41話 城主の娘
半月後、戦
「俺に続けえっ!!」
俺は雄叫びを上げて敵に突進する。
盾には矢が何本も突き刺さっていくが、構うものか。
敵は300人ほど……こちらよりも少ないが、自軍には遠征の疲れもあり長引かせたくは無い。
「ウオオォォォッ!!」
そのまま敵に体当たりをし、吹き飛ばす。
敵陣に入ればこちらのものだ。後は手当たり次第に殴り付けるだけでいい。
俺がメイスで殴れば、体のどこに当たろうとも戦闘不能だ。
兜だろうが盾だろうがお構いなしに殴り付ける。
「ゴオォォォォッ!!」
俺の口から獣のような唸りが響いた。
俺に向かい突進してきた騎兵を躱わし、馬の頭を殴り付ける。
馬は半狂乱となり、騎士は投げ出され地に伏せた。
俺は落馬した騎士の頭をゴルフスイングのようにカッ飛ばす。
「なんなんだアイツは!?」
「あ、悪魔だっ! 角が生えてる!」
「退けっ!! ラングレ卿が討たれた!」
「逃げろ! リオンクールに悪魔がいるぞっ!!」
敵が崩れた。
どうやら俺が殴り付けた敵の中に指揮官がいたらしい。
たかだか数百の戦いでは個人の武勇がモノを言う。
俺が暴れれば敵は怯み、味方は奮い立つ。
「良し、追撃……」
「バリアン様っ! あそこだ! あの城を狙え!! 」
俺の声を遮り、ジャンが声を張り上げた。
「敵は西に逃げた! あの城は空っぽだ!!」
俺はジャンが示す城を眺めた。
確かに敵が逃げる方向では無い。
「よし、半分はついて来い! アルベールっ!追撃を頼むぞ!! 」
俺はジャンと共に先頭を駆け、城に迫る……すると、城から住民が逃げ散るのが見えた。
……マジかよ? 本当に空じゃねえか……
俺はジャンの戦術眼に瞠目した。
ジャンの勘の働きは並々ならぬ冴えがある。
「逃がすかよ……っと」
ジャンは逃げ回る住民に矢を射かけて殺している。
実に楽しげだ。
……コイツは、凄いヤツなんじゃないのか?
俺はジャンの才能に身震いした。
………………
空になった城を制圧し、合流した後に休息をとる。
城の広間では兵士たちはお祭り騒ぎだ。
敵軍から奪った物資や、城からの略奪品……兵の懐も温まった。大戦果だ。
ベルジェ伯爵領に侵入して半月……今日で遭遇戦は2度目だ。
さすがに敵もバカではない、こちらを警戒して軍を出してきた。
しかし、俺達は連戦連勝。
落とした城も3つ目になる。
勝っている間は兵士の疲れは隠れているが、負傷兵も増えた。
そろそろ頃合いかもしれない。
「アルベール、ジャン……そろそろ本隊と合流しようと思うんだが」
「ふむ、十分と言えば十分だが兵も減っておらぬし、もう少し粘れそうでもある。難しいところだ」
確かにアルベールの言葉の通り、兵の数自体はそれほど減ってはいない。
負傷者は多いが死者は少ないのだ。
俺たちは移動しながら村々を襲い、略奪品は多い。
従って兵の士気はすこぶる高い。
少々の負傷では怯まずに従軍するのだ。
「もう少し粘るか……」
「いや、元気なウチに帰った方が良いぜ?」
意外にもジャンが慎重策を口にした。
「俺に『盗むチャンスはまたくるが、死んだら次が無くなる』って教えてくれたのはバリアン様だぜ?」
ジャンはニッと笑った。
……初めて豚を略奪した時の……コイツ、泣かせるな……
俺は鼻の奥がツンと痺れた気がした。
涙が零れそうになる。
幼い頃の楽しい思い出を振り返り、少しセンチな気分になってしまった。
ジャンの言う通りだ。
疲労するまで粘れば、いざというときに逃げることすらできなくなる。
「ああ、分かったよ。明日、北に向かうぞ」
俺が決断を口にすると、アルベールもニタッと笑った。
表情がジャンに似ている。
「良し! 商人に預けてある金を持ってこい! 褒美を配るぞっ!!」
俺が大声を張り上げると、兵たちが大歓声を上げた。
しばらくすると半分くらい金貨や銀貨が入った樽と、状態の良い武具が運ばれてきた。
