21.リア充、爆発する
ノエルと街を巡り、セレナ達と会った翌日。ライトは今日もダンジョンに来ていた。
ダンジョンは入り口と各階の階段に魔方陣が設置されており、既に到達した階までは瞬時に移動できる。ライトは三層の入り口まで跳べるが、二層入り口に転移した。弓への対応を身につけるためである。
「レベル上げやスキル上げも大事だけど、地道な訓練も大事だからな。っと、最初の敵に弓持ちはなしか」
丁度目の前に出現したコボルト数匹を、数度剣を振って殲滅する。レベルで言えば、すでにこの階層の魔物は敵ではない。
何度かの戦闘の後、現れた魔物の中にゴブリンアーチャーがいた。
「よし、こい。」
一匹のゴブリンファイターがこちらに突貫し、後ろに控えるアーチャー二匹が弓を射ってくる。
まずはバックステップで距離を取りながら、ファイターとアーチャーを引き離す。十分にスペースが空いたところで、追いつかせたファイターを一刀で切り捨てる。
「ここからだ」
ライトが始めたのは、矢を避ける訓練だった。
ある程度の距離から射たれる矢を、時には弾き、時には避ける。
しばらく続けて慣れたら少し距離を詰める。徐々に近づいていき、別の集団が近くに現れたらアーチャーを始末してまた同じ訓練を繰り返した。
何度同じ事を繰り返しただろうか。何時間戦闘を続けているか分からなくなるほど訓練して、ようやくライトは一息ついた。
「ふう、こんなもんかな。後はレベルや身体能力を上げれば敵が強くなっても大丈夫だろ」
弓への対応にある程度自身をつけたライトは、二層のボスを倒して明日から三層に行くことを決めた。
「ボスはいるかな?お、いたいた」
二層のボス部屋にたどり着いたライトが広間を見ると、前回と同じくゴブリンナイトが二匹、そして中央にハイゴブリンがいた。
一昨日の戦闘時よりレベルの上がっているライトは、意気揚々と広間へと入る。
それに呼応してゴブリン達も剣を抜き、臨戦態勢を取った。今回のハイゴブリンは、棍のような得物を持っている。両者の距離が縮まり、やがて接敵する。
「まずはお前らから始末してやる!」
ライトが地を蹴って加速しナイトに斬りかかろうとした瞬間、視界が赤一色に包まれた。
ドオォン!
(ぐう‥‥‥!?)
咄嗟のことに判断が遅れるライト。自分が火魔法で攻撃されていることに気づき土壁を張ったのは、二度目の爆炎をその身に受けた後だった。
灼熱の炎に身を焼かれたものの、レベル差が功を奏したのか致命傷からは程遠いダメージで済んでいる。
「くそっ、間抜けか俺は!」
感情を抑えきれず叫ぶライト。ハイゴブリンが持っているのは打撃用の棍ではなく、魔術師が使う杖だったのだ。最初見たときに気づいていれば警戒はできたし、ナイトに集中せず後方にも気を配っていれば魔法を撃たれた後に避けることもできたはずである。
(仲間がいるときならばどうなっていた?誰かを守っているときならば、どうなっていた!?)
自分の浅はかさに辟易とする。相手はすでに討伐経験のあるゴブリン達だからと、焦ってナイトを早く倒すことに集中しすぎてしまったのが原因だった。
「考えるのは後だ」
その後冷静に態勢を立て直したライトは、危なげなく戦闘を終えるのだった。最後に残ったハイゴブリンを倒し、ため息をつく。
「ラノベとか読んでる時、主人公の油断に散々イラついてただろうに。気が抜けていたな」
宝箱に入っていたのは、数枚の銀貨。今日の教訓を忘れまいと、厳しい表情で帰路につくライトだった。
王都グランレイ。その貴族街の一画に、一際大きな屋敷がある。屋敷の主、マールカイテ・フォン・ベッケンバウアー侯爵は過度な装飾が施された部屋で最高級のワインを水のように煽っていた。
「セレナめ、この私を無下にしおって。私はこのウォーク王国建国以来の重鎮、ベッケンバウアー家の当主であると言うのにっ!」
ダンッと音を立て、テーブルに拳を振り下ろす侯爵。その脂ぎった顔はアルコールによって赤く染まっている。
「まあ良い。簡単に靡かん女を屈服させるのもまた乙というもの。婚約が成ったあかつきにはあの絹のような肌をたっぷりと堪能してやろう。そして、王子達を排除してゆくゆくは王座をこの手に‥‥‥ぐふ、ぐふふふ」
醜悪な笑みを浮かべる侯爵。
侯爵は、自分が王位につく野望を抱いていた。第一王女はすでに他国に嫁いでおり、継承権はない。セレナを妻に迎え、未だ健在な国王、王子達を暗殺する計画を立てていたのだ。
本来このような無謀な策が上手くいくはずが無いのだが、彼には権力があり、そして財力があった。
自分の派閥の貴族を従え、そしてその有り余る金を使い、
「ええ、私共をお使いいただければ、必ずや閣下の願いを叶えて見せましょう」
「当然だ。そのために大枚をはたいて貴様らを雇ったのだからな。此度のパーティー、私が侵入の力添えをしてやるのだ。きっちりと仕事をしてもらうぞ」
協力な傭兵団を雇っていた。側に控える紳士然とした男が、失敗などあり得ないと言う声色で話す。
「お任せください。」
「ふん、下っ端風情がほざきよる。下がって良いぞ」
「は」
慇懃に頭を下げ、男が退出する。
屋敷を出た男は上着を脱ぎ捨て、漆黒のコートを羽織り、前髪をかき揚げた。
「欲に溺れた豚ほど扱い易いものはないな」
独り言を呟いているかに思われたが、路地裏の影からひっそりと、もう一人の男が姿を見せる。
「予定に変更は無しか?団長」
「ああ。他の王族はどうでも良い。第二王女をさらって撤退だ」
「あの豚貴族の依頼はどうすんだ?」
「当然無視だな。パーティーへの侵入に協力してもらったら、後は罪を背負うのにも協力してもらうさ」
男達の声を聞くものはいない。幾重もの陰謀謀略が、王都の夜に蠢いていた。
ステータスーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:ライト
ジョブ:剣士lv.35、闘士lv.35、魔法剣士lv.23
HP:2480/2480
MP:2840/2840
力:303
速:301
技:302
魔:231
スキル:剣術lv.4、体術lv.4、基本属性魔法lv.3、魔法剣
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