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51話 王宮、松の廊下

少し下ネタがあります。

苦手な方はご注意ください。

 冬の間、俺は度々と王宮に呼び出されることになった。



 理由は宴会に呼ばれたり、王様と雑談したりだ。

 大したことでは無いのだが、マメに王宮に出入りする俺はやはり目立つらしい。


 人によっては羨ましがるかも知れないが、正直なところ宮廷闘争とかしたくない俺には少し迷惑だ。


 ……俺と王妃さまとの詩作の秘密レッスンとかなら喜んで来るけどな……まあ、そんな事はあり得ないか。


 王妃さまは50前くらいだ。

 熟れきった女の魅力があり、これはこれで悪くない……王妃様はいつも俺が熱っぽい視線を送ると微笑んでくれる。エロい。


 ちなみに王宮の宴会と言えばマナーが煩そうだが、そんなことは無い。

 出てきた肉に群がって手掴みで食えばいい……王宮でコレとか原始人かよ。


 王宮では、たくさん食べると何故か尊敬される……どうやら食欲も身体能力のうちだと考えられているようだ。

 体の大きい俺の食欲は無尽蔵であり、本当にいくらでも食える。

 まあ、キリが無いから普段は4人前くらいしか食べないけども。


 そう言えば、マナーと言えば、食事にナイフやフォークは使わないのだが……これは以前、宴会で喧嘩騒ぎが起きたときにナイフで無双したヤツがいたかららしい。

 運悪く怒れるナイフ男は達人で、ナイフだけで王様含む17人を殺害したそうだ……そりゃ宴会でナイフ禁止になるわ。


 フォークは見たことがない。たぶん無いんじゃないかな?



