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東へ

バリアンが去った後の王都での一幕。

人気投票20位のポンセロと3位のベルが登場します。

ベルがメインの話を書くはずだったのにおかしいな……

 王都、リオンクール屋敷。


「ポンセロさん、同胞団揃いました」

「そうか、奥方さまと若君をお呼びしてこよう。出発まで待機してくれ」


 報告に来た同胞団員が「わかりました」とポンセロに頭を下げる。

 まるで上司に仕えるような態度にポンセロは苦笑した。


 主君バリアンがメンゲ男爵を王宮で殴り付けた騒ぎの際、屋敷を守る伯爵の老臣たちをサポートし、同胞団を率いて屋敷を守り抜いたポンセロはいつの間にか同胞団の纏め役として認識されたようだ。


 さすがに当事者(バリアン)不在で本格的な衝突には発展しなかったが、小さな小競り合いや喧嘩騒動は何度も起きた。


 要塞都市ポルトゥで衛兵長をしていたポンセロは衛兵や自警団が治安出動する『ボーダーライン』を熟知している。

 何か揉め事が起きる都度(つど)、ポンセロは汗をかき現場を治めてきたのだ。


 屋敷ではすでに支度を整えた貴婦人が赤子を抱いて待っていた。

 少し待たせてしまったかもしれない。


「お待たせして申し訳ありません奥方さま、馬車の支度が整いました」


 ポンセロは恭しくベルと呼ばれる貴婦人に声をかけた。彼女は貴族であるし、主君バリアンの子を産んだ女性に失礼なことはできない。


「奥方様、ご不便をお掛けしますが、こちらの馬車にお乗りください」


 ポンセロが示したのは貴人が乗る豪華な馬車ではなく、荷馬車に申し訳ていどの(ほろ)を張ったものだ。

 豪華な馬車があるにも関わらずである。


「この度の旅路には敵の襲撃があるやも知れません」


 メンゲの軍に襲われた場合は少数の同胞団ではどうにもならない。

 その場合は豪華な馬車を囮にして離脱するのだとポンセロは丁寧にベルに説明を重ねる。

 彼の態度は真摯(しんし)であり、ベルも十分に納得したようだ。


「ありがとう、ポンセロ。しかし、私は妾です。今後は奥方さまなどと呼んではなりません」


 貴婦人は顔色を変えずにポンセロをたしなめた。

 とりあえずポンセロは「失礼いたしました」と答えたものの、彼女を愛称のベルと呼ぶわけにもいかず途方に暮れる。


 この美しい婦人は首が座ったばかりの赤子を身の回りの世話をする奴隷に預け、堂々とした振る舞いで荷馬車に乗り込む。その姿は貴人そのものだ。

 彼女には戦と聞いて動じない胆力も、彼の作戦に口を挟まない思慮深さもある。


 ポンセロからすれば、主君バリアンの妻スミナよりも、身分が高く長子を産んだベルこそが正妻に相応しいと思う。

 だが、この実直な強面がそれを口にすることはない。


「アンセルムさん、出発します」

「あいよ、こっちも万全さ」


 主君バリアン自らが登用した鍛治職人アンセルムと仲間の職人たちにも声をかけ、問題がないことを確認する。


 同胞団と職人たち、それにベルの世話をする奴隷。

 ポンセロは同胞団でも新参だ。それがこれだけの宰領をするとは信じられることではない。

 本来ならば伯爵家の重臣が任されるような任務なのだ。


 ……皆も奥方さまも、俺が期待を裏切らないと信じてくれているのだ。


 同胞団やベルからの信頼を感じ、ポンセロは不思議な思いを抱いた。


 馬役人の次男として生を受けた彼は腕っぷしが強いというだけで衛兵となった過去がある。

 衛兵とは自警団とは違い給料が出るが、薄給であまり尊敬される仕事でもない。


 結婚もしたが、生活苦からいさかいが絶えず、すぐに聖職者に頼んで離婚を成立させた。その時の借金だって半分以上踏み倒している。

 祿(ろく)でなしだったのだ。


 退屈な衛兵として都市に雇われ、半ば腐っていた。そのくだらない日々を粉々に砕き、新たな喜びを与えてくれた主君バリアン。

 その存在はポンセロにとって信仰に近いものがある。


 いや、ポンセロだけではない。

 同胞団の皆が武勇に優れ、分け隔てなく部下に接し、気前良く戦利品を分配するバリアンを慕っている。

 勝利の名誉と富――誰もが欲するものを与えてくれる存在なのだ。


 敬愛する主君の妻子を守り、リオンクールへと向かう。その任務の重大さにポンセロは身を固くし、身震いした。

 すべて無事で当たり前、何一つ欠けることは許されない。


「よし、進め!」


 ポンセロの号令で一行は進む。


 目指すは東の果て、リオンクールだ。


今回の萌えポイントは、上司の愛人をなんて読んだらいいのかわからず困ってるポンセロです。

次回は2月1日更新予定です。


リオンクール戦記2は2月9日発売予定

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