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METARU Sorcery-帝国の基礎魔術-  作者: 高見 敬
第1章-基礎魔術Ⅰ-
18/25

□夢であえたら

 夢を……夢を見ていました。


 舞台は学校。ちょうど今日の夕方の再現。

 着替え終わって胸のリボンを正していると、友達が「温水シャワーは良いけど、そのあと部室棟まで来なくちゃいけないのは寒いよね」と言うと先輩が「陸練で汗かいたからシャワー浴びていきましょうよなんてって言ったのはだあれ」と返すなんて一緒。

 違うのはそこで私が「汗でぬれた体操服に着替えて、またここで制服に着替え直さなきゃいけないのも失敗ですよね」と言う所。

 実際の時は口に出す機会を掴めずにニコニコ笑っていただけ。


「ほらほら、無駄話してないでさっさと着替えて帰る!」

 指で部室の鍵を振り回しながら顧問の先生が入ってきて退室を促す。


「じゃお先に失礼します「お疲れ様でーす」」


 私と友達の声がハモり、外に出ると、正面に男の人が立っていました。

 友人と共通の友達で、私の数少ない「怖くない男の人」です。

 男の人なのに、女の子の遊ぶゲームもよく知ってました。

 男の人なんだけど、女の子の友達と話す時と同じような感覚で話せる人です。


 好きか嫌いかで選択するなら好きになるけど、恋愛対象かと聞かれると違うかなって思うくらいの。

 恋愛対象なら幼稚園から一緒の……


「あれ? くるみちゃんじゃん、どうしたのこんな所で?」

「結城君こそどうしたの、その恰好。変よ」


 夕方見た時は図書委員の仕事で本がいっぱい入った箱を持っていたのだけれど、夢の中の結城君は裸足でどこかの旅館に備え付けのような浴衣を着ていました。 


「おっ、いつもと違って言ってくれるねぇ」

「夢の中の私はちょっとダ・イ・タ・ンなのですよ?」

「そっか、夢かぁ夢なら仕方ないなぁ。いつものくるみちゃんも可愛いけど、こっちのくるみちゃんも魅力的だよ」

「またそんな事言ってぇ。『ゆーこさん』って人に全部教えちゃうんだからねっ」

「ははは、そりゃマズイ。これは2人の秘密って事で」

「みんなに言ってるくせに」

「バレテタ!」


 こんな時の結城君の言う秘密ってのは全然秘密じゃない。みんな知ってる、結城君もみんなが知っていると知っている。


「でもそっかぁ夢かぁ……」

「どうしたの結城君?」

「いやぁ、迷子になっちゃって、どうやら異世界に来ちゃったみたいで帰り道聞こうかと」

「いくら私でも異世界からの帰り道なんて知る訳ないでしょ! もうっ!」


 ちょっとぶりっこが入った拳を作って振り上げる真似をする私。

 夢じゃなきゃこんな事はできない。


「お~、ぶりっ子系アイドルとかやるやつだ。似合うじゃん」

「そう? アイドルでもやっていけるかしら?」

「いけるいける、ネットとかに動画上げたら再生数20くらいは行くんじゃない?」

「そうかしら? って、こらぁ!」

「あはは、ごめんごめん、じゃまたね」

「うん、また~」


◇◆◇◆◇◆◇


 夢をみていました。


 舞台は日本海上空、約15000m

 空には星と月の代わりに、鯨とそれより巨大な木馬が描かれています。


 アメリカのステルス爆撃機の上で仁王立ちをする小さな女の子が先頭。

 その右側に膝をついて長銃を持つ結城先輩。

 女の子の左には私が光子槍(フォトンランサー)を手に控えています。


 翼が接触しそうな距離を飛ぶロシアの戦闘機は冠を被った骨格標本(スケルトン)が操縦し、金髪の女が尾翼の手前に跨がっています。


 反対側には大きな龍。その頭に座る蒼い髪の女の子は、私を見てアッカンベをするのです。

 すぐ下をボートを牽引した車が捩るような回転をしながら追い抜いていき、箒に乗った巫女さんはどこからか墜ちてきたはたきを抱いた魔女っ子を空中キャッチ。


 ご近所に住むインドの人が座ったまま下から上へと飛び去り、一本角を生やしたペガサス(有翼馬)が、銀甲冑に身を包んだ女騎士を背に乗せていて、その横を鹿の縫いぐるみがトテトテと抜いていきます。


