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剛毅王即位

人気投票7位のエマが登場します。


 シモン征服王が遥か西にて暗殺された――その報せは多くの混乱を生んだ。


 特にシモンが死したとされる地より、遥か遠くのリオンクールの地には情報が遅く、エマの居るアモロス北東部ベニュロ領エーメ城へは極めて不確かな情報しか入らなかった。


『シモンが死んだらしい』

『いや、西の地で勝利を重ねている』


 全く逆の情報が流れ、判断する材料は人の噂しかない。


 その混乱を目の当たりにし、バリアンの長女エマは大きくため息をついた。


 偉躯王と呼ばれた偉大な父……その息子たちは互いに争い、残るものはいない。

 それは構わないとエマは割り切っていた。

 乱世なのだ。男が覇を競い、争うのは常のことではある。


 しかし、いまのエマは女性ではあるが、極めて高い王位継承権の持ち主である。

 本当にシモンが死したならばリオンクール王として責務を果たさねばならない立場だ。


 彼女は意を決し、リオンクールを継ぐ覚悟を定めた。


「これは偽報を流して我らの足を鈍らす策謀よ。我らは直ちに軍を起こし、リオンクールに入ります」


 こうエマが宣言するとエーメ城は震撼した。

 軍を起こし他領へ進むとは謀反である。万が一にシモンが生きていてはただではすまない。


「もう少し様子を見ましょう」

「これでは判断がつきません」


 複数の報せを受けたベニュロ城は混乱の極みにある。慎重論が支配的になるのは無理からぬことだ。

 だが、エマは「それでは遅い」と断固行動することを主張した。


「なぜそこまで急ぐのだ。我らは東の果てにあり、とても中央には手が出せぬ」


 エマの夫アルベールはこう言って彼女を(いさ)めたとされる。だが、その言葉は彼女には届かなかった。


「中央にでる必要はないわ。私はリオンクール王位を継ぐのよ。リオンクール領都に入り、ポルトゥを固め、民を慰撫し、賊の進入を防ぐ。西など打ち捨てておきなさい」


 彼女にとって、シモンがメチャクチャに荒らしたポルトゥ以西には興味はない。

 ただ父であるバリアン偉躯王の愛したリオンクールの地が、父祖の血が染みた大地が、祖父であるルドルフ伯爵の庶子やシモンに従った有象無象に荒らされるのだけは許せなかった。


「急ぐのよ、時を置いては不利になるだけ」


 エマから見て夫であるアルベールは善良ではあるが、変事に備える将器としてはいささか頼りない。息子たちも同様だ。

 だが、バリアン偉躯王やシモン征服王に比べる方が間違っているのだ。

 彼らは史上に稀な巨星だった。それはエマも理解している。

 故に、他に任せることはできない。自らが主導せねばこの難局を打破することはできないのだ。


 エマは一族群臣の居並ぶ中、男装にて斧を手に進み、ベニュロ子爵夫人の席を叩き割った。

 突然の蛮行であり、これに驚かぬ者はいない。


「これより私はこの席に着くことはない! 今よりリオンクールの地へ向かい、王として起つ!! 妨げるものはこの椅子同様になると知れっ!!」


 静まり返る一同を睨みつけ、颯爽(さっそう)と厩舎へと向かうエマに城内は騒然となる。


 中には勇気をふりしぼり彼女を止める騎士も現れたが、さんざんにエマに打擲(ちょうちゃく)され、それを見た群臣は諌めることすら叶わなくなった。


 野蛮でシンプルな方法――彼女は『暴力』で反対の声を完全に封じたのだ。


 エマは大力無双を謳われた偉躯王の体質を良く受け継ぎ、凄まじい身体能力の持ち主である。

 幼い頃より弟らと剣術や馬術に親しんだ彼女に敵うものなど誰もいない。

 



――――――




 エマは単騎花嫁街道を駆け、ベニュロの軍は追う形となる。

 王統から近いベニュロ子爵家はシモンの派閥から警戒され、遠征に参加していなかったことが幸いした。軍が残っていたのだ。


 彼女の狙いは当たった。

 要害であるコカース城も、交易都市ベイスンでも諸手を上げて彼女を歓迎し、みるみるうちに彼女の軍勢は膨れ上がる。


 皆が長き戦乱に疲れ、バリアン偉躯王の子である正統な王国の後継者を歓迎したのだ。


 シモンは東方聖天教会とは折り合いが悪かったこともあり、教会はすぐさまエマの支持を表明した。これも追い風になったことは疑う余地はない。

 ちなみに総主教はカロンの弟子に当たる僧侶であり、幼き頃より親しんだエマへの親近感もあったことだろう。


 その勢いのまま、リオンクール領都に入ったエマは東方聖天教会総主教の立ち会いのもとで四代王となり、リオンクール王国の領有地をリオンクール盆地ならびに北東部肘川以東と定めそれ以外の争いを黙殺する形となる。


 そして集まった兵をリオンクール領内および北東部に派遣し、あっという間に国内を平定した。

 シモン寄りの勢力も、エマの迅速果敢な行動により反抗の機会を失い沈黙せざるを得なかったのである。


 この大胆な行いによりリオンクール王国は版図を狭めつつも安定し、長く存続することとなった。


 この一連の行動により彼女は『剛毅なるエマ』と呼ばれ、リオンクールで絶大な支持を得た。

 その政策は後の世に賛否はあるものの、おおむね『エマ剛毅王』と言えば明君とされる。

エマは4代目の王として歴史のターニングポイントを乗り切りました。

これ以後のリオンクール王国はベニュロ朝による安定期に入ります。

次回は2月7日更新予定です。


リオンクール戦記2、試し読みも始まりました。

冒頭はかなりWEBの読者を意識しましたので、ぜひご一読ください。

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― 新着の感想 ―
エマ剛毅王かっこいい・・・ついていきたい
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