「たいした事じゃないんです、結城先輩にそこの自販機でお茶を買って頂いて、お話しながら飲んでて……。

 落として溢したんですけど、そのまま片付けずに行っちゃったなって」

「あ~それはもう、拾って持って帰ってペロペロしてるに違いないネ」

「帰ってないんだってば」

「それに、そんな事したら間接キッスじゃないですか! 結城先輩はそんな事しません!」

「だな。したけりゃ直接するさ」

「「えええっ!」」

「なぜ二人とも驚く」

「だって、結城っちってヒョロこくて、そんな男らしい事をしそうにはないかな」

「だって、結城先輩ってスマートで優しくて、キッスは大事にしてくれそうで」

「君ら、友達なんだよな?」

「たd「親友です」かなぁ」

「あ~、そういう感じね。うん。宮古瀬、すまんがコイツよろしくな」

「任されたっすよ」

「任されたって何よ~、今度からテストのヤマ教えてあげないんだからっ」

「ちょ、サーセンした。いつもお世話になってます」

「わかれば良いのですよ」


 なんだ。心持ち小田ちゃんからの距離が近いけど、それなりに上手くやってんじゃないか。

 これなら小田ちゃんも普通の高校生をやっていけるだろ。


「そうだ。今から一端帰って、ここで取り巻きの人を待ってみます」

「わかるのかい?」

「話はしたこと無いですけど、いつも見てますから」

「ウチは……ゲッ! もう行くっすね! 遅刻したら代返よろ!」

「む、無理だよぉ!」


 かなりの全速力で走り出した宮古瀬。

 100m走じゃなかろうに……


「宮古瀬の家って遠いのかい?」

「駅だけなら京阪の方が近いくらいなんですよ。乗り換えの手間を嫌がって、普段は自転車でこっちに来てますけど」

「そりゃ悪い事をしたな……小田ちゃんは大丈夫? 着替えとか時間足りそう?」

「全然余裕ですよ」

「そうか?」

「だって、バス使いますもん」


 そうか、じきに通勤通学時間だから次々に来るし、ちょっとの区間でも走るよりかは速いよな。



 ……宮古瀬にもバスの事、教えてやれよ。

 真鍋さんというのは、MIZUYAが懇意にしている航空会社のヘリパイロットで、久太郎が必要とする時は大抵彼を指名して利用しています。

 優子が決めつけで「真鍋さんを呼んだ」と思い込んでいますが……東京⇔大阪間をノンストップで操縦させるような鬼畜行為はしていません。

 久太郎は八尾空港では別の「会社が懇意にしている航空会社系列」のセスナをチャーターし戻っただけです。


 小田ちゃんの空間感覚は、彼女の数少ない『天性の才能』です。

 全く始めての土地を歩き回り最初の地点に最短距離で戻ったりも可能ですし、暗闇の中を数時間歩き回っても最初の地点との位置関係が判っていたりします。

 そこいらの人ならスーパーのレジ袋2つに入れる所を1つにまとめたりするのも得意です。

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