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Cの人格  作者: James N
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 真っ黒な視界の左上に七時二十五分と表示されている。瞼を閉じていてもデジタルの表示が消えていないのは端末を外していないことを示している。

 静奈との会話実習の翌日、僕はいつもよりほんの少し早く起きた。五分くらい。誤差だと笑われるかもしれないけど、僕は端末を首から外さないで寝るので、目覚まし信号が毎朝オンタイムに脳を覚醒へと導いてくれる。今日はそれよりも早く起きたのだ。

暖房をつけずに大量の布団に潰されながら起きるのがこの季節の毎朝の僕。ちなみに夏は冷房を強くして布団に潰されながら起きる。

 重い瞼を開くと、五分だけ早い朝があった。

十一月の空気は乾いていて、それでいて凍えるほどには寒くないから好きだ。一番好きなのは春だけど、春は特にやることもないから退屈。めぼしい行事もないし。それがいいとも言える。僕は学校行事を楽しむような人間ではない。どうせ、退屈でない日々などなかったように思う。

 そういえば、昔は春に入学式を行っていたらしい。どれくらい昔かは忘れた。その名残で、VRで入学式を行う学校では満開の桜のオブジェクトを設置するとか。随分前に見た記事の画像データで、どうして秋なのに桜を咲かせているのか気になって調べたのだ。毎年台風情報に目を光らせながら進級するよりは気が楽なように思える。

こういうくだらない雑学は学習装置で覚えたわけではないので大抵はすぐに忘れるけど、なぜか覚えているのは視覚的に印象が強かったからだろう。毎年入学式のたびに記憶が想起されて反復していた。

早く起きて手に入れた五分間は本来なら眠っているべき時間なので、結局僕は布団から出ることもなく丸まっていた。五分経って、目覚まし信号が脳を駆け回ると同時に起き上がった。

布団の中のこもった熱は一瞬で拡散して室温を計測不能な微量だけ上昇させた。自室についている洗面所に行って人前に出られるくらいに身支度を整える。適当なシャツとズボン。リアルの服はあんまり持ってない。

廊下に出て、足音を殺すカーペットの上をダイニングまで二十秒。無駄にスペースをとる長方形のテーブルには既に朝食が並び、母さんが席についていた。テーブルの長辺側の壁際には老いたメイドと執事が一人ずつ立っている。この光景を年に三百回は見ている気がする。

「おはようございます」

「おはよう」

 母さんと向かい合うようにもっとも離れた席に座る。互いの距離は三メートルくらいあるだろう。六年前に会話実習が始まるまではこの距離感が僕にとっては当たり前だった。

 僕が席に着くのを待ってから、母さんは両手を合わせて、いただきますと言った。僕も遅れて言って、合成化学素材ゼロパーセントのコーンスープにスプーンを沈めた。

 念じるだけで機械を動かすことのできるBMI機能の付いた端末が普及してから、あらゆるものが一つの部屋に収まるように、自分は動かなくても一つの部屋ですべてのことができるよう、コンパクトにするのが世間の風潮となった。

だというのに我が家は時代遅れの富豪を真似ることで気品を保っているつもりでいる。はた迷惑な広さの豪邸に毎週のように客人を招き、どこからか手に入れた珍しい品を自慢し合い、有機無農薬野菜や厳しい基準のオーガニック認証を受けた食材を使った『本物』の料理を食べる。

高価な食事はともかく、こんな部屋、VRの中でなら誰でも持っている。調度品だってデータなら簡単に作れる。現実の物体のほうが高い価値を有するなど誰が決めた。部屋は部屋だと、僕は思う。

客人と何を話しているのかも知らない。聞いても難しくてわからない。数式は簡単に解けても駆け引きだらけの会話はてんでだめだ。

 母さんのそういった趣味に父さんは無頓着で、仕事以外に興味がない。人助けが趣味の聖人のような男。だから家には滅多に帰ってこない。

 母さんは父さんの名声と金を利用し、父さんは母さんの作り上げる人脈からうまい話を得る。合理的だけど、そこにはきっと愛もあるのだろう。仲が悪いようにも見えない。その愛のカタチを不思議に思うほど僕は愛を知らないからそう思うだけなのかもしれない。他の人が見れば、冷めていると言うのかも。

