第6話 神の干渉
~我を失った倖大 その力が暴発する・・・
敵の数値を読み取り次々攻撃の指示を出す倖大。 そして――― ~
【ヤズド兵】
「ひっ……、ひいいっ、助けてくれ!」
【ヤズド兵】
「お前たちを狙ったんじゃない、俺たちははただそこの指揮官を……」
【倖大】
「………537819及び682970
――死ね」
驚くほどにためらいなく、倖大は死を命じた。
倖大に諱数を支配された兵たちは、自我を失い自らの命の重さを判断することもかなわず
無情に死を選ばされる。
【ヤズド兵】
「……ぐっ」
【ヤズド兵】
「がっ……」
それぞれが首に剣を突き立て、血を流し事切れるのを、倖大は冷めた目で見届ける。
【カズタマ】
「いやっほぉぉぉぉぉーーー! 支配ってきっもちぃーーーー☆」
倖大の力を感じ取り、ただ無邪気に数霊が跳ねる。
アナスタシアは、息をのみ後ずさった。
【アナスタシア】
「……あなたは一体、何者なのですか」
【アナスタシア】
「諱数による完全支配……、相手に死を選ばせる程の支配を行うためには」
【アナスタシア】
「正値、あるいはそれに近い数値を導きださなくては不可能なはずです」
【アナスタシア】
「それを2人、同時にやってのけるなんて――」
【倖大】
「どうでもいいよ、そんなこと」
【アナスタシア】
「え?」
【倖大】
「珠陽は……?」
地面に横たわり、アナスタシアが手配した救護班に手当を受けている珠陽。
しかし彼女は、ぴくりとも動かない。
【救護班】
「……残念ながら」
重苦しく告げられた言葉とともに、自分の体が足元から崩れていくような感覚を倖大は味わった。
【アナスタシア】
「……彼女は、我が軍が責任をもって弔います」
【アナスタシア】
「そのためにも、貴方のことを教えてください」
【アナスタシア】
「貴方が戦算士だと解った以上、このまま放っておくわけにはいきません」
【アナスタシア】
「貴方ほどの力のある戦算士なら、すぐにアルカディアの正戦算士にもなれるでしょう。ですから――」
【倖大】
「俺が、何者かだって?」
――自分でも驚くくらい、冷たい声が出た。
【倖大】
「そんなの決まってる。俺は珠陽の、幼なじみだよ」
【倖大】
「それ以外に……、――価値なんかなかった」
【アナスタシア】
「っ……、何を、やめなさい!」
ヤズド兵の屍から剣を取り上げようとした倖大を、アナスタシアが慌てて取り押さえようとする。
【倖大】
「……邪魔だ、諱数136935」
【アナスタシア】
「っ!?」
倖大に視認されたアナスタシアは、諱数を支配され動きを止める。
意思と体の自由を奪われ人形のように立ち尽くすアナスタシアの肩の上で、
嬉しそうに数霊がぽーんと跳ねる。
【倖大】
「……戦算士? 凄い能力……?」
【倖大】
「いつ誰が、そんな力なんて欲しいって言ったんだよ」
【倖大】
「そんなものを与えられたって、珠陽がいなきゃなんの意味もないだろ!!!!!!」
【倖大】
「何も知らないくせに。俺たちのこと……、何も……」
倖大の脳裏に、珠陽と過ごしたくだらない日常の風景がアルバムをめくるように流れていった。
(ごめん、珠陽。すぐ行く)
倖大はすでに血に濡れた剣を、自らの首に押し当てた。
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遙か遠方から、2つの双眸が戦場を見下ろしていた。
【サヘン】
「おやおや、これはまずい展開なんじゃないかい?」
【ウヘン】
「止めますか? お姉様」
愛らしい獣のような姿をした彼女らは、姉妹花と呼ばれる花に憑く数霊が顕現したものである。
誕生から200年の時を経た今は、神の御使いとしての使命を負っていた。
【サヘン】
「いまはまだ、僕らが介入するには早すぎるんじゃないかな」
【ウヘン】
「でも姉様。せっかくの召喚者をここで失うわけにはいかないのでは?」
【サヘン】
「ここで終わるようなら、残念だけど神の見込み違いってことさ」
【サヘン】
「確率としては、それも0じゃない」
【サヘン】
「僕たち戦争管理委員はその行く末を見守ることが役目だ」
【サヘン】
「誰が天界の楽園へ登るにふさわしいか、きちんと見極めなきゃね! ……ん?」
【ウヘン】
「……ああ、良かった。何とかなりそうですね、お姉様」
【サヘン】
「そうみたいだね。僕らをがっかりさせないでよ、――倖大!」
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押し当てた剣で、倖大は勢いよく自らの首筋を切り裂こうとした。
瞬間、ガラスの割れるような音が倖大の脳内に響く。
【倖大】
「!?」
【アナスタシア】
「――っ、待ってください!!」
完全に支配下に置いたはずのアナスタシアの目に、自我の光が戻っていた。
【倖大】
「……?」
【倖大】
「カズタマ、どういうことだ」
【カズタマ】
「戦算士はー、じぶんの諱数に防御計算式をかぶせられるんだよー。だから支配をとかれちゃうときもあるんだよー」
【倖大】
「……面倒だな」
だがアナスタシアは、四肢の自由までは取り戻せていない。恐らく、防御が不完全だったのだ。
(邪魔されないならこのまま放っておけばいい)
そう思考した倖大は、再び剣を持つ手に力を込めようとした。
【アナスタシア】
「お願いですから、私の話を聞いてください!」
【アナスタシア】
「彼女を取り戻す方法が、1つだけあります!」
【倖大】
「……」
【倖大】
「……珠陽を取り戻す方法?」
倖大は、ゆっくりとアナスタシアを振り返った。
視線を重ねると、彼女はまっすぐに倖大を見返してきた。
その目に嘘はないように、倖大には見えた。
【アナスタシア】
「死ぬのは、嘘かどうか確かめた後でもいいでしょう。だから早まらないでください」
【倖大】
「……」
【倖大】
「……解った、話を聞かせて欲しい」
アナスタシアの言うとおり、珠陽の後を追うのは希望が100パーセントが潰えてからでも遅くはない。
【倖大】
「俺は、どうすればいい?」
【アナスタシア】
「まず、私の支配を解いてください。話はそれからです」