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16.剣撃の果てに得たものは

「ミスったなー、全然考えてなかった」


 今、ライトはダンジョンの二層で魔物を狩ってレベル上げしている。


 未だ疲れた様子もなく、事実HPもほぼ丸々残っている。

 一つ問題があるとすると、肩や腹に矢が刺さっていることだろうか。


「よっ。もう慣れたから、次からはもうちょい上手くやれると思うけど、こんなに早く遠距離攻撃持ちが出てくるとは」


 刺さった矢を引き抜きながら、ここまでの戦闘を反省する。


 二層からは弓を持った魔物が出始め、盾を持っていないライトは対応に追われることになったのだ。

 弓持ちの魔物は他の魔物と共に行動しており、仲間や物陰に隠れて矢を放ってくる。

 矢を射たれる前に詰めよって斬るにも、矢を避けたり防いだりするにも前衛の魔物が邪魔をする。

 事前に準備をしていなかったライトは、いくつかの矢を受けてしまっていた。


「盾があれば簡単なんだろうけど、持ってないし、今は魔法で先につぶすのがベストか?毎回魔法使ってたらMP大丈夫か不安だし、近接戦闘のスキルから上げたかったんだけど」


 今のところ鎧が防いでいるので問題ないが、頭や首に当たれば最悪死ぬ。いつまでも放っておいていいものではなかった。


 とは言ったものの、現状では解決するすべもないので、ライトは進む。

 その後も幾度かの戦闘があったが、どれも通常のゴブリンやコボルトの群れだった。鎧袖一触、見敵即殺で進んでいると、ゴブリンアーチャーと二匹のゴブリンソルジャーに遭遇した。


「っっつええええええええええええいそおおおおおおおおおおい!!」


 ライトが行った対抗策は、「大声で怯ませながら全力で走って近づいて斬る」だった。


 この作戦とも言えない拙い行動は意外にも功を奏し、ギョッとしたゴブリンたちはまともに動くこともなく切り伏せられた。


「‥‥‥やめよう。疲れるし情けない」


 何度も成功するとは思えないライトは、魔法を使うか地道に剣で防ぐことを決めるのだった。


 次に現れたのはまたもゴブリンアーチャーとゴブリンソルジャー×2である。

 今度は冷静に、左手にもコボルトの短剣を構える。

 左手を前に出し、右半身を一歩引く。右手に持った長剣は脱力し切っ先を下げた。


 ヒュン キンッ


 まず最初にアーチャーの矢が飛来した。ライトはそれを短剣を射線上に置くようにして弾く。

 ソルジャーは一匹がアーチャーの前に陣取っており、もう一匹が接近してくる。

 ソルジャーが射線に来るように位置を調整しつつ、間合いに入った瞬間に長剣で切り上げた。


 これで残りは二匹。


 ここでライトは攻勢に出る。

 これ以上待ち構えていても、弓で狙われ続けるからだ。

 慌ててソルジャーが前に詰め寄りボロい剣を振り上げるが、体術スキルの乗った回し蹴りを打ち込み、吹き飛ばす。

 巻き込まれたアーチャー共々倒れたところで剣を突き立てた。


「これならなんとかなりそうかな。しばらくこの階層で訓練するか?‥‥‥‥まあ次の階を見てからでいいや」


 剣を振り払い血糊を飛ばして、鞘に納める。

 ドロップした魔石を回収し、さらに奥へと進むこと少し、ボス部屋を発見した。


「時間も結構経ってるだろうし、ボスに挑戦して今日は終わろう」


 そう言って階層主がいるであろう広間へと入る。


 広間にいたのはゴブリンソルジャーの上位個体であるゴブリンナイトが二匹と、ハイゴブリンが一匹。恐らく中央にいるハイゴブリンがリーダーだろう。

 ナイトは170cmほどの高さで、手には錆の無い鉄剣を持ち、同じく鉄の鎧を見に纏っている。

 ハイゴブリンは190cmほどの体躯に、ナイトの物より幅広の剣。体格だけで言うならば騎士モーガンに匹敵する。

 どちらもD級の魔物であり、今のライトのステータスでは3体同時に相手をするのは少し厳しい。特にハイゴブリンは個体によってはC級として討伐依頼が出されるような、D級の中でも上位の魔物だ。


