24.「みすりる」って打って変換しようとすると予測変換に「ミスチル」って出てくるんだけど
「こいつが頼まれていたオーガの槍だぜ」
そう言ってドズルが持ってきたのは、黒い金属と白い刀身で作られた槍だった。
全体のバランスとしては、一般的な鉄槍と比べて刀身が長く柄が少し短い。反った刀身と合わせると、短槍よりで薙刀よりと言ったところか。
オーガの牙は元々真白とまでは言えない程度の見た目だが、職人が研磨することによって見事なまでの白になっている。刃の部分に至っては輝いているようにすら見られた。
牙だった頃の面影と言えば反り返っているところだろうか。片刃にも思えるが、実際は両刃だ。
「おお、綺麗ですね」
「だろう?この俺が丹精込めて磨きあげたからな。武器としてのランクもいくらか上がったはずだぜ」
「素晴らしい槍です。ドズルさんは良い腕を持っているのですね」
シルヴィーも武器の良し悪しがある程度分かるようだ。
「あんがとな、嬢ちゃん。黒い柄の部分は黒鋼を使ってる。普通の鉄鋼より粘りがあって丈夫で魔法耐性も高い。ま、こりゃサービスだな。」
「ありがとうございます。タダで作ってもらえた上に黒鋼まで使っていただけるなんて」
黒鋼は丈夫さもさることながら、鉄よりも産出量が少ない。ミスリルやアダマンタイト等の魔法金属ほどではないが、希少金属だ。
「なあに、新人に対する餞別みたいなことはいつもやってる。坊主は金を落としてくれそうだしな。
続けるぜ?刀身を見りゃ分かると思うが、突くことだけじゃなくて斬ることにも対応してる。坊主は剣も使うようだからこっちの方が言いと判断した。
加えて言うなら、坊主はすぐに強くなってもっと上等な槍を持つだろうから、そうなってもサブで使えるように短槍気味に仕上げといたぜ」
「客に合わせた物を作っているのですね。ライト様は良い鍛治師に出会えたようです」
シルヴィーがうんうんと頷きながら、感心したように言う。ライトも、注文以上の出来と心配りに感激している。
「それじゃあ、早速お金を落とさないといけませんね。シルヴィーの防具を用意したいのですが」
「ふむ、嬢ちゃんのか?狼獣人は強いからな。俊敏さを活かすなら、やっぱ革鎧とかの軽装か?」
「はい。以前も革鎧を使っていました。」
ドズルの問にはシルヴィーが答えた。ライトが追加で注文した盾と合わせて予算は大体金貨5、60枚だと伝えた。盗賊の調査依頼を行った際、討伐はC級依頼として処理され、役所からの賞金も出たため、少し余裕がある。
「んじゃあ、これなんかどうだ」
ドズルが指したのは、標準的なデザインの革鎧だ。魔物の素材でできていて、防御力はブラックオーガに及ばないものの充分頑丈だという。
ライトのものよりは若干金属部分が少なくなっていて、ガントレットがグローブに、といった感じだ。鋼の片手持ちラウンドシールドと合計で金貨50枚と少しだったので、即決で購入した。
「武器は大丈夫なのか?」
「ダンジョンでドロップしたものがありますので、まずは防具を優先しました。また資金が貯まれば買いに来ますね」
ドズルの鍛治屋で装備を整えたライト達は日暮までまだ時間があることを確認し、ダンジョンへ向かった。お互いの実力を確かめるためだ。シルヴィーが下位職なので、三層ではなく二層に跳んだ。
結論から言って、シルヴィーは強かった。
ステータスではまだまだライトが上だが、獣人の戦闘勘とユニークスキルの超感覚で危なげなく、瞬く間に敵を切り裂いていく。
ライトがしばらく苦労した弓矢の対処も、初撃からかわし、弾き、無傷で倒しきった。二層の魔物相手では全く問題にならない。
「良く分かった。シルヴィーは凄いな。獣人の戦闘力を思い知ったよ。勿論シルヴィーの努力あってこその実力だろうけど」
シルヴィーは初めて渡した武器も使いこなしていた。
コボルトの短剣と幅広のゴブリンの剣を器用に使って敵を仕留める姿は、舞っているようでもある。
「ライト様こそ、私よりずっと強いではないですか。同年代では負けたことがなかったのですが、ライト様には勝てるイメージが湧きません。感服しました」
どこか心酔したような目で見つめられて、むず痒く感じるライト。獣人が腕っぷしを重要視するのは本当のことのようだ。
「そうは言ってもステータスの差でそうなってるだけでな。実は俺、トリプルジョブなんだよ」
そう言っても、シルヴィーの目に変化はない。むしろ、よりいっそう尊敬されてしまった気がする。
「トリプルジョブ!?ライト様は神に愛されているのですね。」
何を言っても無駄なようなので、先に進むことにしたライト。しばらくシルヴィーのレベリングをして、ボス部屋に向かった。
「お、いるな。今回の魔物は‥‥‥」
「オークですね。三体いるようです」
シルヴィーの言うとおり、それぞれ違う武器を持ったオークが三体並んでいた。前回の失敗を思いだし、魔術師がいないことを確認する。
「よし、行くぞ。俺が真ん中のデカい奴をやる。二匹行けるか?」
「お任せください」
即答するシルヴィーに安心して任せることにして、二人は広間に突入する。今回はボスらしい大きなオークが先頭を突貫してくる。それをライトは正面から盾で受け止めた。
「今だ、行け!」
「はい!」
衝突したオークとライトの脇を抜け、颯爽と切りかかるシルヴィー。それを見届けてライトは目の前の敵に集中した。
(仲間がいると、やり易いことこの上ないな)
オークが斧を振り回すのを、バックステップでかわすライト。オークの体が開いたところで、斧を持った手を切り上げによって切断する。
ブホオオオオオオオ!
その痛みによる叫びは、首を狙ったライトの一薙ぎで止まった。
シルヴィーの方を見ると、こちらも丁度戦闘を終了したようである。
「俺ももたついたわけじゃないんだけど、シルヴィーは頼りになるな」
「ありがとうございます」
口では言葉少なげだが、尻尾はパタパタと振られている。
「明日からは三層に行くか。今日はもう帰ろう。宿の飯は上手いぞ」
穏やかな表情でそう言って、ダンジョンを出た。
ステータスーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:シルヴィー
ジョブ:剣士lv.31、軽戦士lv.18
HP:1286/1286
MP:73/73
力:135
速:156
技:98
魔:32
スキル:剣術lv.3、軽業
ユニークスキル:超感覚、武才
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お読みいただき、ありがとうございます!