 王様は「バリアンよ、バリアンよ」と俺を可愛がってくれる。

 王子様も王妃様も良くしてくれるので居心地は決して悪くないのだが……やはりそこは色々ある。

 王宮とは権力闘争の場なのだ。




………………




「バリアン殿の武勇と詩才は聞き及んでおります。正に文武両道、稀代の……」

「……ありがとうございます。恐縮です」


 今日も知らない貴族から話しかけられた……いや、それは良いんだけどさ……


「今日はお近づきの印にこちらを……」

「これはこれは結構な……痛み入ります。何よりのモノを……」


 コレである。

 プレゼント攻勢だ……まあ、俺も大人だから無難に貰えるもんは貰って、後日に同程度の品を返している。


 しかし、プレゼントってのは貰うのも意外と難しいものだ。

 無難に喜んで、興味の無い相手から興味の無い話を聞く……罰ゲームかよ。

 コイツはマ○毛みたいな名字の男爵だったけど……名前のインパクトが強すぎて全然話が頭に入らないぞ。


 マ○毛男爵は背が低く、胡散臭げな髭を生やしている。

 出っ歯が目立ち「シェー」とか言いそうだ。


 俺がマ○毛の話に適当に相槌を打つと、立派な身形の男が割り込んできた。


「この前の話は考えてくれたかバリアン?」


 俺に話し掛けてきたのは大勢の取り巻きに囲まれた恰幅の良い中年だ。

 この男はマティアス・ド・アモロス……世に言う「王弟」である。

 逆立った金髪にワイルドな顎鬚(あごひげ)……ライオンのような印象で背も高い。

 とても強そうだ。


「は……以前にも申しましたが、私には判断はできません。父と相談をしてお返事をいたします」


 王弟は「ふん」と詰まらなそうに鼻を鳴らした。


「難しい話ではないだろう。お前の望みを言え、俺が叶えてやる。だから俺が王に成るのを手伝え」


 この男は野心を隠す気が全く無い……簒奪を堂々と口にする。


 俺が黙って頭を下げると、王弟は興味を失ったようで次のターゲットに話し掛け始めた。


 ……ふう、相変わらずトンデモ無い弟だな……陛下も大変だ。


 今の俺は国王派だが、これはルドルフが国王派だからである。

 言ってしまえば、ファジーに国王派っぽくしてるが、実態はノンポリだ。


 その辺は周囲も知っていて、自分の派閥に取り込むために王様も俺を可愛がってくれるし、王弟も熱心に勧誘してくるのである。


 代替わりに派閥が変わるのは珍しくはない。


「バリアン殿、困りますな……先程も申しましたように……」


 マ○毛男爵が慌てて小声で話し掛けてきた。

 どうやら王弟派への勧誘をしていたらしい……要領を得ないので雑談だと思ってたぞ。


「マ○毛男爵、私には政治のことは分かりかねます。父に相談なされよ」

「……メンゲです。しかし、バリアン殿は伯爵家を継ぐ身です。良く良くお考えを……」


 しつこい……マ○毛だかメン毛だか知らんが、反物を貰ったくらいで派閥が変わるはずが無いのが分からないらしい……なんかムカついてきた。


「マ○毛男爵、私はね、そんなことよりも人の首を折るのが大好きなのですよ、今度お見せしましょう」


 俺がメンゲの肩を掴んでメリメリと力を入れると「ひいい」と憐れなほど取り乱し、メンゲは王弟の方に逃げ出した。

 陰謀家気取りの小物の相手も疲れる。


 しかし、メンゲはともかく王弟にはカリスマがある。

 野心に満ち溢れた逞しい男……あの男から「望みを言え」と言われたら叶えてくれそうな雰囲気があるのだ。


 正直、貧相な王様では分が悪い。



 俺は関わらないのが一番だと王宮を後にした。




………………




「バリアン様、宴会はどうだった? 旨いもんでた?」


 屋敷に帰ると、退屈していたジャンが話し掛けてきた。

 冬はすることが無いのだ。


「ああ、詩を作ったり、王妃様と花とか鳥の話をしたり、王弟派から勧誘されたり……」


 ジャンは「おえっ」と舌を出して笑った。


「なんだそりゃ? 王宮ってのはバカバカしいな」

「ああ、俺もそう思うよ……アンドレ!」


 俺はアンドレに反物を渡した。


「マ○毛って男爵から貰った。適当に同じくらいの値段のモノを返しといてくれるか?」

「分かりました……その、マ○毛? ……ですか?」


 アンドレが困惑した顔を見せ、ジャンがゲラゲラと笑った。


「いや、違うな……乳毛? チ○毛だっけ? そんな感じだ。頼むよ」

「は、はあ……乳毛ですか」


 アンドレはジャンに「どうしよう?」と相談した。

 無慈悲なジャンは「頼まれたのお前だろ?」と、にべもなく立ち去った……俺が言うのもなんだがヒデエな。


 まあ、アンドレならなんとかなる。

 アンドレは出来る男だ。


 俺は「うんうん」と頷いて自室に向かう。

 目指すはベルの尻だ。


 ……さ、口直しにベルの尻に顔を埋めよう。


 俺は形の良いベルの尻を想像し、王宮での記憶を上書きした。




………………




 退屈な冬の間も、ベルの妊娠が発覚したり、王宮に呼ばれたりと賑やかに過ごした。


 王宮では今、俺が持ち込んだ「ツイ●ター」が大流行だ。

