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35話 キャリアのスタート

 叔父のロドリグが去り、今日から本格的に俺の城代生活スタートである。


 本来ならば都市の人たちとの挨拶で時間が取られるそうだが、叔父さんが市長や議員の人たちを紹介してくれたので助かった。

 やはり親族の助けは頼もしい。


 ……叔父さんの息子が働くようになったら助けてやんないとな……


 ロドリグの息子はまだ幼く、その未来はまだまだ先の話だ。



 俺は挨拶のために従士たちと衛兵を集合させた。


 衛兵は30人ほど、これは夜の見張りもいるので全員では無い。

 従士は17人だ(ジャンやロロたちも含む)。


 50人近くの武装した男が揃うと壮観である。


 しかし、この衛兵の動きが悪いのだ。

 とにかくダラけている。


「俺は直ぐに集まれと命じたはずだぞ?」


 俺が衛兵長に問うと、彼は「いやー、普段とは違う動きですから」とニヤニヤしている。


 明らかに俺が若造だと思ってナメている。

 叔父のロドリグの時とは明らかに態度が違うのだ。

 

 これは良くあることだ。

 現場のベテランがポッと出のエリート上司に自分の影響力を見せているのだ。


 実に下らない。


「わかった、ならば明日も同じ時間に集合しろ! 解散っ!!」


 俺は衛兵長の言葉に頷き、新任の挨拶もせずに解散させた。

 衛兵たちは「なんなんだよ」「チッ面倒くせ」などと不平を口にしている。


「バリアン様、これは少し問題では無いでしょうか?」

「ああ、見せしめに何人か殺すか」


 ロロとジャンが腹立たしげに顔をしかめる。


「いや、先ずは俺に任せてくれ。もちろん、必要なら殺すがな」


 ジャンの意見も一理あるが、1度目で殺してはやりすぎだろう。

 俺の中では3回だ『仏の顔も3度まで』ってヤツだ。



 この日は従士たちと適当に近隣の地形を確認して回った。

 ポルトゥの周りは山に阻まれて一本道ではあるが、人が歩く程度の間道はある。

 それらを確認したのだ。




………………




 翌日、やはり衛兵の集まりは悪かった。


「衛兵長、集合が遅いぞ」


 俺が衛兵長を問い詰めると、彼はニヤニヤと「いや、昨日も申しましたように」と言い訳を始めた。


 ……今だ!


