眠り姫と花嫁街道
本日2月9日、拙著リオンクール戦記2発売です。
購入者全員に帯についているQRコードから特典SSがついてきます。
そちらの感想も是非、教えてください。その他の情報は活動報告にまとめます。
エルワーニェと呼ばれる山の奥、パーソロン国の物語。
ありし日の王国には自慢が2つありました。逞しきニアール王と、気高く美しきキアラ姫です。
ニアール王は近くの国々を攻め、全てに勝ち、エルワーニェ全ての王となりました。
全てに打ち勝ったニアール王は国中の者を集めて勝利の宴を開きます。
しかし、そこにはニアール王に夫を討たれ、恨みをもつ悪しき魔女もいたのです。
魔女は宴の中、キアラ姫に近づき石になるように呪いをかけました。
すると姫はたちまち石のように固くなり、深い眠りに落ちたのです。
にぎやかな宴は火が消えたように冷たくなり、王国は悲しみに満ちました。
怒るニアール王は魔女の国を攻めましたが悪しき魔法の霧により兵隊は森に迷い、国にたどりつけません。
途方に暮れた王様は「キアラ姫の呪いを解き、魔女を倒したものは姫との結婚を認める」と国中にお触れをだしました。
そして国中の勇者がそれに応え魔女に挑みましたが、誰一人として霧を越えることはできません。
誰も魔女には敵わぬのかとニアール王は怒り、嘆き、民の涙は流れとなりました。
そして、1年と40日の後、異国から立派な騎士があらわれました。
騎士は遍歴の旅の最中、キアラ姫の美しさを聞き一目会いたいと願っていたところ、姫の受難を聞き駆けつけたのです。
ニアール王はこの騎士の立派なことに驚きました。
騎士は輝く銀の高潔さと、鉄のごとき雄々しき偉躯の持ち主だったからです。
「ニアール王よ、私が姫の呪いを解き、魔女を討ち果たしてみせます」
騎士は勝利を誓うと、眠りにつくキアラ姫のもとに跪き、聖天の神に祈りを捧げ姫の手の甲へ口づけをしました。
すると、騎士の信仰は邪悪な呪いをたちまちにはね除け、キアラ姫は目を覚ましたのです。
その神の力を恐れたニアール王は聖天の教えに帰依をし、騎士と姫の結婚を認めました。
しかし、騎士は「まだ魔女を討ち果たす誓いは果たしておりません」と断りました。
騎士は馬に跨がり魔女の城へ向かいます。
しかし、やはり呪いの霧は騎士を阻みました。
騎士が前にも進めず、困り果てたその時、どうしたことか霧が晴れていくではありませんか。
そのまま騎士は導かれるように魔女を討ち果たし、城に帰りました。
そこで見たのは神に祈りを捧げているキアラ姫でした。
聖天の神は清らかな乙女の祈りを聞き入れ、悪しき魔法を退けたのです。
騎士は自らがリオンクールのバリアン王だと明かし、キアラ姫に結婚を申し入れました。
そして「姫を国へ迎えるために道を拓こう」と約束し、リオンクールへ帰りました。
約束通り、バリアン王はパーソロンへの道を拓き、白百合の咲く季節にキアラ姫を迎えに行きました――
「――この二人がリオンクールへと歩いた道が、今の花嫁街道となったのです」
新年を祝う宴の席で吟遊詩人が聖天の信仰とキアラを称える歌を終え、帽子を脱いでお辞儀をした。
俺はその帽子に数枚の銀貨を入れ「よかったぞ」と世辞をいう。
実は『異国の王女』であり、かわいらしくもお転婆なキアラはリオンクールの民から人気が高い。
こうしてたびたびに彼女をモチーフにした謎の歌や物語が作られているのだ。
当の本人はよくわかっておらず手を叩いて喜んでいるが、この屈託のない無邪気さも人気の秘密だろう。
しかし、この歌を聞いた俺の家族ら、特に子供たちは微妙な顔をしている。
「なんで国王が遍歴(武者修行)の旅にでてんだよ」
「はじめから名乗らないのはおかしいわ。やましいことしてたのよ」
「寝てるキアラちゃんに淫らなことしたんだわ」
「父さんはやっぱり変だ」
子供たちがひそひそとやっているが、俺は作らせても歌わせてもいないんだが……まあいいか。
ちなみにニアールは改宗なんかしていない。今も元気に天神とか言う神様に供物を捧げているはずだ。
宴席ではキアラは母リュシエンヌの世話をかいがいしく焼き、太ましく成長したスミナは社交的に客の相手をしている。
ベルは端の方でツンとお澄ましだ。
これが、わが家のバランスなのである。
異国の王女は母と楽しげに笑っていた。
発売記念の企画、いかがでしたでしょうか。
こちらで一区切りとさせていただきます。
連載中の『魔王軍の最強将軍、転職します! ダンジョンは巨大な発電(?)施設でした。』も、よろしくお願いします。





