20.リア充は爆発すれば良いと、そう思わないか?
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宿で今日買ったばかりの礼服に着替え、ライトは王城へと出向いた。
前回と同じ老執事に案内され、前回と同じ部屋に通されると、前回と同じくセレナとルヴィアに数人のメイドがいた。
一つだけ違うことがあるとすれば、皆がライトを見て驚いていることだろうか。
「どうかしましたか?」
困ったようにライトが言うと、思い出したかのようにセレナが口を開く。
「すいません。その、お洋服がとっても似合っていたもので、つい」
「そうですか?いつまでも冒険者の装備や安物の服で来るのもどうかと思いまして。変じゃないなら良かったです」
口が上手いなあ、と考えながらも経緯を説明するライト。
事実、ライトは特に不細工という訳ではないが、イケメンかそうでないかで言えば日本の女性の8割がノーと答えるくらいに普通の容姿をしている。
黒髪黒目はこの世界では珍しく、顔立ちが西欧風な人間が多い世界の人々からすれば、ライトは外国人のような見た目に感じられたのかも知れない。
「ダンジョンには行かれたのですか?」
「ええ、一昨日。遠距離攻撃の想定をしていなかったので弓の対処に苦労したのですが、なんとか三層まで行けました」
「まあ、一日で三層ですか?すごいペースですね」
ライトをC級相当の実力だと思っているセレナ達からすれば一層二層で苦労するとは思っていなかったが、それでも移動の時間を考えるとほとんどの魔物を舜殺していることが分かるため、そのペースの速さに驚いた。
ふと気になったのか、ルヴィアが訊ねる。
「一昨日と仰いましたが、昨日はどうしていたのですか?」
「冒険者ギルドに魔石を売りに行ったのですが、ちょうど盗賊の調査依頼が発生しまして。それで調査に向かって成り行きで討伐に発展したら一日が終わっていました」
貴族の令嬢にあまりする話ではないと、さらっと流したのだが、やはり衝撃的な内容だったらしい。
「大変な一日だったのですね。それでライト様にお怪我はなかったのですか?何かあれば私の回復魔法で治してさしあげますが」
「相方の冒険者が優秀でしたので、殿下が心配するような事はありませんよ」
「本当ですか?それなら良いのですが‥‥‥それから、ルヴィアのことは名前で呼んでいることですし、私のこともセレナと気軽に呼んでください」
いきなり振られた話に困惑するライト。
「え、ええ?しかし殿下に対してその様なことは失礼では」
「セレナと」
「‥‥‥ではセレナ様で」
不安げに、しかし気迫を込めて詰め寄るセレナに、ライトはここまで折れるので精一杯だった。
しばらく雑談を続けていると、部屋の外がやけに騒がしいことに気づく。
「お、お止まりください!王女殿下はどなたも入れないようにと「うるさい!殿下にはこの私が直接話をすると言っておろう!下がっておれ!」」
そんな声が聞こえたあと、扉が開く。そこには必死に止めようとする執事と、でっぷりと肥え太ったブタのような男がいた。
「おお、これはセレナ嬢にルヴィア嬢。ご機嫌麗しゅう」
そう言ってにっこりと微笑む男は、ライトには一瞥もくれない。
年の頃は4、50と言ったところだろうか。手にはゴロゴロと宝石のついた指輪を嵌め、身に纏った貴族服には下品なまでに装飾が散りばめられていた。
(これまたテンプレートな豚貴族がやって来たもんだな~)
とライトは呑気にも観察しているが、女性陣は険悪なムードを漂わせている。
「ベッケンバウアー侯爵、殿下がいる部屋に許可なく入られるのはどうかと思いますが。現在殿下はお客様をお迎えしている最中です」
ルヴィアがそう言ったところで、男はようやくライトに視線を向ける。
「お目にかかれて光栄です閣下。ライトと申します」
ライトが名乗ると、フンっと鼻で笑い男が口を開く。
「マールカイテ・フォン・ベッケンバウアー侯爵だ。なんの用か知らんが、ご苦労だったな。もう帰って良いぞ」
(丸描いてフォイ?)
「そうですか。それでは私はこれで」
「お待ち下さい」
馬鹿にされた様子でも特に気にしていないライトが面倒になる前に退散しようと席を立つが、それをセレナが引き留めた。
「ベッケンバウアー侯爵。いくら貴方とは言え、やりすぎではないですか?あまり品位を疑うような事をするようならば、お父様にも相談しなければならなくなりますが」
セレナの声には、怒気が含まれている。こんなセレナは初めて見たとライトが驚いていると、マールカイテも言葉に詰まっている。
「っ、しかしだな。わざわざ私がこうして」
「お帰りください」
「‥‥‥‥」
「出口はそちらですよ?」
セレナが扉を指すと、渋々と言った様子でマールカイテは出ていった。
「お見苦しいところをお見せしました。すいません」
「頭を上げてください。私は気にしていませんので。でん...セレナ様も大変ですね」
セレナがバツが悪そうに謝るが、ライトは何も気にしていない。マールカイテの態度に思うところが無いではないが、それはセレナやルヴィアの落ち度ではない。
「侯爵はセレナ様を妻に迎えようとなさっていて、時々こうして会いに来るんです」
「そうなんですね。御子息が丁度近い年齢なんですか?」
「いえ、御子息ではなく、侯爵本人です。」
「それはまた何とも‥‥‥私は貴族ではないのでそういったことは分かりませんが、セレナ様は王女様でお美しいですから仕方ないのかもしれませんね」
「う、美しいだなんてそんなことはありませんよ、もう。」
顔を赤らめ俯くセレナ。
「セレナ様には持ち込まれる縁談も多いのですが、侯爵は特に熱心で殿下も国王陛下も困ってらっしゃいます。っとこんなことライト様に言うことではありませんでしたね」
その後もたあいない会話を続け、ライトは城を後にした。
帰りに冒険者ギルドによってみるも、盗賊から助けた少女はまだ目を覚ましていないとのことだった。
病気や体の疲れはポーションや魔法で治すことが難しいため、医療が地球ほど発達していないこの世界では出来ることはあまりない。
宿に戻ったライトはいつものように夕食を食べ、体を洗ってから眠りにつくのだった。
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