 俺は衛兵長を殴り付けた。

 長身の俺に不意打ちをされた衛兵長は全員の前で尻餅を着いた。


「1度ならば見逃そうと思ったが、度々と命を軽んじるとは何事かっ!!」


 衛兵長は部下の面前で若造に殴られプライドが傷ついたのだろう。

 カッと顔が赤くなった。


「貴様は降格だ」

「しかし、それは……」


 衛兵長は立ち上がり抗議の声を上げかけた。


「口答えするかっ!!」


 俺は衛兵長を床に叩きつけ、足で腹を蹴りつけた。


「城代さま、お許しを!」

「お(たいら)らに、お(たいら)らに!」


 衛兵たちが俺の周りで宥めに掛かった。

 こんな下らない男でも人望はあるらしい。


「良し、ならばお前たちに免じて許す。明日だ、明日も同じ時間に集まれ! 解散っ!」


 俺が解散を命じると、衛兵たちは無言で立ち去った。

 衛兵長は悔しげな表情を見せていたが、俺は無視をした。


「バリアン様……これは、その……」


 タンカレーが何かを言いたげにしている。

 恐らくは俺が現場と揉めるのを心配したのだろう。


「うん、俺もタンカレーたちがいなければこんな無茶はできないよ」


 俺は従士たちに向かい合い「いざとなれば頼むぞ」と声をかけた。


 従士たちは獰猛な笑みを見せ、頷いた。




………………




 さらに翌日、集合場所の広場に集まった兵が明らかに少ない。

 12~13人ほどの兵がボイコットしたようだ。


「これはどうしたことだ?」


 俺は近くにいた若い衛兵に尋ねた。

 この衛兵は驚き「そのお、あのお」とモゴモゴと言っている。


「集まっている者に罪は問わん、何があった?」


 俺がさらに言葉を重ねると若い衛兵は「実は」と言いづらそうにポツリポツリと語り出した。


 話は簡単だ。衛兵長を慕うグループが俺の仕打ちに怒り、職務放棄をしたのだ。


 彼らは兵舎に立て籠っているらしい。


 ……これはチャンスだな。


 衛兵たちは動揺しているが、従士たちは戦意に満ちた顔だ。

 これならいける、と俺は心の中でガッツポーズをした。


「反乱だ! 鎮圧しろ!!」


 俺は従士たちに命じ、すぐさま兵舎に向かわせた。

 予想よりも衛兵長についた者が多かったが構うものか。


 残りの衛兵たちも従士たちに続くように動いた。


 兵舎に立て籠る兵たちはいきなり攻撃されるとは思っていなかったらしく、何も備えていなかったためにアッサリと鎮圧され、降参した。


 そもそも本気で反乱するつもりならば、中途半端に兵舎に立て籠るはずがない。

 俺を狙うか、逃亡したはずだ。


 衛兵長の行動は初めから『自分がいないと現場が動かない』とアピールするためのポーズだ。

 若い城代相手に賃上げ交渉でもしたかったのだろう。


 それは分かるし、以前の俺なら「現場がスムーズに動くなら」と多少の賃上げくらい許したかも知れない。


 そう、以前の俺ならば、だ。


 衛兵長たちは打ち据えられ、俺の前に引きずり出された。

 数名が怪我をしたようだが、死者はいない。


「反乱を企てた者、参加した者への罰を申せ」


 俺が近くのベテランらしき衛兵に尋ねると、衛兵長たちは騒ぎ出した。


「そんなっ?」

「反乱なんて……」

「そんなつもりでは!」

「お許しを!!」


 口々に許しを乞う衛兵たち、彼らはこんな大事になるとは思っていなかったはずだ。


「申せ」


 俺が再度尋ねると、ベテラン衛兵は「死刑です」と言いづらそうに答えた。


 それを聞き、反乱グループからは「ヒイイ」と悲鳴が上がった。


「だが、この中には意図せずに反乱に加わった者もおろう、その場合は?」

「……罪を減じるべきです」


 ベテラン衛兵は悲痛な顔をしている。

 彼とて同僚を殺したくは無いのだ。


「鞭打ち、5打。衛兵長は加えて副長に降格、お前が衛兵長となれ」

「は……分かりました」


 俺がベテラン衛兵に命じると、皆がきびきびと動いた。

 反乱のとばっちりを受けたくないからだ。


 すぐさま刑が執行される。

 鞭打ち5打は軽すぎる気もするが、10や20も叩いては熱を出し、職務をこなせなくなるだろう。


 その間に俺はロロに命じて金を取りに行かせた。


「良し、迅速な反乱鎮圧に加わった者には褒美を与える」


 俺はロロに取りに行かせた金を衛兵と従士に配った。

 1人30ダカット……大した額では無いが、配ることに意味がある。

 ちなみに俺のポケットマネーだ。およそ1000ダカット……わりと痛い。


 露骨な飴と鞭だが、これが意外と効果があった。


 翌日の集合には、俺が来る前に一糸乱れぬ整列を見せていた。

 これでいい。統率のとれてない軍隊なんて、山賊よりもたちが悪い。


 若い頃に読んだビジネス本に『リーダーは慕われるべきか恐れられるべきか』みたいなことが書いてあった。

 今思えば、マキャベリの三番煎じか四番煎じみたいな薄い内容だった。

 しかし、若い頃の俺は感銘を受け、この本は記憶に鮮明に残っている。


 別に慕われようが恐れられようが何でも良いのだと思う。


 要はナメられ無ければ良いのだ。


 田中だった頃は職場の皆に好かれようと、オバチャンたちにケーキなんか差し入れしていたが、実に俺の味方をしてくれた。

 声のデカいオバチャンたちを味方にすれば助かることが多かったものだ。



 まあ、それは置いといて、衛兵たちにとって『怖いけど、気前の良い上司』となったことは大いに意味があった。

 衛兵のみならず、他の住民たちの態度も明らかに変わったのだ。


 特に意外だったのは副長に降格された男……彼はセザール・ポンセロと言うのだが、このポンセロが妙に俺を気に入り、なにかと協力的になったのだ。


 ポンセロはボサボサの銀髪に無精髭の厳つい男だ……老け顔だがまだ20代らしい。

 衛兵長をやるだけはあり、腕っぷしも統率力もそれなりにある。

 遊ばせとくのも勿体ないので、その内に新しい職務を与えてやろうと思う。



 兎も角も、俺のキャリアはここから始まる。

 そう言う意味でもこの地は思い出深い場所となった。



 ……ただ、スミナの村が遠くなったんだよなあ。ポルトゥにも娼婦くらいは居るだろうが……うーん。


 14の肉体は数日も我慢すれば暴発せんばかりの(たぎ)りがある。


 風俗でもいいんだが……この時代って性病治るのかな?



 俺は若く元気な肉体を持て余し気味であり、ピントのずれた心配をしていた。

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