閑話 新たなる戦い
今日は2話投稿、これは2話目になります。
ご注意ください。
これは本編にあまり関係の無いギャグ回です。
苦労人のアンドレにも春が来た。
開拓地の南岸に、プニエという騎士家の領地がある。
当主はピエール・ド・プニエ、弱冠13才だ。
この若きピエールの父は俺の指揮下に入り、ベルジェ伯爵との戦役で共に戦った仲だ。
しかし、親父さんは武運つたなく戦死してしまい、ピエールが家督を継いだらしい。
このピエールの領地と橋を架けたいと思い、許可を貰いにお邪魔をした時のことだ。
「もちろん構いません。人の往来が増えることは我が領にも利益となりますから」
年若いピエールに代わり、彼の姉が答えた。
彼女はヴェラ。
まだ年若いピエールを補佐するしっかり者の才女だ。
父親が存命の頃より家政を手伝っており、実質プニエ家を取り仕切る存在である。
しかし、父親が彼女の才を頼みにしていたために婚期が遅れてしまい、しかも運悪く父が戦死してしまう。
彼女は結婚どころでは無くなり、幼いピエールを必死で補佐した。
下手な親族に任せては財産が好き勝手に食いつぶされ、プニエ家のような小貴族はあっという間に没落してしまうからだ。
ヴェラが領地のやりくりを懸命にこなすうちに月日は流れ、22才の今まで未婚を余儀なくされていた。
この時代の貴族で22の女性は老嬢……行き遅れだ。
行き遅れれば体や性格に難があると判断され、さらに縁遠くなる。
ヴェラも結婚を少し諦めている雰囲気があった。
しかし、俺の見るところヴェラは可愛らしい女性だ。
栗色の髪にブラウンの瞳。
少し癖毛のようでクルッと内に巻いた髪型がキュートだ。
少しポチャッとしているが、胸も尻も大きくて見るからに張りがある……実に素晴らしい。
一目惚れだ、結婚したい。
……可愛くて領地の運営ができるなんて最高の女性だ。年上の所も良い。お姉さんの大きな胸で甘えたい……
「プニエ卿、ヴェラ殿……これからは隣に領地を持つことになる。できれば親しくお付き合いをしたい……たまにお邪魔をして良いだろうか?」
「もちろんです! こちらもお邪魔して宜しいでしょうか?」
俺の申し出にピエールは喜び、俺とプニエ家の交流は始まった。
俺はなんとかヴェラと仲良くできないだろうかと、お邪魔する度にピエールとヴェラにプレゼントをして猛アタックをした。
「バリアン様、父上の話を教えてください」
「……プニエ卿は勇ましかったぞ、俺とレスリングをしたこともあったな……」
俺が先代のプニエ卿の話を伝えるとピエールは喜び、ヴェラもニコニコと見守る。
そのうちに俺は2人のことを「ピエールくん」「ヴェラさん」と呼べるほどには親しくなった。
……スミナは怖いけど、ヴェラには開拓地に住んで貰って庶務を任せよう。領都に連れていかなければバレるはずもない(作者注※王都のことは忘れたようです)……
俺はヴェラとの生活を想像し、愛の巣となる開拓地の発展に全力を注いだ。
そして
なぜかヴェラはアンドレとくっついた。
実務レベルで度々に顔を合わせていたのがいけなかったらしい。
「恋人ができました……結婚を考えています」
アンドレが報告に来たときは「ふーん、良かったね」みたいな雰囲気だったのだが、相手がヴェラだと知っては許しては置けない。
「アンドレ、俺もヴェラが好きだ。決闘しろ」
「何でですか!? バリアン様は結婚してるじゃないですか!?」
アンドレが俺から逃げ回り、ジャンやロロも大笑いした。
……皆、俺の冗談だと思ってやがる……畜生!
俺はフラれたショックを怒りに変えてアンドレを溜池にぶん投げた……やっぱり皆はゲラゲラ笑い、アンドレも笑っている。
俺は顔にかかった水飛沫を拭うふりをし、涙をそっと隠した。
………………
それから、俺がプニエ家を訪れる回数は減ったがこれは仕方ないことだろう。
「私が訪れるとアンドレが嫉妬するのですよ。ヴェラさんを他の男には見せたくないらしい……はは」
俺が冗談を言うと、ヴェラはポッと頬を染めた。
……アンドレ、許すまじ……
恨みで人が死ぬのならアンドレは5回は死んだはずである。
聞けばアンドレとヴェラは同い年と言うこともあり、すぐに仲良くなったそうだ。
秋口に結婚することも決まったらしい。
出会って数ヶ月のスピード婚だ。
結婚してからもヴェラはプニエ家におり、ピエールの成長まで家政を見守ることになったそうだ。
アンドレの通い婚になるが……これはちょっと珍しい。
……くそっ、この泥棒猫め! 俺のヴェラを返せ!
俺は「ぐぬぬ」とアンドレの結婚式で歯噛みをしたが、もはや遅い。
……ああ、俺のバカ……水車とか踏み車とかどうでもいいだろ……優先順位を間違えた……
結婚式で俺が落ち込んでいると、ピエールがニコニコと近づいてきた。
少し興奮した様子で顔が上気している。
「あのバリアン様と縁続きになれるなんて光栄です! また色々とご指導ください!」
そう、プニエ家はコカース家を通してウチと縁続きになった。
これ以後、ピエール・ド・プニエは俺の強力な与党となるのである。
俺のプレゼント攻勢は意外なところで成果を出し、ピエールは俺の事を慕っているようだ。
……しかし、ピエールくんはヴェラと良く似ているな……胸がちっちゃいけどボーイッシュ(作者注※男の子です)で可愛らしい感じだ……あれ? この子で良くね?
「……そうだな、これからは親戚として仲良くしよう……ところでピエールくんには恋人はいるのかい?」
「えっ!? その……いません」
ピエールはポッと頬を赤らめた。
表情がヴェラに実に似ている。
……ヤバい……何か変な趣味に目覚めそうな……
俺は下半身に理性を総動員して必死で抑え込んだ。
性欲軍の勢いは凄まじく、俺の理性軍の最後の砦は陥落寸前だ。
もはや予備役まで動員した総力戦である。
激しい戦いの後、辛うじて理性軍が性欲軍を鎮圧し、新たな扉が開くのは阻止された。
だが、ピエールがいるかぎり第2第3の戦いは続くだろう。
俺は負けてはならぬ戦いの幕開けを感じ、ブルッと身震いをした。
54話を書いてるうちに膨らんだので閑話として独立させました。





