10.ヘイト役がいないことに気づいた
講義中の方が集中して書ける説(←
冒険者登録を済ませたライトは、その足で東門へと向かった。身分証を見せることと、魔石を返してもらうことが目的だ
門に着くと、昨日の門衛はすでに仕事を始めていた。当然といえば当然だが。
「こんにちは~、身分証作ってきました。」
「おう、昨日の黒髪の坊主か。よし、詰所まで一緒に来い。」
門衛の仕事はしばらく他の人に任せるようだ。詰所に行くと、早速身分証の提示を促されたので、ギルドカードを見せる。
「んん!?いきなりD級になってるじゃないか!普通D級冒険者になるのに何年かはかかるんだぞ。よほど評価されたようだな。」
登録からD級になる人は少ないのか、門衛は驚いている。
「戦闘経験ありっていうのが効いたんですかね?」
あまりつっこまれても困るので、適当な話をしてごまかす。
「そういえば、モーガン殿に話を聞いたぞ。お手柄だったみたいだな。よし、身分証はしっかり見させてもらった。こいつは昨日の魔石だ。持っていくといい。」
「ありがとうございます。お世話になりました。」
「おう、冒険者生活がんばれよ!」
すんなりと魔石を返してもらえたので、午前中の予定はこれで終わりだ。
(魔石は今度ギルドに行ったら売るとして、午後まではまだ時間があるな。)
この街では日の出、太陽が真上に上がる時、日の入りに鐘がなる。午後とだけ言われれば、それは2回目の鐘が鳴ってから後の時間のことだ。ライトは適当に食べ歩きでもしながら城に向かうことにした。
王都グランレイは、外壁から中心へ向かって平民街、貴族街、王城という風に分かれている。厳密に区分けされている訳ではないが、自然とそうなるのだ。もちろん、路地裏を行くとスラムがあり、平民街には庶民的な店が、貴族街には高級商店が並ぶ。
東門から続く大通を、露店で買った肉串を頬張りながら歩く。厚切りの肉が甘辛いタレで焼かれており、食欲を掻き立てる香りがする。
「うまうま。匂いにつられて買ったけど、正解だったな。」
ちなみに串一本で銅貨3枚ほどだった。
ウォーク王国の貨幣は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨の7種類がある。それぞれ10枚で上の貨幣と同価値になる。日本の物価と比べて云々とかは知らない。そんなの普通の高校生に聞かれても、というのが本音だ。
しばらく歩いていると、突然声をかけられた。
「そこの黒髪の方、冒険者様ではありませんか?」
「?ええ、そうですけど。何でしょうか?」
それは街中で革鎧を着て歩いていれば、誰でも傭兵か冒険者を思い浮かべるだろう。
「やはりそうでしたか。いえね、ウチでは奴隷を扱っておりまして。戦闘奴隷などいかがですか?」
男は奴隷商だった。後ろの店舗が奴隷商館なのだろう。他の建物とあまり変わらない普通の店だが、看板を見ると首輪がシンボルだった。
「奴隷か‥‥‥ちなみに相場っていくらくらいですか?」
この世界では奴隷制度が当たり前に存在する。犯罪を犯した者や、借金を返せなかった者が奴隷になるのだ。前者は決められた期間が過ぎれば解放され、後者は自分でお金を貯めて自分を買い戻すことができる。‥‥‥表面上は。また、過度に酷い扱いをすることも禁じられている。‥‥‥表面上は。
世の中後ろ暗いことの一つや二つはあるものだ。奴隷の持ち物だからと貯めたお金を取り上げたり、不当な扱いをする輩は腐るほどいる。むしろ、それらのルールは形骸化しているというか、持ち主の裁量次第となっているのが現状だった。
「それなりの戦闘力をお求めになるなら、金貨2、3枚は必要になるかと。」
「そうですか。今はそこまでの額は持っていないので、お金が手に入ればまた来ます。」
「それは残念です。機会があれば是非お越しください。」
ライトは奴隷を買うこと自体は良い案だと考えた。奴隷は隷属の魔法によって主人の命令を聞かなければならないので、秘密の多いライトにはぴったりの人員と言えた。しかし、今のライトの懐には金貨1枚ほどしかない。今回は奴隷の購入は見送る他なかった。
再び歩きだしたライトは、午後の鐘が鳴ってしばらく経った頃、王城に到着した。城の周りには外壁と同程度の高さの壁が広がっている。門衛には事前に通達されていたらしく、すんなりと城内に入ることができた。
「ライト様ですね。お話は伺っております。セレナ王女殿下がお待ちしておりますので、ご案内いたします。」
「ご丁寧にどうも。よろしくお願いします。」
案内に現れた老執事の後ろをついていく。廊下は、一人で歩けば間違いなく迷うと思えるほどに入りくんでいた。
「こちらでございます。」
執事はそう言って、たどり着いた部屋のドアをノックする。
「殿下、ライト様をお連れいたしました。」
「ご苦労様です。中へお通しして。」
部屋の中からセレナの声が聞こえる。
「お入りになって結構との事です。それでは、私はこれで。」
「どうもありがとうございました。」
執事が去っていくのを見届けて、ドアを開ける。
「今日はお招きいただき、ありがとうございます。」
「来ていただけて嬉しいです。紅茶を用意していますの。どうぞお掛けになって?」
扉の先では、セレナとルヴィアがソファーに座っており、その後ろに数人のメイドが控えている。足の低いテーブルの上には、二人の前に置かれたカップと、手前にあるカップ、そしてそれぞれの脇にケーキが置かれている。
(お茶会‥‥‥だとっっ!?)
10代女子(貴族と王族)のゆるふわ空間再び。
お読みいただき、ありがとうございます
感想とかアドバイスくれても、ええんやで(震え声)