 これは男女数名がルーレットの指示に従いながら、印のついたマット上で手や足を動かして置いていき、最後までバランスを崩さずにいた者が勝利という遊びだ。

 1960年代くらいに流行ったアレである。


 コレが性に大らかなアモロスの気風にマッチし、貴族たちは大ハマリした。

 貴き身分の男女が酒を飲みながら体を絡ませて大喜びである。


 俺も王妃様にいきり立つ男をグリグリと押し付けたり、若い貴族の娘の尻の谷間をクンクンしたり、人妻の耳元に息を吹き掛けたりして楽しく盛り上がった。


 ……勘違いしないでほしい、これはこう言うゲーム(作者注※違います)なのだ。俺が特別スケベなワケでは無い。



 そして、ベルの腹も膨らみ始めた雪解けの季節……事件は起こる。



 今日はツ●スターでは無く、酒を飲みながらの詩作の発表会であった。


 俺も日本の名曲をパクリながら適当に話を合わせていく。


「バリアンの詩は流石よな」


 王様が褒めてくれる。

 ありがとうございます。盗作ですけどね。


「誠に……バリアン、杯を授けましょう、こちらに」


 王妃様が俺を手招きし、今まで使っていた杯を俺に授けた。


 ……ぐふふ、間接キスか……可愛いことするじゃないか……


 俺はニヤケながら杯を受け取った。


「バリアンは武勇に秀で、詩心に富んでいる。楽しい遊びもたくさん考えるし……何をしたら神にそれほど愛されるのか……」


 地味な王子様が俺にぼやくが「よき師に恵まれただけです」と無難に答えて下がった。


 俺に言わせりゃ王子に産まれて何の不満があるのかと驚きである。

 ちなみに王子様は30前くらいのヒョロ男だ。



 宴会も盛り上がり、無礼講となりかけたころ……メンゲが話し掛けてきた。

 どうやらコイツは王弟派の「バリアン番」らしい。

 チョイチョイ話し掛けて来てウザい。



 俺はいつものように適当にあしらっていたのだが、今日のメンゲは酔いが回ってるのか、実にしつこい。


「バリアン殿、私には娘がおりましてな! 是非ともバリアン殿に……」

「いえ、先程も申しましたように私は妻がおりまして」


 ウザい。

 実にウザい。


 メンゲは絡み酒らしい。


「はは、平民の娘なぞ! バリアン殿には似つかわしくない!!」



 その一言で、宴席は静まり返った。



 いくら酒の席とは言え、妻を侮辱されて怒らぬ貴族はいない。


 周囲がゴクリと唾を飲んでこちらを見守る……しかし、メンゲは酔っているためかそれには気づかない。


 王弟派の1人が俺とメンゲの間に入り「失礼いたした」と平謝りした。

 他の者はメンゲの従士を呼びに向かったようだ……泥酔した主を連れ帰ってもらうためだ。


「いえ、酒席ですから。お気になさらず」

「誠に……申し訳ない」


 俺も立場のある貴族にここまでされては許すしかない。


「何を申されるか! バリアン殿ほどの者には平民よりも我が娘が……」


 従士に引き摺られるメンゲがさらに言い立てた……


 ダメだ。

 もう我慢できん。


 俺は……制止する貴族たちを吹っ飛ばし、王宮でメンゲを殴り付けた。


 俺の鉄拳はメンゲの頬骨を砕き、眼球が飛び出した。

 そのままビチャーンと湿り気を帯びた音を立てながらメンゲは勢いよく床に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。


「何をなされる!?」

「乱心されたか!」


 メンゲの従士たちが騒ぎ立てたが、怒れる俺には届かない。


「ゴオオォォォォォッ!!」


 俺は雄叫びを上げて従士たちに飛び掛かった。

 敵の子分は敵だ。




………………




 王宮は大惨事になった。


 伯爵の世継ぎが王宮で従士4人を殴り殺したのだ。


 俺の蛮族ファイトに宴席は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。


 メンゲは一命を取り止めたらしいが失明し、首から下が動かなくなったそうだ。


 当然、王弟派は黙っていないが、そもそもメンゲが俺を侮辱したのは大勢が見ており「妻を侮辱されたバリアンが決闘で恥をすすいだ」と言うことで治まった……と言うか、王様が治めてくれたのだ。


 これで俺はバッチリ国王派に組み込まれたことになる。



 しかし、このまま俺が王都にいては不味い。

 報復も貴族の権利だ。



 ……ここは逃げるが勝ちだ……


 本人がいなければ報復は成立しない。

 俺はとっとと逃げ出すことにした。


 俺はポンセロに残る同胞団の指揮を任せ、身重のベルを託した。

 子供が落ち着いたら鍛冶屋のアンセルムと合流し、帰国するように命じる……これは恐らく来年くらいになるだろう。



 ……俺には宮廷政治は無理だな……数ヶ月でこの様だ……



 俺はその日の内に僅かな家臣と共に王都を去った。


 逃げるときには一目散だ。


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