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METARU Sorcery-帝国の基礎魔術-  作者: 高見 敬
第1章-基礎魔術Ⅰ-
22/25

□入院

 もしかしたら魔法はある?

 いや、この世界に魔法がある事は判っているし、異世界なんだから仕方ないとは思う。

 けど、俺の世界にもあって、俺の知らない所で使われていて。


 なんかムカつくな!!


 漫画や小説みたいに、悪者退治したりなんかだと許せる気がするけど、そんな悪党はそうそう居ないし。

 よくチカチカしてたって事は、日常的にこっそり魔法使ってズルしてる奴がいるって事だよな。

 絶対に対抗手段を見つけて帰って痛い目にあわせてやる。


「結城さん、検温お願いしま……って! 汗かくほど運動して! 先生には安静にしているように言われているでしょ!」

「え~、腹筋は筋トレであって運動じゃないでしょ~?」

「ダメです、腕立て伏せも懸垂も禁止です!」

「じゃ何だったら良いんですか?」

「横になってじっとしている事は許可します」

「そんな~~」


 ここは警察に拘留された人や犯罪者と確定した人だけが入院する、一般患者とは隔離された病棟。

 大部屋だが他に入っている人もおらずがらんとして静か。

 その隔離された部分以外には一般の入院患者や見舞いの人の気配がしている程度。


「猿飛さんどっか行ったから話相手も居ないし、暇なんですよ。何ならお姉さん、ここで性的看護とかしてくれます?」

「常時血圧や体温を平常に保って、検温の邪魔にならないなら良いですよ~」

「無理じゃん。検温に来ない時は忙しそうだしさ」

「ふふふ、まぁまず体をしっかり治して下さいね。う~ん、やっぱり血圧高いし脈も早いですね。平常時の体温血圧とか計ってました?」

「美人の看護師さんに触られちゃそうなりますよ」

「はいはい、ありがとありがと。どう考えてもさっきの運動が原因です。5分ほどしてから測り直しに来ますね。それまでの間はじっとしているように」


 病室を出る看護師さんの背を見送り、制服がもっさりというか、センスが古いというか、オバサン臭いというか。元の日本の方が洗練されて居たんだなぁとつくづく思う。


 スカートにしろとは言わないけれど、もんぺみたいな足首で括ってるのではなく、細身のズボンの方が見栄えするだろう。

 割烹着みたいなエプロンだって無い方がすっきりするはず、何だったら白衣を羽織ったってカッコいいよな。

 靴だって低めのヒールのパンプスの方がきれいに見えるのになぁ。


 とか考えていると、別の看護師さんと警官が向かいの個室に入って行った。


「それじゃ出します」


 警官がどこからともなく透明な水晶の結晶を大きくしたような何かに閉じ込められたミイラ男を取り出してベッドの上に解放する。

 ミイラ男と言っても全身包帯でぐるぐる巻きという訳ではない。


 確かに顔の判別ができない程にガーゼが当てられていたりするが、ミイラ男と思ったのはそれじゃない。

 胴着の帯より太い拘束帯で両手両足を縛られ、身動き1つできないようにされている。


「もう1人は別の部屋に」


 そう言って警官と看護師は施錠してから見えない角度にある部屋に向かった。

 ずいぶん俺とは扱い違うな。

 こっちはあれほど厳重な拘束された事はないし、扉だって開けっ放しだ。


「……むしろこのまま脱走した方が盛り上がると思いません?」

「思いません。やめて下さい」

「うわあっ! びっくりしたぁ!」

「ダメですよ、脱走なんて」

「もう5分経ちました?」

「時間としてはまだですけど、落ち着いてたらさっさと片付けたいので」


 ベッドに戻り体温・血圧・脈のセットを図る。


「はい、大丈夫です。他に何かお変わり無いですか?」

「変わりが無さすぎて退屈です。何か暇を潰す本とか無いですか?」

「各宗派の写経用教典なら有りますてど?」

「いやいや、漫画とまでは言わないけど、もっとバラエティー色のあるラノベとかないっすか?」

「ばらえて? あぁVarietyですか。Rhynob……」

「ライトノベル、小説」

「あぁnovelね。わかった、なんとかするから言うこと守ってね?」


 担当看護師さんと話している内に気付いた事がある。

 この世界の人、基本的にカタカナ言葉に疎い。

 猿飛さんは聞いた事はあるけど思い出せなくて文脈から想像しているような。

 担当看護師さんは近い英語を充てて、そこから連想している感じで、お医者さんはもっと別の言葉まで遠回りしているようだ。


「これで良いかしら?」


 一旦詰所まで戻ってしばらくして引き返してきた担当看護師さんがばさりと……


「これは?」

「原稿用紙と万年筆です」

「え?」

「心配しなくても、墨も持ってきてますよ」

「看護師さん、ハリセンって持ってます?」

「張り扇ですか? ありますよ?」


 受け取ると盛大に振りかぶって……

「ライト違いじゃぁぁぁ!!」

 スパーンと軽快な破裂音が響く。

 Write novelでラノベってか。


「っつぅ~。だ、ダメですよ、急激な運動は体に良くありません」

「誰のせいだと」

「ライト違いって事は……」

「ルクランでもローリングでもウィルバーでもオービルでも無いです」

「じゃあキャサリン……でも無いのね」


 もう一度振りかぶったハリセンを見て慌てて訂正する看護師さん。


「あれ?」

「どうしました?」

「看護師さん、ライト兄弟は判るの?」

「有名人じゃないですか。動力型航空実機実験で」

「実験? 初の飛行機でなく?」

