33.意外を以外って書く奴何なの?俺が間違ってるの?
「ごめんなさいね。マルコは悪い人じゃないんだけど、自分に厳しい分他人にも厳しいのよ」
アルベルト、セレナ、ライト以外が退出した後、先ず口を開いたのはセレナだった。
マルコは代々騎士を輩出する子爵の家系で、近年希に見る逸材なのだという。
確かに、生まれながらの才能だけでなく、努力を重ねなければ若くして聖騎士にはなれない。
(そんなことより王族が簡単に謝って良いのか)
「城内での護衛に一介の冒険者が抜擢されれば、騎士の方々からすれば思うところもあるでしょう。気にしていませんよ」
内心焦りながらも、表情に出ないよう苦心しながら返事をするライト。
「まあ、セレナが小さい頃は世話役もしてたからな。自分が側で守りたかったんだろう。」
そう言ったのは国王アルベルトだ。やはりその言葉遣いは王族のものとは思えない程砕けている。外見も軍人と言われても納得するくらいには引き締まっている。
「そうだったのですか。小さい頃から親しくされていたのですね」
「歳が近いこともあって側に仕えてもらうことが多かっただけですよ?親しいとまでは‥‥‥」
少しからかうつもりで話したライトだったが、セレナは慌てたように早口になる。
ああ、マルコさん。あんたの道は険しいで。と、勝手にマルコの恋の行方を案じるライトの目の前に、ドカッと音がしそうな勢いで袋が置かれる。
置いたのはアルベルトだ。
「そいつは報酬の先渡し分だ。無いとは思うが、もしも襲撃があった場合はセレナとルヴィアを守りきったら追加報酬を払う」
袋の中には大量の金貨が入っている。数百枚はあるだろう。
「ありがとうございます。依頼達成後でも良かったのですが」
「こういうのは信用問題だからな。国のトップがケチってどうする」
しつこい様だが、ニカッと歯を見せて笑う目の前のおっさんは国王には見えない。
事務的な話を終えた後は、少しの間談笑をして退室するのだった。
城を後にしたライトが宿に着くと、いつもどおりシルヴィーが出迎えてくれた。
一階のテーブルに座り、夕食を摂る。今日のメインは魚だ。シルヴィーが心なしか寂しそうにしているのは、気のせいだろう。
「明日が王女殿下の護衛依頼ですね。会議の方はどうでしたか?」
ライトが積極的にコミュニケーションをとったのが幸いしたのか、最近はよくシルヴィーからも話しかけてくるようになった。
「まあ、普通に終わったよ。あとは明日を何事もなく乗り切るだけだな」
とあるイケメンから目の敵にされていることは、わざわざ言う必要はない。
「明後日にはC級冒険者ですね」
「そうだな。早いような、テンプレ的には遅いような。ていうか普通DだのCだのすっとばしてSからだったりするよな」
尻尾を揺らしながら、微笑ましく語りかけるシルヴィーだったが、ライトがぶつぶつと呟くうちにキョトンとした表情へと変わる。ライトも、半分はその顔見たさにこの様なことを言っていた。
「おにーちゃん、お疲れ様っ!」
ノエルが自分の分の食事を持ってやってきた。
「おう。ノエルもお疲れ様。手伝いはもういいのか?」
「うん、お母さんが一緒にご飯食べときなさいって。」
「そっか。なら冷めないうちに食べないとな」
ノエルの元気な姿や、花のような笑顔を見ていると、心が和むライト。これまでの生活で、娘や妹のような感覚でノエルを見るようになっている。
「ご主人様は、明日以降のご予定は決めていますか?」
食事の途中、シルヴィーがこんなことを聞いてきた。確かに、これまではその日その日で動いていたので長期の予定は話していない。
「んー、そうだな。王都の近くには強力な魔物もいないみたいだし、色んなとこを見て回りたいからな。そのうち旅に出ようかとは思ってるよ」
この言葉を聞いて最も大きな反応を示したのは、ノエルだった。一人だけ時が止まったように固まり、呆然としたかと思うとライトの方にゆっくりと顔を向ける。
「お兄ちゃん、出ていっちゃうの?」
「あ、ああ。ここは居心地が良いけど、いつまでも居座るわけにもいかないしな」
さらに言えば、ライトはレベルを上げ、いつか女神を召喚するという約束を忘れていない。このまま安全な王都にいても、約束を果たせそうになかった。
「そんなのやだよ!ずっと一緒に居ようよ」
次第に涙ぐむノエル。
ライトは罪悪感に駆られるが、その意志は固い。
「まだいつ旅に出るかも決めてないし、もう戻ってこない訳じゃないよ。ある程度世界を廻ったら帰ってくるさ。ほら、泣くなよ」
その意志は固い。
「勝手に決めちゃったけど、シルヴィーはそれで大丈夫か?」
「私はご主人様の奴隷です。どこまででも御一緒します」
一瞬の躊躇いもなく、シルヴィーは言いきった。
その後ノエルが落ち着くのに幾ばくかの時間をかけ、就寝する。この日は絶対に離さんとばかりにノエルが抱きつくので、中々眠れないライトだった。
同日夜、王城の一室。
そこに二人の少女がいた。肩まで伸ばした金髪に碧眼の、まだあどけない顔立ちをしたセレナと、チョコレート色でウェーブがかった髪を長く伸ばした、一つ年上のルヴィアだ。
「いよいよ明日ね」
「そうね。自分の誕生日にパーティーを開くなんて、何時になっても緊張しちゃうわ」
肩の力が抜けているルヴィアと違い、セレナは少し張りつめた表情をしている。
「今年はライト様もいるものね」
「も、もうルヴィア!そう言うことじゃないってば。あんまりからかわないで」
いつものように、ルヴィアにからかわれていじけるセレナ。ルヴィアを睨むが、迫力は欠片もない。
「想いは伝えないの?」
「‥‥‥やっぱり私、好きなのかな?」
「端から見ていたら、そうとしか見えないわね」
一転、複雑な表情を浮かべるセレナ。ルヴィアからすればそれは分かりきっていることだが、いかんせんセレナは初恋である。自分の感情をよく理解できていなかった。
「もしそうだったとしても、私は王族でライト様は平民よ。いくら私達が身分を気にしないと言っても、他の貴族は違うわ。王族の娘の役割くらい、理解してる」
セレナの言うように、身分制がある国で、それを乗り越えて結ばれるのは難しい。それも国の最上位、王家の人間であれば尚更だった。
「それは私も分かっているわ。でも、だからこそ恋ができるのなんて今だけよ。相手に伝えることもできずに、心にしまっておくだけなんて、悲しすぎると私は思うわ」
自由恋愛など許されない貴族の娘にとって、結婚する前の期間というのは、とても重要なものだった。
「それにライト様なら、功績をあげて徐爵されることだってあるんじゃないかしら」
「それはそうだけど‥‥‥」
「何もしないなら、私がとっちゃうわよ?」
「えっ、ルヴィアもそうなの?」
淡い初恋、それももしかしたら実現の芽がある。ルヴィアは、妹のように思っているセレナの背中をおしてあげたかった。冗談のように自分の気持ちをさらっと出して、セレナに発破をかける。
第二王女の成人祝い。その前日の夜も、いつもと変わらず更けてゆく。
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中々進まんやんけ