 そして腕を組んだまま女の子が叫ぶのです。

「てめぇら、二次会程度で脱落すんじゃねえぞ!」

「「「「お-!」」」」

「最後まで付いてこれるかぁ!」

「「……ぇ?」」

「どうしたぁ、声が小さぁい!」

「やだヨ」

「那是不可能的」

「帰ってシャンポールにご飯あげなきゃ」

「アニメのCMカットしなきゃいけないから」

「て、てめぇら、いい度胸だ! こっちの太歳の腐れポコチンぶっ千切ったら、順番にてめぇらの股ぐらに……」

「####ちゃん!」


 乱暴な女の子を叱りつける私。


「ダメでしょ。もっとお上品に。言葉を選んで」


 どうやらこの場を仕切っているのはこの女の子だけど、普段の立場は私の方が上みたい。


「ん~~と、後で覚えてなさいよ、太歳のおチンポを切断しあそばしたら、貴女達のお性器にご挿入してさしあげて足腰立たなくなるまで責め明かしますことよ」


 いやいや、それ全然だめ……って、夢の中の私もウンウンと頷いてるんじゃなぁい!

 必死のツッコミも夢の中の私達には届かないみたい。


「あれはどうする?」

「問題ないよ。続けるといいさ」


 トンガリ帽子をかぶった耳の尖った小人と結城先輩が私の方を見て話す。

 私? そう夢の中の私じゃなくて、夢を見ている私の事みたいに。

 小人がパチリとウインクすると現れた時の様に姿を消しちゃう。


 今度は背中に蝶の羽をはやした妖精がどこからともなくやってきて、女の子に耳打ちします。


「来るぞ! 総員備ええぇ!!」

 

 皆が一点を凝視する、その先には海面。

 その海の底から巨大な泡がいくつも吹き上がり、真っ白になって。

 海底を喰らい尽す巨大な穴が不均衡な青と緑と紫のモザイク模様となって――


◇◆◇◆◇◆◇


 夢を見ていた。


 自分はなぜか厚切り大盛りチャーシュー麺定食の、麺スープもやしチャーシュー抜きの飯餃子無しを頼んでいた。


「それ美味いんすか?」

「美味いぞ、食ってみるか?」


 言ってる自分もなぜそれが美味いと思えるのか判らない。

 器の中は謎の湯気で何が入っているのかさっぱりわからない。


「じゃ、俺もアニキと同じヤツを」


 即座に注文したの同じ物が差し出される。

 すぐに湯気の中に顔を突っ込み、それを食べ始めるソイツ。


「ふはふは、なるほど。

 こいつの中まで染み込んだ旨味が、柔らかくなった繊維質と見事に絡み合って、はふはふ、舌の上でほどけて……」


「だろ?」

「あっ、これもしかしてこの『この店秘伝の塩胡椒』をかけたら……うほぉ、旨味と甘味の中に微かにピリリと来る感じがたまんねぇ」

「なに?! 俺もやって見るぞ」


 カウンターの塩胡椒を手に取るとぱっぱっとふたふり。


「あっ、アニキかけすぎっすよ。

 ひとふりと12粒が最適っす」

「そんな細かい事を気にしてられっか」


 意地になってもうふたふり。


「う、うめえよ?」

「なるほど、強がりも男の生きざまってヤツですね!」

「うっせえ、早く食え」

「ヘイ、アニキ!」


 夢なので味なんて全く解らないが、夢の中の自分は半べそになりながら“ソレ”を完食した。


「大将、お勘定」

「今日はお連れさんの食いっぷりに免じて弐万ポッキリで勘弁してやらぁ」

「気前良いね、太っ腹ぁ」


 財布からカードを取り出すと店主に差し出す。


「ここから引いといてくれ」

「まいどっ」


 のれんをくぐり、外に出る所でふわりと引かれるような感触。


 しかし、夢の中の自分は一体何を食べたのだろうか?

起きている時はできなくても、夢の中なら普通にできるとかありますよね。

くるみちゃんと一緒に出てきた友人?

夢の中ですからいつの間にか居なくなってたりするものです。



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