「なんだ、こんだけ苦労させといて弓持ちは無しか?」


 だが、理解した上でライトは不敵に嗤う。

 二剣を抜き、ゆっくりと歩きだす。

 それを合図にしたかのように、三匹のゴブリンも前へと出る。





 彼我の距離が10mを切った時、どちらからともなく走り出していた。


 感覚が研ぎ澄まされるのを感じる。アーチャーの矢を弾いた時よりもずっと深く、さらに深く。


 ナイト二匹の斬撃が左右から同時に迫る。

 片方のナイトの剣に短剣を合わせ、もう一匹のいる方向に受け流す。勢いを利用して体当たりで体勢を崩し、さらに追撃を仕掛けるも、しかしそれはハイゴブリンに阻まれた。


 囲まれるのを避けるため必然ヒット&アウェイの形になるが、ゴブリンも中々の連携で隙を見せない。


(これならどうだ)


「炎槍!」


 ライトは火矢の上位魔法、炎槍を無詠唱で発動する。

 ごうごうと燃え盛る炎を槍状に収束し撃ち放つそれは、着弾と同時に小規模な爆発を起こす。


 直撃することは叶わなかったが、三匹はそれぞれ避けるのに精一杯でバラバラになってしまう。


 それを見逃すライトではない。


 追撃で風刃をハイゴブリンに複数発射して足止めすると、ナイトに接敵する。

 数合切り結ぶものの、一対一ではライトの敵ではなく、足を切り飛ばして怯んだナイトの首を突き刺し止めを差した。さらに剣を手放し、もう一匹のナイトの脳天に短剣の切っ先を叩きつける。


 一瞬で崩れ落ち、二匹のゴブリンナイトは霧と消えた。




「後はお前だけだ」


 ライトは素早く拾った長剣を力負けしないように両手で持ち、正眼に構える。


 ググギャガアアア!!


 ハイゴブリンの猛烈な突進を横にかわし、振り向き様の横薙ぎに打ち下ろしで合わせる。

 これで剣を弾けると思ったのだが、その考えは甘かったようだ。

 さらに力強い上段斬りを繰り出してくるので、それを受ける瞬間に刀身をずらし、横に受け流す。

 返す刃で腕を斬りつけると、ようやくゴブリンは剣を落とした。


「いい練習になったぜ。――――炎剣」


 長剣から炎が発生し、刀身が紅く輝く。

 炎槍の魔力が込められた剣は、ハイゴブリンを頭から一刀両断した。



 大幅なレベルアップを告げるアナウンスが頭の中を流れ、戦闘が終了する。

 ドロップ品が現れる中にはもちろん宝箱が。お楽しみの時間である。


「一層でマジックアイテムが出たからな。今回も期待できるんじゃないか?」


 テンションが上がったライトは上機嫌で箱を開ける。


「お?」


 入っていたのは、鉄製のロングソード。鑑定に「ゴブリンの剣」と表示されたそれは、筋力を若干上昇させる効果が付与されているようだ。


「早速かぶってんじゃねえか!!」


 心からの叫びだった。





 各階の階段前に設置されている魔方陣から地上に帰還する頃には、既に陽が落ちかかっていた。

 生活品や冒険に使う道具をいくつか買い込んだライトは、宿へと急いで帰るのだった。








 ステータスーーーーーーーーーーーーーーーーー


 名前:ライト


 ジョブ:剣士lv.28、闘士lv.28、魔法剣士lv.19


 HP:2040/2040

 MP:2520/2520


 力:247

 速:244

 技:245

 魔:189


 スキル:剣術lv.4、体術レベルlv.3、基本属性魔法lv.3、魔法剣


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お読みいただき、ありがとうございます

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