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39話 初めての遠征

 ベルジェ伯爵討伐の陣触れが届いた。



 俺は別動隊を率いて先攻し、囮として敵の注意を引くのが任務だ。


 軍は各村や騎士領から集まる兵たちにより編成され、それぞれの騎士がそれぞれの兵を率いるので細かな階級などは無い。


 俺は集まった8人の騎士たちを集めて軍議を開く。

 俺と、俺の補佐であるアルベールは今回の任務を説明し、各々の兵の数を確認していく。


「以上だ、何か質問はあるか?」


 俺が尋ねると出るわ出るわの質問の嵐だ。


 彼等の疑問はいくつかあるが、要約すると3つ、すなわち


「囮とは見殺しにされるのか」

「別動隊で褒美が出るのか」

「経験の浅い俺が軍を率いるのか」


 以上である。


 確かに誰でも疑問に思うところだが、いちいち同じような質問ばかりしてくる彼らに閉口してしまう。


「見殺しにはされない、その為に伯爵の息子が率いるのだ。褒美は出る。そして……」


 俺は言葉をためて騎士たちを睨み付ける。


 長身の俺が見下ろすような形だ。


「今から俺とレスリングをしろ。俺が勝ったら俺の言うことを聞け」


 俺のこの言葉に騎士たちは互いに顔を見合せた。

 少し呆れた様子さえ感じられる。


「いや、バリアン様……戦とは個人の武勇だけでは……」

「然り。そもそも我らは……」

「バリアン様がレスリング巧者だとは存じていますが……」


 予想通り、騎士たちは俺をモノを知らぬ若造だと馬鹿にし始めた。


 俺はいちいちそれらに答えず「ふん」と鼻で笑う。


「揃いも揃って腰抜けか?」


 俺の吐き捨てるような物言いに、ピタリ、と彼等の動きが止まった。


 俺の安い挑発に全員の目の色が変わったのだ。


「聞き捨てなりませんな、我らの勇気を疑いか?」


 年嵩の騎士が肩を怒らせて前に出てきた。

 目には殺意に似た怒りがある。


「疑われたくなければ組み合え」


 重ねて挑発された年嵩の騎士が俺に掴みかかってきた。


 騎士とはプライドの塊である。


 負けるのは良い、だがナメられてはやっていけなくなるのが騎士稼業だ。

 若造の挑戦を無視することは出来ない。


 果敢に俺に掴みかかってきた騎士は簡単に組伏せられ降参した。


「ならば我が!」


 若い騎士が向かってきた。


「一人で良いのか?」

「抜かせっ!」


 こちらも堂々と組み合ったが、俺の相手ではない。

 俺は巨体にモノを言わせて放り投げた。


「次は私だ!」


 騎士たちは怯むことなく順に俺にかかって来たが、全て組伏せられていった。


 俺の怪力はそれだけで驚異であるし、組み合えば柔道技がある。

 負けるはずがない。


「分かったか! 俺が強い! お前らは子分だっ!!」


 俺が大喝すると、騎士たちは悔しげに俯いた。

 原始的なまでに乱暴な方法だが、効果は大だ。


 この時代の男は大なり小なり腕力の強いものには敬意を払う。

 そして彼らは暴力が仕事である騎士なのだ。


『強い者に従え』


 この理屈には弱い。


 俺はアルベールに「後は任せた」と言い残し立ち去った。

 アルベールは実に邪悪な顔で笑っていた。


 俺に痛め付けられた後にアルベールが「説得」してくれるのだ。


 俺なら2度と逆らわんね。




………………




「あなた、どうか無事で帰ってきてください」


 妻のスミナが心配げに眉を寄せた。

 妹のカティアも何か言いたそうにしているが、夫婦の会話に入るのを遠慮をしているらしい。



 俺は今、出陣前の僅かな時間に妻や妹と言葉を交わしに来たのだ。

 やはり家族の顔を見ると「絶対勝つぞ」と闘志が湧いてくる。

 彼女らを残して死ねるものか。



「……今回は難しい……」


 俺がスミナを見つめて悲しげに呟くと、2人はショックを受けた顔を見せた。


 ……うーん、若い娘は素直でからかい甲斐がある……


 俺は「今回は肌着(シミーズ)が無いからな」とニチャリと嫌らしく笑った。


 スミナは顔を赤くし、カティアはキョトンとしている。


「カティア、戦に出る男には女が肌着を渡すんだ。今すぐ脱いできなさい」

「ちょ、ダメよ! カティアさん、バリアン様の嘘だからね!」


 俺のセクハラにカティアは真っ赤になり、スミナが猛抗議を始めた。

 最近はスミナも女房面をするようになってきており、遠慮はあまり無い。