初めの城で捕まえてきた騎士の娘も一緒だ……彼女も俺が商人に預けてある財産の一部である。
サラサラの金髪を腰の辺りまで伸ばした青い目の娘……年の頃は10代の半ばほどか。
美人では無いが蜂のようにくびれた腰つきがたまらん。
俺は彼女を気に入り、何度も相手をしていた。
初めは飽きたら部下にでもくれてやるか奴隷として売るつもりだったが……思わぬ誤算だ。
俺が舐めるように視姦すると、女は少し身を縮めたようだ。
……まあ、それよりもだ。
「皆が良く働いた!! 褒美をとらす、順に並べい!」
俺が宣言すると騎士から順に1列に並んだ。
俺は城主の席に座り、一人一人に上機嫌で声をかける。
「良し、騎士には金をやる! 兜4杯だ!!」
8人の騎士は喜色を隠そうともしない。
俺は樽に兜を突っ込みザバザバと金を革袋に流し込む。
騎士たちはこの金をそれぞれの兵に配るのだろう。
彼らの家来は俺の家来では無い。そこは騎士たちの仕事だ。
「平民と志願兵には山羊の角杯の分だけ金をやろう。自らの杯を持ってこい」
兵士たちが山羊の角で作った杯を持って並ぶ。
俺はそれに金を満たしていく。
杯を持つ兵士たちの顔は明るい。
「同胞よ、諸君らには武具を授けよう」
俺は同胞団には武具を与えた。
ジャンには鎖帷子を、アンドレとポンセロには水滴型の兜を、そしてタンカレーには戦斧を与えた。
死体から剥いだヤツばかりだが、気にすることは無い。
鉄の武具は高価なのだ。
それぞれの団員にも与えたが、難しいのはロロだ。
金持ちと結婚したロロは優れた装備を持ち、金にも困っていない。
……うーん、難しいな……本人に聞くか……
「ロロは何が欲しい?」
「そうですね……私の兜にも角を付けてよろしいでしょうか?」
ロロは意外な事を口にした。
そんなのは勝手に付ければ良いと思うのだが……
「そんなので良いのか? なら、これで付けるといい」
俺は山羊の角杯に金を満たしてロロに渡した。
「ありがとうございます」
ロロは実に嬉しそうだ。
本人が良ければそれで良い。
この後の話になるが、同胞団の中で兜に角を付けるのは許可制となった。
特別な功績の持ち主にしか許されないステータスとして、兜の角は一種の勲章として扱われていくのである。
兵士たちの論功を終え、樽や武具を確認すると、まだ3分の1くらいは残っている……これが俺の取り分だ。
「皆、今まで良く働いた! これからの働きにも期待しているぞ!!」
「「ワアアアアッ」」
俺が声を張り上げると兵士たちから大歓声が上がる。
これだけ大判振る舞いをしたのだ。
兵の疲れも吹っ飛ぶだろう。
俺は樽や武具を商人に届けさせ、騎士の娘を抱き寄せた。
「痩せたな」
俺の言葉には答えず、女は顔を逸らした。
俺は女を肩に担いで城主の寝室に向かう。
かすかな抵抗を感じたが、それだけだ。
この女の名前は分からない。
答えようとしないからだ。
それが家族を殺され、自分に辱しめを与える男への最後の抵抗なのだろう。
………………
「アナタは……家族はいないのですか?」
事が済んだ後、女が珍しく話しかけてきた。
俺が「いるさ」と答えると、女の顔に悔しげな翳りが差した。
「なら、なんで、なんでこんなに酷いことができるんですか?」
女が血を吐くように俺を責めた。
今まで溜めていたモノが決壊したのか、涙が溢れている。
「俺はな、俺の家族には優しいのさ……兵や、リオンクールの民……皆が俺の家族だ。」
俺は泣き続ける女を抱き寄せて組伏せた。
「優しくされたいなら家族になれ、子供を産んでみろ」
「そんなの……ッ」
女が悔しげに歯を噛み締めた。
……子供を産んでみろ、か……俺はこの女をどうしたいんだ?
俺は自分の言葉に戸惑いつつ、女を蹂躙した。
明日からは本隊との合流を目指し北へ向かう。
短いですが、区切りが良いので。