「昨日の会話実習、調子が良かったそうね」

 僕は力加減を失敗して、食器を打ち鳴らした。首を起こして母を見る。

「三木島静奈さん、余程いい人だったのかしら」

「うん、いい人、だったよ」

 母さんは僕に関して、データ化されていることなら大体知っている。静奈は子供のプライバシーは法律で守られているとか言っていたけど、それは一般的な家の話。日ごろから言葉で人を操っている母さんにとって、学校の先生から情報を聞き出すことなど朝飯前だ。だから昨日は躊躇ったのだ。

「どんなことを話したの?」

「……えっと」

「いいのよ、言えないなら。零が楽しいと思えた話の内容が気になっただけ」

 教師からどこまで聞いたのだろうか。すべて承知で僕を試しているように見えてきて、味覚が消えていく。

 母さんの表情、声、仕草、まるでVR映画で見た女優だ。何もかも計算されつくした、計算されていないような自然な振舞い。母さんのプライベートと長く接している人にしかこの差異はわかるまい。

 僕はだんまりを決め込んだ。しばらく食事が進んでから、母さんは唐突に言った。

「私から先生に、その子との実習を増やすように口添えしてあげましょう」

「え、それって」

 いいのだろうか。いや、よくないだろう。会話実習の相手はローテーションで決まる。僕だけが静奈とペアを組んでいれば、他の人から変に思われる。僕は目立ちたくない。噂もされたくない。そりゃあ、家のことがあるから全く噂されてないとは思わないけど、それはもう慣れたからいいのだ。わざわざ改めて注目されるようなことはしたくないというだけ。

 待て、それよりも、変だぞ。

付き合う人は選びなさい、というのが母さんの口癖だ。経済力、知名度、影響力、そんな社会的な立場を重視して選べ、たとえ悪人でもかじ取り次第では善になる、と。暴論だけど、それを完璧に実行している人の言葉とあっては、否定するだけの人生の重みを僕は持ち合わせていない。

 そんな母さんでも僕の交友関係に直接口を出してきたことはなかった。世間一般の常識としての教育方針もそうだし、母さん自身の考え方も基本的には放任主義で見守るだけだ。

時折口を出してくることもある。でも、それは母さん個人の意見として提案しているだけで強制の意志は感じられない。いつも従っているけど。

 だから、母さんが会ったこともない三木島静奈に関して好意的だというのも驚きだし、あまつさえ交友を助けようと手出ししてくるのは驚きを通り越して、変だ。

 僕は思わず止めていた食事の手を動かそうとして、完全に食欲が失せていることに気づいた。ナイフとフォークを置いて、口元を拭う。

「もういいの? 体調が悪いのかしら」

「ちょっとお腹空いてないだけ。あのさ、母さん、あの人とは実習以外で会う約束をしてるんだ。だから先生には言わなくていいよ」

「あら、そうなの。珍しい」

 母さんは驚いた顔をした。今度は本当に驚いているみたいだ。

「初めてじゃなくて? 零が他の人と約束をするなんて」

「そうかな」

「そうよ。絶対そう。嬉しいわ、私も彼女に会いたくなったわ。仲良くなれたら家に連れてきてちょうだい」

「うん、いい、よ」

 いいけど、なんで。危うくそう言いかけてぎこちない返答になった。親が子供の知り合いに興味を示すのは普通なのだろうか。僕はやっぱり変だと思う。だって何の関係もないじゃないか。

「ご馳走様でした」

ごまかすように軽く咳払いして席を立った。母さんのほうを見ないようにしてダイニングから出ていく。自室へコートと荷物を取りに行って玄関ホールに出ると、すでに運転手のアゴスティンが玄関扉の横に待機していた。十年くらい前に母が連れてきたメキシコ人。屈強過ぎて扉が小さく見える。出かける度に見る景色だ。

