25.カウントストップ
いつもより投稿が遅くなってしまいました
不定期とはいえ、お待たせしてすいません
宿に帰ると、ニヤニヤした女将に出迎えられた。
「おやあ?その娘どうしたんだい?」
「訳があって俺が引き取ることになった戦闘奴隷ですよ。勘違いしないでくださいね。それで、部屋に空きはありますか?」
「なんだい、一緒の部屋で寝ればいいじゃないかい」
女将がこんなことを言い出した。
ライトだって日本のサブカルチャーを愛する健全な青少年である。美少女とのウフフな展開だって想像する。想像するが、現実は非情なものだとも知っていた。
「いやいや、そんなことする訳ないじゃないですか。それで、空いてるんですか?」
シルヴィーが口を挟まないのを少しだけ残念に思いながらも、女将を急かすライト。
「はぁ~、度胸のない子だねえ。部屋は空いてるよ」
「あ、ライトさんだ!お帰りなさい」
そこに、ノエルがやってきた。いつもの通り挨拶をかわすが、ノエルとシルヴィーの挙動が若干ぎこちない。それに目ざとく気づいたのは女将だけだった。
「この匂い、ライト様についている匂いと同じ‥‥‥」
「ライトさん、この人はお友達?」
シルヴィーの呟きはとても小さい声だったので、ライトの耳には入らない。
「ああ、そんなもんかな?俺の冒険者仲間だよ」
まだ年端もいかない少女に奴隷という言葉を教えるわけにもいかず、ライトは言葉を濁した。
「そっか!それよりお兄ちゃん、今日も一緒に寝ても良いよね?」
「おに!?いや、いいけど、いいんですか?女将さん」
突然呼び方を変えたこと、この場での唐突な発言に驚いたライトはびくびくしながら女将を見やるも、当の女将は未だにやついている。
「ん?別にかまやしないよ。こんな子供をとって食ったりしないだろ?」
ほっと胸を撫で下ろすが、思わぬ伏兵が存在した。
「ご主人様、やはり私も同じ部屋に泊まらせていただきたいです」
シルヴィーである。
「ごしゅっ!?いやいやいや、さすがにそれは不味いでしょ。」
「部屋を分けると当然ですがお金が倍かかります。それとも、奴隷と同じ部屋で過ごすのは嫌でしょうか?」
「嫌なわけないだろ、分かったよ。部屋は増やさないことにしよう」
こんな言い方をされて、断る術はなかった。もともと断る理由もなかったのだが。
そんな経緯で、三人川の字で朝を迎えた。空は晴れ渡り気分爽快、スッキリとした朝だ。
もちろん皆心地よく目覚めることができた。
(こんなん寝れるわけないだろ)
約一名を除いて。
寝ぼけているのかしっかりと抱きついてくる少女に、その向こうで眠る目も冴える様な美女。こんな経験があるはずもなく、一睡もできずに夜を明かすのだった。
少し寝不足になったものの、類希なるステータスを持った18歳なので一徹くらいで大きな影響はない。
ライトとシルヴィーは日用品を買い揃えた後、今日もダンジョンへと向かった。
「うっし、今日は三層に行くぞ。D級の魔物がメインになってくるけど、大丈夫か?」
「はい。ゴブリンの上位種やオークはこれまでにも狩っていますので大丈夫です。」
冒険者にしてD級の実力はあったシルヴィーが何故奴隷になったのか。その過去に少し疑問を抱いたライトだったが、今はまだそこまで打ち解けていないとぐっと飲み込んだ。
グランレイの迷宮三層は、D級の魔物が闊歩する中級者以上向けの階層だ。人間よりも種族的に力の強いオークなどが出現する。
「ご主人様。前方にオーク、恐らく二体です」
「分かった」
しかし、三層も二人にとって厳しい場所ではなかった。
18歳にしてD級上位やC級の実力を持つライトとシルヴィーにとってオークやゴブリンナイトは敵ではなく、さらにシルヴィーの超感覚によって効率的な索敵が可能だからだ。
今も出現したオークをいち早く察知し、魔物が気づく前に先制攻撃で仕留めている。
「それにしても、三層に来てからガンガンレベルが上がるな」
「はい。剣士もですが、軽戦士のジョブがすごい早さでレベルが上がります。さすがに早すぎるような?」
「あー、それも俺の加護でな。詳しいことは時間ができたら話すよ」
奴隷であるシルヴィーは命令されれば秘密を話せないため、ライトは事情を隠す気がなかった。自衛する力をつければ、周囲にも神経質に隠す必要性ないだろうとも考えている。
次に現れたのは、ゴブリンナイト三体とゴブリンメイジ二体だ。
ゴブリンメイジは魔法を扱う。遠距離攻撃の多彩さや威力から、アーチャーよりも厄介とされている。
「魔法防御の高い俺が正面。シルヴィーは遊撃で数を減らしてくれ」
「はい!」
数は多いが慌てることはない。一昨日までとは違い、今は二人で攻略しているのだ。しっかりと役割分担を果たせば問題はない。
ライトが正面から突撃し、ナイト三体を同時に相手取る。ナイトはメイジの護衛も兼ねているが、三対一でも押さえ込まれているためシルヴィーに対処できない。
メイジの魔法では素早い上に感覚の鋭いシルヴィーに当てられず、易々と距離を詰めていく。間隙を縫ってメイジ二体をシルヴィーが倒した頃には、ライトもナイトの一体を魔法剣で武器ごと切り裂いていた。
後はそれぞれ一体ずつナイトを始末するだけだ。これも作業のように問題なく終わった。
「二つ以上のジョブに就けると、経験値効率を気にしながらでもここまで楽に戦えるのですね」
感心したようにシルヴィーが呟く。
「まあ、入る経験値はそれぞれのジョブに100%ずつだからな。まさに格差社会‥‥‥お」
ライトの頭の中でアナウンスが鳴り響く。
「どうしましたか?」
「剣士と闘士のレベルが上限まで上がった!」
「本当ですか?おめでとうございます」
ライトはこの時、二度目の異世界で初めてジョブレベルをカンストさせるのだった。
ステータスーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:ライト
ジョブ:剣士lv.40、闘士lv.40、魔法剣士lv.26
HP:2640/2640
MP:3120/3120
力:343
速:342
技:344
魔:262
スキル:剣術lv.5、体術lv.4、基本属性魔法lv.3、魔法剣
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