 俺はキーキー騒ぐスミナをくすぐりながら裸に剥いていく。

 か弱い彼女が俺に抵抗するなどは不可能だ。


肌着(えもの)は確かに頂いたぜ」


 俺は全裸で倒れる嫁女(スミナ)と、指の間からこちらを覗く(カティア)を残し、広場へ向かう。


 ……良し良し、これは俺のジンクスだからな……ありがとよスミナ……


 俺はスミナの肌着をくんかくんかと嗅いでみた。

 スミナも風呂に入らないので臭いは臭い。

 だが、嫌いじゃない匂いだ。


 変な趣味に目覚めそうだとニヤニヤしながら、俺は肌着を仕舞い込んだ。




………………




 広場では続々と兵士が集まりつつある。


「バリアン様、そろそろ頃合いかと」


 陣笠を着けたポンセロが俺に声を掛けてきた。


 ポンセロはこの遠征を機に衛兵を辞し、同胞団に入団した。同時に彼を慕う同僚も4人……計5人が同胞団に加わったのだ。

 衛兵のままでは遠征には加われないからである。


 もちろん彼らにも陣笠と革鎧、リュックサックは支給した。


 彼らも加わり同胞団は22人となった。

 これはかなりの戦力である。


「リヤカーはどうだ?」

「問題ありません」


 俺の問いにアンドレが答える……最近、アンドレはポンセロの出現に少し焦り気味のようだ。

 ポンセロは元衛兵長としての経験があり、俺も重宝している……どうやらアンドレは彼をライバル視をしているらしい。


 アンドレが示す先を見るとリヤカーが4台……初の実戦投入だ。



 今までの荷車は両側の車輪が車軸に連動しているために曲がることができない。

 大きく曲がるときには人力で片側を押し、無理矢理に曲がる必要がある。


 そこでリヤカーだ。

 リヤカーは左右の車輪が独立して回転するために簡単に曲がることが出来るのだ。


 しかし、リヤカーは車輪の固定や、車体の補強のために鉄製のパーツが増え、コストと重量は従来の荷車と比べてもかなり増加している。


 当然、テストは重ねており、リヤカーの取り回しの良さは実証されている。

 後は遠征に持っていき、コストに見合う働きをするかどうかだ。

 荷車と性能を比べ、可能ならばルドルフにプレゼンしようと思う。



 俺は頷き「リュックサックはどうだ」と重ねて問うと、アンドレが「同胞団を加えて84です」と答えた。

 去年の段階で遠征があるのが分かっていたので可能な範囲で増産したのだ。

 騎士の配下ではない平民兵や自由民の志願兵にリュックサックを貸与し、実戦テストを行う。


 機会があればリュックサックの部隊で強行軍をしたい。


 リュックサックとリヤカーのテスト結果次第では正式採用したいと思っている。



「よし、十分だ」


 俺はアンドレの働きぶりに満足し「これも大事な仕事だぞ」と肩を叩いた。


「頃合いだ。バリアンよ、指示を出せ」


 アルベールが俺に声を掛けてきた。


 俺たちがリヤカーやリュックサックの確認をしている間に出発の支度は整ったらしい。


「分かった……整列しろ!」


 俺が整列を指示すると、遠征軍はまあまあ良い動きを見せた。

 どうやら俺に負けた騎士たちの動きが良く、全体に良い影響を与えているようだ。


 騎士たちにはアルベールの「説得」が余程効いたのだろう。

 きびきびと命令を聞く様が見て取れる。

 彼らの手勢はこの遠征軍の多くを占める。これなら期待ができそうだ。


 俺が姿を見せると、奇抜な軍装に驚いた兵士らがどよめいた。


 俺は皆が聴く姿勢になるのを待ち大声を張り上げる。


「よく聞け野郎ども! 今から攻めるベルジェは悪い奴だ! ……ぶちのめせっ!!」


 俺は横にある樽をメイスで殴りつけた。

 凄まじい破壊音と共に樽は破壊され、木片と共に中のビールが弾けて飛び散った。


「遠慮はいらん! 奪えっ!! 犯せっ!! 殺せえっ!!」


 兵士たちは数瞬のためらいの後に雄叫びを上げた。

 

「「オオオオオオッ!!」」


 俺の檄に応え、兵士たちは盾を叩き、足踏みをする。

 その顔は歯をむき出しにし、獰猛な獣の群れのようだ。



 俺は「出陣!!」とシンプルに号令を下した。



 軍がゆっくりと動き出す。


 俺にとっての初めての遠征が始まった。


少し短めですが、キリが良いので。


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[良い点] バリアン・ザ・グレート! すばらです!
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