「ええ、彼らが……なんちゃら式飛行理論を完成させました。これにより、それまでの箒やカーペットでの空中浮遊より段違いに効率化されたんです」

「この間みたアニメと違う……。たぶん看護師さんの言ってるライト兄弟と俺の知ってるライト兄弟は別なんだな」

「あぁ、ライト兄弟の同異体がいらしたんですね。偉人ってのはあらゆる世界で偉人なんですねぇ。

 それでライト兄弟のライトでも執筆のライトでもないとすると、(light)の書(novel)なんてのはここに置いてませんよ?」

「軽いのライトです、ライトなノベルでラノベっす」

「軽い小説? よっぽど頭を使うのが嫌いな国の出身なんですね、小説より更に軽いなんて」

「逆かもよ? 小説家が文化人を気取ってあんな文章を俺のと一緒にするなぁって細分化させたとか」

「あ、 猿飛さん居たんすか」

「今戻った所だよ。悪いが娯楽物の提供は無しだ。居心地良すぎるとわざと事件起こす奴まで現れかねん」

「ぐう」

「まぁ、食事は担当医の先生と相談の結果として割としっかりした物が出る事になったからそれで我慢しな」

「割とかぁ」

「量だけならかなりあるぞ」

「味は?」

「……量は満足するはずだ」

「私、ここの病院食苦手なんでわからないかな~」


 苦手って事は食ったことあるんじゃん。


「良いですよ、味は期待できないって事ですよね」

「頑張れ」

「食事と思わず、お薬だと思えばなんとか」

「なんとかってレベルなの?!」


 なんだろう、この低評価

 よく病院の飯はマズイとか、その風評を払拭する為に美味しくしたとかの話は聞いたけど、ここまで言われるかな。

 何か怖くなって来たんだけど。


「まぁ、栄養面は万全だから」

「量も満腹になるくらい食えるなんて、ここに入る奴じゃそうそうないぞ」

「そっか、まぁ仕方ないっすね」

「うん、そう言って貰えると気が楽だよ」

「で、その食事はあとどのくらいで?」

「夕食からなので、あと2時間ほどですよ」

「長いな……」

「2時間なんてすぐだよ」

「やることある人はそうですよね」

「こっちなんてお前の見張りしかやる事ないけど、食事なんて出ないんだぞ」

「それで外で食って来たんすね」

「おう」

「俺の昼飯は?」

「……忘れてた。看護師さん、病院からは……」

「午後から病棟に上がって来てて、出る訳ないじゃないですか。それより昼食とって無いのに運動してたんですか?!」

「おい、不足分の補充が済むまで危ないって言われてたろ!」

「聞いてませんよ!」

「お前が上の空で聞いてなかっただけじゃねぇか!」

「そうとも言う!」


 なんとなくそんな感じの事を聞いたような聞かなかったような。


「人間、栄養が足りない場合はある物を分解して使いますから、骨とか筋肉とかから奪われますよ?

 そんな状態で定着したら、寝たきり生活まっしぐらですからね?」

「おおげさな……」

「あのな、お前の体重15kg足りないって言ってたろ?

 これな、普通は6kgで限界だ。お前が特別に計算して絞り込んだ運動選手であったとしても、8kg以上は絞ってはいけない領域だ」

「ぇ~と、体脂肪的な?」

「体脂肪率だと計測時点で11%だがな。まだまだ時間経過と共に下がるはずだ。不足分の体組織を補う為にな」


 体脂肪ってのはリザーブタンクだと聞いた事がある。

 数分・数時間程度の試合をするには無駄な重みになるが、数日単位の長期戦・持久戦になった場合に脂肪の無い体は弱い。

 ボディービルダーのような体脂肪率一桁なんてのは厳禁だと指導された。


「あれ? 俺、かなりヤバイ?」

「自覚が無いのが最も危険ですね。

 きちんと食事を採っていれば、10日もすれば元通りですが、不足している体組織を補う為に脂肪などを優先にどんどんと分解再構築が行われている最中。

 そんな中で別途消費すれば血管破裂したりしますよ?」

「ごめんなさい」

「全く動かず寝たきりも良くないので、食後に軽い体操するくらいはしてください。食後ですよ」

「はい」

「あっ、汗をかかないくらいですよ!」


 えぇぇ~~、そんな軽くなのか。

 準備体操くらいしかできないのか。

 廊下でダッシュくらいはしたかったよ。


「お前の軽くって、どの程度なんだよ」

「顔に出てました?」

「そりゃもう」

「でも仕方ないっすね、病人……怪我人? なんだから。猿飛さんに色々教えてもらって時間潰すしかないっすね」

「いや、俺はもう帰るからな?」

「え?」

「え? って何だよ。今日は何時間お前に付き合ってると思う? 既に勤務時間過ぎてんだよ。今日はこのまま直帰だよ」

「そんな公務員みたいな事を」

「公務員だよ!」

「退屈過ぎて脱走したらどう責任とるつもりですか!」

「おぅ、その時は責任持って現行犯処刑しに行ってやるよ」


 脱走なんてするつもりないけど!


「とりあえず、この同意書をしっかり読んで署名な。なるべく早く看護師さんに渡すように。こっちは注意事項。

 荷物は看護師さんに預けておくから、どうしても必要な物があるなら出してもらうように」

「どうせ退屈だし中身の整理でもしておきますよ」

「どうしても必要ならって言ったろ、必要で無いなら受け取れないからな」

「俺のなのに?」

「安易に例外は作れん。諦めろ。

 それじゃ裁判までおとなしくしてるんだぞ。面倒事増やすんじゃねえぞ」


 帰る猿飛さんと詰所に戻る看護師さんを廊下で見送った。


 既に暇だ。

 これは……暇死するかもしれないな……。

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