表の黒塗りリムジンに乗って、窓の外を眺める。

門を出て、しばらくは似たような豪邸が続く道を行く。類は友を呼ぶということだろう。この辺りにはアンティークな屋敷を好む人が多く、ある種の観光地として自宅を限定的に公開している人もいる。

しかしそれも学校までの道のりの三分の一ほどで、屋敷街には明確な終わりが訪れる。

豪邸の敷地を囲う柵は突如途絶え、白い規格建築物がずらりと並ぶ。どれも大体同じ四角い形。光を吸収して発電する素材を外壁に塗布してあるので眩しくはないけど、正しく日光に照らされた周囲からそこだけ夜のように浮いていて、人間以外には倦厭されそうな見た目をしている。木造建築の家は田舎のほうに行けばまだあるらしい。僕にとっては歴史的建造物にも思えるそういう家を忘れられない人たちが集まって屋敷街ができたのかもしれない。

どこまで行っても全く変わらない景色。窓が少なく、背が低い。日光を平等に配分するために、建築物の高さには制限が課せられているからだ。そして、理由はもう一つ。

二十六年前の東京大震災で関東圏の景観は一変した。圧壊寸前まで追い込まれたビル群は順次取り壊され、新技術を駆使した規格建築物が変わりに増えていった。VRが世に広まり始めたのもその頃だ。空へと伸ばしていた生活領域を仮想空間で代替できると分かれば、わざわざ苦労して高い建物にする必要もない。建築に時間もかからないし、素材のコストパフォーマンスもいい。ある意味では震災が技術の普及を早めたともいえるだろう。

リムジンが校門から少し離れたところに止まり、アゴスティンがドアを開ける。

「グラシアス」

礼を言うと彼は軽く頷いた。校門に歩き出した僕の背後で、彼は頭を下げているのだろう。

 一直線に更衣室に向かう。登校日の授業は体育のみだ。週に三度、こうして体を動かすために登校している。

 着替えたら自分の所属する第一特進クラスの教室に行く。一日の始まりに学校の所持する学習装置を全生徒へ一度ずつ使用するのだ。余程体調が悪くない限り必ず登校しなければ、他の生徒より確実に学力が劣ることになるから、休まないし、休めない。

学習内容はクラスごとに異なるため、上位のクラスから順に終わらせて、そのたびに装置の内容を変更する必要がある。いくつか下位のクラスからは体育の途中で教室に戻って処置を受けることになるわけだ。学習装置は高価すぎて、金持ちの集まる私立でも流石にクラスに一台装置を用意することはできないようだった。

 教室には学習装置の前に並んで待つ体操着姿の生徒が十人くらいいた。静奈はまだ来ていない。僕はそそくさと列の最後尾についた。

「神井君、おはよう」

 呼ばれて後ろを振り返ると、恭司さんだった。僕は、どうも、と鳩みたいに首を動かした。

彼の後ろに恋人の季実さんがくっついている。いつもの布陣。二人とも僕より年上。彼らだけじゃない、このクラスの全員だ。

「昨日の実習はどうでしたか?」

 母さんと同じ話題とは、みんな、そんなに静奈が気になるのか。

「いつも通りでした」

 僕の嘘を、二人は信じられないという様子で、わずかに馬鹿にしたように笑った。

「おっと失礼、君は嘘が下手ですね」

「絶対普通じゃないってあの女」

 季実さんはやかましく笑った。彼女の言葉には同意だけど、この二人の雰囲気から察するに、僕ほど静奈を好意的に見ていないようだった。

「何か変だったんですか?」

「あたしと全然会話嚙み合わなかったしー、勉強し過ぎて頭おかしくなったんよ」

「なんで勉強するんですか?」

 僕は純粋に不思議に思って聞いた。このクラスは個人で学習装置を所持していて学力が同学年と離れすぎた生徒が集められる。楽をしてうまい汁を啜っている生徒を一般的な生徒の中に置いておけば、いらぬ問題が起きると考えたのだろう。実際に別の学校でトラブルになって編入してきた生徒も何人かいるそうだ。

