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30.リベンジオークジェネラル

 雄叫びを上げるオークの群れに突進する二人。シルヴィーの方が僅かに早く到達し、目の前の一体に切りつける。


 上位の個体が統率する魔物の群れは統率力が増すが、一体一体の身体能力が上昇するわけではない。

 一太刀目はかなり深く入ったようだ。しかし、周りのオークに囲まれそうになったシルヴィーは一瞬で離脱したので、止めをさすことはできなかった。


 シルヴィーが退いた直後、阿吽の呼吸でライトが魔法を放つ。

 貫通力に特化した火矢(ファイアアロー)ではなく、それより威力が高めの火球(ファイアボール)だ。

 だが、手下を射線から退かしたオークジェネラルの斧の一振りで相殺されてしまった。


 魔法を撃ち落とすジェネラルを無視して、左右に散ったオークの数を減らす。ライトとシルヴィーが一体ずつ倒した頃、ジェネラルがライトのいる方へ向かってきた。恐らくは魔法を使えるライトを放っておけなかったのだろう。


「好都合だ。ジェネラルは俺が押さえる!シルヴィーはその間に雑魚を間引いてくれ!」


 シルヴィーはアイコンタクトで了承の意を示す。同時に、間合いに入ったジェネラルが頭上から斧による攻撃をしかけてきた。

 ライトはそれを受けとめずに、半歩横に動くことでかわす。


 ジェネラルの斧捌きは、ガイモン程ではないにせよ、スキルを持っているであろうくらいには体系的なものだ。膂力という点では彼に匹敵するか、それ以上かもしれない。


「おおおおおおおお!」


 しかし、続く下段からの切り上げを、ライトは正面から剣で迎え打った。金属同士でぶつかる音が響く。一合、二合と切り結ぶ。ジェネラルの巨躯から繰り出される攻撃に、一歩も引くことなく剣を合わせるライト。


 ブモォォオオオオ!!


 ジェネラルの雄叫びと共に、斧の基本武技ブレイクが放たれる。ライトも剣の基本武技スラッシュで応戦し、互いにノックバックをくらった。


「いいぞ」


 C級の、それもパワータイプの魔物と正面から打ち合えていることに、確かな手応えを感じるライト。

 ジェネラルの斧を見ると、何ヵ所も刃こぼれがある。ライトの業物のロングソードには、少しの傷もなく、新品同様だ。


(ドズルの親父さんにも感謝だな)


 視線を戻すと、未だに無傷のライトに対して怒りの表情を浮かべたジェネラルが、発狂したように突進してくるのが見える。


「おいおい、戦いは冷静さを欠いた方が負けるってラノベ先生に習っただろ。後ろ大丈夫か?」


 すかした様子で語るライトだが、言葉の通じない魔物に伝わるはずがない。

 無防備なライトにそのまま切りかかろうとするジェネラルだったが、背後からの鋭い斬撃に、今度は雄叫びではなく悲鳴を上げた。


「冷静さ、ですか。ご主人様も先ほどは馬鹿正直に打ち合っていたようですが。もっと魔法を絡めれば楽ができたのでは?」


 現れたのは勿論シルヴィーだ。ライトの下で急速に成長する銀狼獣人にとって、オークの二体や三体は物の数ではない。


「いやいや、あれは自分の成長を確認するためであって、別に頭に血が昇ってついつい脳筋思考になったわけでは‥‥‥」


 背中に入った深い切り傷にのたうち回るジェネラルを尻目に言い訳をするも、図星を差されているのでしどろもどろになってしまう。

 戦場においては、シルヴィーは口調が厳しくなるようだ。


「まあ、一度は断念した魔物ですし、多少は仕方ないでしょう。それで、ジェネラルの相手はご主人様がお一人でするのですか?」


 立ち上がったジェネラルの目には、怒りの炎が宿っている。


「んー、目に見えるリスクは取らない派なんだけど、俺だけでも大丈夫そうだし、シルヴィーは休んでてくれ」


 チラとシルヴィーを見るが、疲労している様子はない。しかし、オークジェネラルがパワーに秀でた魔物であることに変わりはなく、一撃もらうだけで大怪我を負う可能性はゼロではない。


「雑魚を引き付けてくれて、ありがとな。少し待っててくれ」


「御武運を」


 ニカッと笑って飛び出したライトには、クールな表情だが尻尾が振られているシルヴィーの姿は目に入らなかった。




 再び正面衝突を繰り返すジェネラルとライト。狂ったように暴れまわるかに思われたジェネラルだったが、手痛い傷を負ったことで獲物ではなく外敵と判断したのだろう。斧だけでなく、巨体を生かした蹴りや体当たりも繰り出すようになっている。

 時には剣で応戦し、時にはバックステップや身のこなしで避けるライト。


 先に焦れたのは、ジェネラルだった。自分より小さく、細い人間をいつまでも殺せないことに苛立ったジェネラルは、斧を両手で持ち、大きく振りかぶった。


「待ってたぜ!」


 これを見逃すライトではない。ここまでは体格の差と攻撃の重さで活かせていなかったが、本来スピードと技量では遥かに上回っている。がら空きになった胴体と下半身に、連撃を叩き込む。


 足、膝、腹、胸、無数の斬撃を浴びせた後、両手に魔力を収束する。ロングソードを持った右手には風の魔力が渦巻き、左手には炎の魔力が溜まっている。


「風刃」


 刀身に纏った風によって鋭さを増した魔法剣が、ジェネラルを袈裟に鋭く切り裂く。既に半ば死に体のジェネラルに、ライトは止めの一撃を放った。


火葬(インシネレイト)!」


 解放された風が未だ周囲を渦巻くジェネラルに、爆炎が襲来する。風と炎は互いを巻き込み、大爆発を起こした。


大斬撃と業火に身をさらしたオークジェネラルは、膝から崩れ落ち、間を置かず倒れこんだ。


「お見事」


「格闘術使ってねえ‥‥‥」


 焼け焦げ、炭化したジェネラル。燃え上がる炎に照らされるのは、感嘆するシルヴィーと、なぜか落ち込むライトだった。

お読みいただき、ありがとうございます!

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