2.この物語にはおっさんしか出ないのだろうか
王都初日の話。次話から転移時の話です。
「よし、通っていいぞ。次、ん?身に付けているものからして冒険者の様だが、見ない顔だな。他所から移って来たのか?」
前に並んでいた商人が王都へと入っていくと、王都を囲むようにして建っている高い石壁の門で人の出入りをチェックしている兵士が尋ねてくる。ごつい。
身長は180cmくらいだろうか、この世界の男性としてはそこまで大きくないが、がっしりとした体格にチョビヒゲが生えた精悍な顔つきをしている。そこはかとなく強そうだ。
「こんにちは。いえ、これから冒険者になるために登録に来ました。あ、出身の村が田舎なもので身分証を持ってないんですが、どうすればいいですか?」
大きな街に入る時には身分証を提示しなければならないので、あらかじめ考えておいた話をする。
「む、そうか。身分証が無いものは仮身分証の発行に銀貨1枚かかるが、払えるか?」
田舎から出てきた、如何にも初心者な革鎧を着た奴が金を持ってるいるか分からなかったのだろう。
(事実金は持ってないんだけどね。)
「すいません、お金は無いので魔石を代わりにしても良いですか?」
道中で倒した魔物から取り出した魔石を差し出す。
「む、大きさから言ってオークの魔石か。ちょうど銀貨1枚分のレートだったな。」
「ええ、騎士が魔物と戦闘しているところに偶然通りかかりまして。苦戦しているようでしたので戦闘に加わったら、そのお礼というか、報酬というかで魔石をいただきました。」
これは本当の事なので問題は無いだろう。正確には通りがかりの馬車とその護衛だろう騎士達がオークの群れとオーガに襲われていたので魔物を殲滅した、だが。
オーガの魔石ももらっていたのだが、それは金貨1枚は下らない魔石なのでここではオークの魔石を出した。
まだ自分で倒した分のオークの魔石5つとオーガの魔石1つがある。これを売れば暫く資金に困ることはないだろう。
「むぅ、そんなことがあったのか。一応そのことはこちらで確認取らせてもらうぞ?」
「ええ。騎士の部隊長はモーガンさんと言う方です。今は王城にいらっしゃるかと。俺のことはライトと言えば伝わると思います。」
今日も隣で話していたおっさん騎士の名前を出す。
「そうか。では明日にでも身分証を作って持ってきてくれ。冒険者になるならギルドカードが身分証として使えるからな。これが仮身分証だ。」
「ありがとうございます。今日は宿をとったらそのまま寝る予定ですので、明日の朝また来ますね。」
身分証と仮身分証がゲシュタルト崩壊を起こしそうになりながらも予定を告げる。
「うむ。明日も私が門衛をしているのでそれで問題ないぞ。ようこそ、王都グランレイへ」
(おお、RPGゲームの定番っぽいセリフだ)
少しの感動と共に王都への門を通った。
王都グランレイは、その名の通りウォーク王国の首都、第一の街と言える都だ。
中世ヨーロッパのような街並みにたくさんの人々が道を行き、露店や店、大通りは活気で満ちている。この風景を眺めていると異世界に来たんだという実感が湧く。
「あんちゃん、そんなとこで立ち止まってちゃ通れねえだろ。早くどいてくんな。」
「あ、すいません、大きな街に来たのは初めてなもので、つい。」
門を通ってすぐのところで立ち止まってしまっていたので、後ろの商人の迷惑になってしまった様だ。反省。
ちなみに商人は馬車を使っているが、王都の表通りは最低でも馬車2台分の幅はあるので余裕をもって通ることができる。
「あんまりキョロキョロしてっと、スラムのガキんちょになめられるから気をつけろよ~」
元から本気で怒ってはいなかったのだろう。おのぼりさんを見るような暖かい目で助言をくれた。異世界は気前の良いおっさんで溢れているのかもしれない。
そんな益体のないことを考えながらも、陽はすでに傾いている。
早く宿をとらなければ部屋が無くなってしまうかもしれないと考えたライトは、残りのオークの魔石を売ったお金で宿をとることに決めた。
(あ、魔石はどこで売ればいいんだ)
魔石を売る場所を門衛に聞きに戻るハメになるのだった。
門に戻り話を聞くと、冒険者ギルドに所属している者は冒険者ギルドに、そうでなければ商業ギルドに売るのが一般的な魔石の扱いなのだと言う。
(冒険者登録は明日の朝する予定だし、商業ギルドに行くか)
教えてもらった道を行くと、きちんと商業ギルドに着くことができた。オークの魔石は5つで銀貨5枚、オーガの魔石は金貨1枚だった。オーガの魔石を出した時にはギルドの人が一瞬動きを止めていたのが少し面白かった。
すでに夕暮れ時になっているので、とりあえず商業ギルドで教えてもらった酒場や宿が集まる通りで、適当な宿を見つけて1部屋を明日の朝まで借りて、そのまま部屋へ入った。
「ふー、やっと落ち着けるなー。」
部屋のベッドに腰掛けながら、ライトは今日の出来事を振り返る。
「しかし王都へ来て早々、翌日には王城にご招待とは。テンプレは結構だがそれにしてもいきなりというか何というか。昨日から随分慌ただしいな。」
そう呟きながら、ここ異世界に来ることになった日のことを思い返すのだった
お読みいただきありがとうございます。
次話からは時系列にそって話が進みます。