「学習装置を持っていないという噂です。端的に言えば、貧乏なのですよ」

「じゃあ自力で僕らと同じくらいの成績ってことですか? 凄いですね」

 それがどれくらい凄いことなのか僕にはわからないから、驚くべきところなんだろうという想像で少しだけ驚いてみた。

「物心ついた時から、起きてる間ずっと勉強していなければ、十九歳で我々と同じはありえませんね。我々のカリキュラム今年から院生まで進んでいるのですから」

「だから人間じゃないんじゃないかって、あたしら話してたんよ」

 僕は何も言わなかった。それは確かに人間じゃないかもしれないと思ってしまったからだ。それに、本人がいないところで擁護したって何の得にもならない。言わせておけばいい。この二人は他のクラスメイトと比べても相当な金持ちだから、こうして構ってもらえるならそれに越したことはない。

それにしても今の噂が本当なら、静奈が普通じゃないのは明らかのようだ。こういう場合、天才と言うのかもしれない。僕らみたいな人工的に作られた天才じゃなくて、ずるをしてない本物の天才。母さんが興味を示したのはそういうことか。

二人はとっくに別の話題に移っていた。言うほど静奈に関心があるわけでもないのだろう。みんな同じだ。僕らは人と人との繋がりをそんなに求めない世代らしい。だから会話実習なんていうものをカリキュラムにねじ込まれている。そのおかげでこの二人は恋人同士になったのだから、一定の効果は認めざるを得ない。

結局僕の処置が終わるまで静奈は現れなかった。約束があるから今日中には必ず登校してくるはずだけど、僕は少し心配になった。

登校日は午前中で終わる。一日中運動させたりしたら教育委員会が黙ってないから当然と言えば当然。

昼食はいつもなら帰ってから摂るけど、静奈と会う前に少し食べておきたくて初めて学食を利用することにした。着替えているときにそのことを話すと、恭司さんが案内してくれるというので、お言葉に甘えた。

学食に向かう途中、ここに至って、ようやく静奈とどこでどうやって待ち合わせるのか話し合っていないことに気づいた。端末で静奈に文書メッセージを送る。

『学校来てますか? 何時にどこで待ち合わせればいいんでしょうか? とりあえず学食に行っています』

 つい敬語に戻ってしまっていた。送信を指示する。

『私がそちらに行く、待っていろ』

 送信と同時に返信が来た。一体どんな反応速度だろう。普通文字を入力するときは頭の中で普段話すときと同じように声を出しているようなイメージで行う。だから話すときと同じ速度でしか入力できないはずなのに。彼女にはいちいち驚かされる。

「神井君は何にしますか?」

 学食に入るときに恭司さんが聞いてきた。どのメニューがおいしいのかよくわからないので、同じものをお願いしますと言うと、恭司はオッケーと言って席に座った。

「並ばないんですか?」

「あたしらはそんな面倒なことしないんよ」

 訳も分からず席に着くと、それと同時に他の生徒が数人集まってきて三人それぞれの前に食事を置いた。箸を手に取りながら恭司さんが言う。

「驚きましたか? 彼らは人間BMIです」

「人間BMI?」

「使用人、奴隷、パシリ。命令すれば何でも言うことを聞く存在です」

「何でですか?」

「あたしらに尽くした分だけ、うちの学習装置使わせてあげるってメッセージ送るんよ、下のやつらに」

 下位クラスの生徒のことだろう。

「この学校は国内最高レベルですから、ついていけずに後が無くなった人は、この通り」

 恭司さんは食事を持ってきてくれた三人を手で指して嘲笑した。季実さんも、みっともなーい、と言って笑った。

 三人はすごく恥ずかしそうに顔を赤くした。

 僕は目立ちたくないなと思いながら食事を進めた。オーガニックは高いからたぶん合成食材なんだろうけど、味の違いは感じない。少し濃いかな、と思うくらいだ。食べられないほどまずいわけでもないし、母さんが拘っているのはやっぱり味ではなくて高級なものを食べている事実ということだろう。

