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19.ノエルの日記 with B

前回のあらすじ


盗賊のアジトを発見し盗賊達をやっつけたライトとガイモンは、衰弱した様子の少女を保護してギルドへと帰るのだった。


冒頭意図的に漢字を少なくしています。読みづらかったらごめんなさい。

 今日はライトさんとお買いものに行きました。


 いつもは朝から宿や食堂のお手伝いをしなくちゃいけないけど、たまに食堂をお休みにして宿のお客さんだけにごはんを作る日があります。てーきゅーびは大事だってお母さんが言ってました

 そんなときには「ノエルはあそんでおいで」ってお母さんたちがお休みをくれます。


 お友だちはみんなお家のお手伝いをしているから、たま~にお休みがいっしょにならないとあそべません。「きぞくさま」の子どもたちは、かわいい服をきて、ゆうがな暮らしをして、いいなあと思います。


 今日はお友だちはみんなはたらいてるから、どうしようかなーって考えていたら、ライトさんがおきてきました。 お母さんがライトさんに、


「今日ようじがないなら、ノエルにつきあってやってくれないかい?」


 って言ったので、今日はライトさんがいっしょにお買いものにつれてってくれることになりました。お父さんはちょっとこわい顔をしてたけど、なんでなんだろう?


 さいしょライトさんはあんまり元気がなくて、私といっしょにいるのはいやなのかな?って思いました。


 でも、ライトさんに聞いたら、「そんなことないよ」って言ってくれました。大人の人はいろいろあるんだなあと思いました。


 ライトさんはいろんなところにつれてってくれました。楽しくって気づいたらライトさんのやくそくの時間になってて、いっしょに宿にかえりました。

 ライトさんもとちゅうからは元気になっていて、よかったです。


 私は一人っ子だから、お兄ちゃんがいたらライトさんみたいな人なのかな、今日みたいにあそんでくれるのかな、と思いました。







 お兄ちゃんって呼んだら、ライトさんおこるかな?














 朝目が覚めても、人を斬った感触がまだ手に残っていた。

 今まで、それこそ前回この世界に来た時も散々魔物を殺してきたはずだ。人もそれ以外も命は平等で、今更罪悪感なんて感じるのは偽善でしかない。


 だというのに、この感触も、死ぬ間際の盗賊達が浮かべた表情も、死んだ後の虚ろな目も、とっくの昔に慣れた血の臭いさえも頭から消えてくれない。


(ダメだな、今日は城にも行かなきゃならないってのに)


 ライトは暫くの間、ベッドの上で仰向けのままぼんやりと天井を眺めていた。


 漸く起き上がって宿一階の食堂に顔を出すと、いつもの喧騒が嘘のように静かだ。裏手の井戸で顔を洗って再び食堂に戻ると、女将とノエルがいた。


「お早うございます。女将さんにノエルも」


「あ、おはようライトさん!」


「今日は食堂は閉める日だけど、宿の客には朝夕出すから心配はいらないよ」


 疑問が顔に出ていたのだろう。女将が食堂の事情を教えてくれる。ノエルは朝からきらきらと輝くような笑顔で挨拶を返してくれた。


 朝食は出してくれるそうなので、席に座り料理を待つ。


「そうだ、アンタ今日暇かい?」


 唐突に話しかけてくる女将。今日は王城に招かれているが、それは午後からだ。


「午前中なら空いていますよ」


 何の用か不思議に思いながら答えると、女将は満足げな笑みを浮かべた。


「そうかい。なら昼まででいいから、ノエルに付き合ってやっておくれよ」


「はあ、かまいませんけど」


 ライトが気の抜けた返事をすると、ノエルはぱあっと花が咲いたように笑った。





「それで、どこ行きたいんだ?」


「ん~、どこって言われると分かんないなあ。とりあえずぶらぶらしよう!」


 食事を終えて宿を出た後ノエルに行き先を訊ねるものの、元気いっぱいに返ってきた返事から無計画であることが分かる。どうやら宿の定休日なので出かけたい、そんな話のようだった。


