第5話 喪失
~アナスタシア・アークフィールズと名乗った女性のサポートを得ながら
戦闘により倖大は敵を打ち落とし、残った兵は撤退していった――― ~
【戦闘シーンはゲームアプリで登場予定!ツイッター@Abacus_game】
【??】
「いいいいいやっほおおおおい!!」
【??】
「やーーっと出てこれた!! こーだいってば、あたしを喚ぶのがおそいよおお」
突然、甲高い声とともに、倖大の目の前に小さな生き物が現れた。
それは倖大の頭にちょこんと乗っかり、嬉しそうに笑み崩れている。
倖大は思わず、頭を振り払った。
【??】
「ぎゃん!!」
【倖大】
「……なんだお前」
【??】
「もーー、ひっどいなあ。あたしはこーだいの数霊。こーだいを守護するために生まれたんだよ」
【倖大】
「俺を……?」
【カズタマ】
「この世界の人間には、みーんな数霊がついてるんだよ」
【カズタマ】
「でも、こーやってお話できるのは、力のある戦算士だけだから、こーだいはすごいんだよー」
舌っ足らずな声で数霊ははしゃぎ、ふたたび倖大の頭の上にひっついた。
【カズタマ】
「ほら、敵の頭の上に諱数が見えるでしょー?」
【カズタマ】
「戦算士はその数字を割り出すことで、相手の数霊を支配することができるんだー」
(支配……?)
(見張りの兵士が急に言うことを聞くようになったのも、あの数字――“諱数”を口にしたからか……?)
【カズタマ】
「ふつうは、諱数を知るのにちょーむずかしい計算式がひつよーだけど」
【カズタマ】
「こーだいはとくべつ見えちゃう体質みたいだね!」
【倖大】
「……俺が特別……?」
【カズタマ】
「ほら、こーだい。また敵がくる! さっさとやっつけちゃおー☆」
-----------戦闘中-------------
----------戦闘終了------------
【ヤズド兵】
「……ちっ! 一旦引け、引けえええっ!!」
戦いに勝利した倖大たちのおののき、ヤズド兵たちが森の向こうへと帰って行く。
【タマカズ】
「さっすがー、あたしのこーだい、ちょーつよい☆」
【倖大】
「これが、俺の力なのか? ……本当に?」
【珠陽】
「……倖大」
【倖大】
「珠陽、大丈夫か?」
【珠陽】
「うん……、ふふっ……、すごいなあ、倖大」
【珠陽】
「やっぱり倖大は、ただの変な子じゃ……なかったね」
息を荒げながらも、珠陽は自分のことのように誇らしそうな顔をする。
【倖大】
「……そうだな。まだ何がなんだかよく分からないけどさ」
【倖大】
「これからは、珠陽に迷惑かけなくてもすむかも」
【珠陽】
「それは……ちょっと寂しいかも……ふふっ」
熱のせいか、いつもより素直に珠陽は寂しさを口にした。
【アナスタシア】
「……驚きました」
【アナスタシア】
「貴方も、戦算士だったんですね。見事な諱数近似解の算出でした。所属はどこですか?」
アナスタシアが近づいてきた。倖大は念のため、珠陽とアナスタシアの間に立つ。
【倖大】
「いや……、その前に戦算士っていうのを知らないんだけど」
【アナスタシア】
「戦算士を知らない……のですか……?」
【アナスタシア】
「え、でも、諱数近似解算出定理を知らないと戦算士にはなれませんし、それに……」
【珠陽】
「倖大!! 危ない!!」
【倖大】
「!?」
――ドンッ。
衝撃とともに、倖大は地面に倒れ込んだ。
その上に、珠陽が覆い被さってくる。
突然のことに動揺しながらも、倖大はかろうじて珠陽を抱き留めた。
だけど、おかしい。
珠陽が動かない。
【倖大】
「……珠陽?」
【アナスタシア】
「っ!!」
【アルカディア兵】
「アナスタシア様、お下がりください。残党が!!」
倒れ込んだままの倖大たちの横を、騎士たちが駆けていく。
【アナスタシア】
「そのまま彼女を動かさないでください。すぐに救護班を呼んできます!」
(救護班……? なんで……)
倖大は珠陽を支えたまま、ゆっくりと上半身を起こした。
珠陽の華奢な首筋が見えた。
筆のせいで少しペンダコの出来た指先が、力なく両脇から落ちて地面にたたきつけられる。
――背中。
小さな頃から倖大がよく見ていた。
追い掛けてばかりだった珠陽の背に、一本の矢が突き刺さっている。
【倖大】
「……え?」
何が起きたのか倖大にはすぐに理解出来なかった。
【珠陽】
「こ……だい……」
【倖大】
「……珠陽……、おい、珠陽、しっかりしろ……!!」
珠陽の喉から、ヒュッとか細い空気の漏れる音が鳴る。
【珠陽】
「こう……だい……、……けが……ない……?」
【倖大】
「俺は平気だよ。だって、お前が庇って……」
――珠陽が、倖大を庇って矢を受けた。
口にして初めて、倖大は目の前で起きている現実を理解した。
(嘘だ)
(そんなはずがない)
(どうして、俺の代わりに珠陽が――)
【珠陽】
「よ……かっ……た……。こう…だいが……ぶじで……」
【倖大】
「珠陽――」
珠陽は笑った。
いつもと変わらない眩しい微笑みを浮かべるその口元が、血の色に染まる。
――ゴポリ。
倖大の腕の中で、珠陽は口から大量の血を吐き出す。
【倖大】
「お……、おい、珠陽……!! 珠陽!!!!!!」
必死になって倖大は珠陽をかき抱いた。
けれどそれは彼女の体温が、急激に失われていくのをまざまざと突きつけられるだけだった。
【倖大】
「あ………あああ、ああ……」
【倖大】
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」