三人のうち二人は僕らの座るテーブルから離れていったが、痩せたひょろ長い男子生徒が、堂々と食事をしている二人に猫背で恐る恐る口を開いた。

「あ、あの。俺、次の試験までに装置使わせて貰えないと、やばいんです。か、金用意したんで……」

 彼は電子マネーの送金画面を二人に見せたようだ。しかし、二人は突然ゲラゲラと笑い出して、嘆願は失敗に終わったようだった。

「あ、あほすぎる! あたしらに金なんて必要ないっつーの!」

「馬鹿ですねえ、だから落ちこぼれるのですよ」

「で、でも、この間お金渡せば次の使用前倒ししてくれるって言ったじゃないですか!」

「言いましたか?」

「うーん、あたしら言ってないよ?」

「だそうです」

 そして二人はまた大声でひとしきり笑った後、可笑しさの熱が冷めきらないうちに食事に戻った。痩せた生徒は悔しそうにこぶしを握り締めて、トボトボとその場を去っていった。

 よく見渡せば、周囲の生徒の中でも忍び笑いをしている人が何人もいた。上位クラスの生徒だろう。前々から僕らと下位クラスとの間には何か軋轢があると思っていたけど、今日でそれがはっきりした。それでも、母さんの教えに従うなら、僕は迷わずに恭司さんたちの味方をする。データで見ればあの生徒と僕のクラスメイトとの影響力の差は天と地ほどあるはずだ。

「零」

 聞きなれない声に振り返ると、女の人が立っていた。よく見れば静奈だった。昨日まで彼女には興味の欠片もなかったので近くで見たことがなかったけど、VRのアバターよりかなり地味な印象を受けた。

「なーに、さっきからあたしらのことじろじろ見てたけど、やめてもらえません?」

「話が終わるのを待っていただけです」

 僕の死角でずっと待機していたらしい。となると、先ほどの一部始終を見られていたことになる。僕はなんだかとても嫌な感じがして、お腹のところがぎゅっと締め付けられるようだった。

「三木島静奈さんではないですか。何の用です?」

「私が待っているのは零です」

「彼は我々と食事をしているのですから、あとにしていただけませんか?」

「てか呼び捨てっておかしくなーい? 馴れ馴れしいんですけどー。ね、カミーくん」

 僕の思考は完全に停止していた。どっちつかずの不安定な声で適当に相槌を打つので精一杯だった。

「零、手が止まっているぞ。食事は終わりか? ならば行こう」

「神井君、この人と何か約束をしているのですか?」

「えっと……」

 否定することは簡単だ。むしろそれが最善だと思う。一度否定して、こっそり静奈にメッセージを送って別の場所で待ち合わせればいい。そうすれば恭司さんと季実さんとの関係は続けられるし、静奈との約束も守れる。それが最も合理的だ。

だけど、僕は静奈に、この二人と一緒のところをこれ以上見られたくない気がした。

恭司さんたちが一般的に良いと思われる性格じゃないのは、人間に疎い僕でもわかる。そんな二人とつるんでいる僕を見て、静奈が幻滅しないか心配なのだ。

「嘘、カミーくん、そうなの?」

 季実さんの声が少し低くなって、僕は目を泳がせた。そして、横に立つ静奈に目を向けた。

眉を寄せて困った顔をしていた。

困ったように見える顔をしていた。

計算されつくした、計算されていないような振舞い。

その瞳は真っすぐに僕を見ている。

 人間じゃない、と誰かが言った。

僕は怖くなってすぐに目をそらした。

「し、してない、ですよ」

 僕は咄嗟に口走ってしまった。

「零?」

「あ、いや」

 静奈の不思議そうな声。対面に座る恭司さんたちも、僕の返答より僕のおかしな様子のほうに気を取られていた。僕はいてもたってもいられなくなって、半分くらい残っている食事をそのままに席を立って足早に学食を出た。

 誰も追ってこなかった。


だんだん整合性取れなくなりそうで怖いです……。

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