 こんなに小さい子が働いてるなんて日本じゃ考えられないよなぁ、と故郷に思いを馳せる。昨日から少し感傷的になっているライト。

 急に、前を歩くノエルが振り向く。


「ライトさん、今日元気ないよね?どうしたの?」


「っ!」


 とてとてと近寄り心配そうにライトの顔をのぞきこむノエルに、瞬時に応えることができなかった。


「もしかしてライトさん、朝も用事あった?それとも出かけるの嫌だった?」


 ライトは、雷に打たれたような衝撃を覚えた。


「そんなことないよ。あ、あっちに出店が出てるね。色々あるみたいだから見てみようか」


「うん!」


(何をやってるんだ俺は)


 10歳ほどの少女に心配され、あげく気を遣わせてしまった自分を情けなく思いながらも表情にはださないよう意識する。


 それからは色々な店を見て回った。ノエルも自分でお小遣いを貯めているようで、楽しそうに買い物をしている。

 食べ物などはライトが払ったが、自分で選んで自分のお金で買うのが楽しいのだろうと過度にライトが金を出すことはしない。


 しばらく歩きながら出店を見て回っていると、平民街と貴族街の境付近に着く。ノエルが羨ましそうに眺めている方を見やると貴族の令嬢達が楽しそうに歩いていた。

 特に、服飾店がある方を食い入るように見つめている。


「ノエル、俺この後用事があるって言ってたけどさ。ちゃんとした服持ってないから、あの店で選ぶの手伝ってくれないか?」


「え、いいの!?」


(守りたい、この笑顔)


 ライトが安物の服しか持っていないのは事実であることを、ここに明記しておく。


 上機嫌なノエルを連れて貴族街の高級服飾店に入るライト。貴族街やそこにある店といっても、出入りに制限があるわけではないので何の問題もない。


「せっかくだからノエルもなにか自分の選んでいいぞ。俺が出すから」


 そう言うとノエルは目を見張り、千切れんばかりに首を横に振る。


「ええっ!?そんなの悪いよ!すっごく高いし」


「子供がそんなの気にするなっての。ライトさんはお金持ちなんだぞ」


「‥‥‥ほんとにいいの?」


 遠慮をしているが、こういった店にずっと憧れていたのだろうことは明らかだ。ここで何もしないほどライトは鬼畜ではない。


「いいから、ほら。選んでこい」


 微笑みながらそう言って、ようやくノエルは女性用のコーナーへと足を向けた。


 ライトがこの世界のオーソドックスな礼服を選んでしばらくすると、ノエルが戻ってきて手に持った服を差し出してきた。


「これで、お願いします」


 なぜか口調が堅くなっているノエルに吹き出しながら、ライトはその服を受け取って棚に戻す。ノエルが持ってきた服が、生地はしっかりしているものの、この店ではもっとも安い部類のものだったからだ。


「ノエルにはこっちの方が似合うと思うよ」


 ライトが手に取ったのは、白い生地を基調に青いリボンがついたワンピースだった。ノエルが服を選んでいる間、チラチラと視線を向けていたものだ。


「ふえええ!?そ、そんな高いのダメだよ、それに私なんかが着ても全然似合わないよ」


「そんなことないって。ほら、いくぞ」


 ノエルの手を引き、金貨3枚ほどの支払いを済ませた。店を出ると、「ありがとう、ライトさん」とノエルが嬉しそうにお礼を言う。買ったばかりのワンピースはとても似合っていた。


 その後、昼食をとるために貴族街のレストランに入ろうとした時もノエルが激しく遠慮したのだが、結局はライトの口車に乗せられ二人で異世界式フルコースを堪能し、宿へとノエルを送りとどけた。


(ノエルを見てると妹を思い出すな)


 手をつないで歩く姿は、髪や瞳の色こそ違うものの、本当の兄妹のようであった。






 

お読みいただき、ありがとうございます


感想やご指摘、辛辣なものでも大歓迎でお待ちしてます!


5000PV達成しました!沢山の方に読んでいただけて嬉しいです\(^o^)/

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