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第4話 数の理

緊張のまま、倖大たちは眠れぬ夜を過ごした。


――深夜。


【珠陽】

「……ねえ、倖大。なんだか外が騒がしくない?」


【倖大】

「……だな。何かあったのかも」


倖大たちはそっと立ち上がり、テントの隙間から外を覗いた。


【ドゥアト】

「アルカディア陣営の襲撃だと!?」


【ドゥアト】

「戦算士を急がせろ! 騎士どもは配置につけ!!」


時間が経ったせいか、倖大の耳にははっきりと彼らの言葉が認識できた。


こうこうとかがり火が焚かれ、武器を手にした騎士たちが決意も露わに走り回る様子は


とてもただのコスプレ遊びのようには思えない。


【倖大】

「……もう認めるしかないのかもな」


【珠陽】

「え?」


【倖大】

「たぶん俺たち、異世界ってやつに来たんだよ。だから最初も、言葉が通じなかったんじゃないか?」


そして恐らく、倖大が見た月も、地球から見える月ではないのだ。


【珠陽】

「異世界って……、倖大がよく読んでる漫画とかに出てくるやつ?」


【珠陽】

「何その夢みたいな話……」


珠陽はいまいち理解できないというように、困惑している。


【珠陽】

「あっ、見張りが1人になったよ」


【珠陽】

「何だかよく分からないけど……、ここの人たち混乱してるみたいだし」


【珠陽】

「今なら逃げ出せるんじゃない?」


【倖大】

「え? いや危ないだろ」


【珠陽】

「このままここにいたって、安全とは限らないよ」


【珠陽】

「大丈夫、わたしがついてるから」


【倖大】

「……仕方ないな。確かにじっとしてても、命の保証はないよな」


(スパイ容疑がかかってるみたいだし)


(拷問とかされたらヤバいよな……)


倖大は決意を固めて、立ち上がる。


(とはいえ……、まだ一人見張りもいるし、どうしたらいいんだ)


【倖大】

「あのー、そこのお兄さん」


見張りの騎士に声をかけてみるが、無視。


【倖大】

「見張りの人、えーと……267848の人、俺らトイレ行きたいんだけど」


(って、数字で呼んでも解らないか)


【騎士】

「!!」


しかし次の瞬間、騎士が振り返った。


【倖大】

「えっ、おおっ?」


扉を開き、俺たちが外へ出られるように道を開ける。


【倖大】

「行ってもいいの? あ、じゃあついでに縄も解いてもらえると助かるんだけどー……」


【騎士】

「……畏まりました」


(いいのかよ!)


騎士はまるで突然倖大の味方になったように、黙々と縄を解き始める。


珠陽の分も解くようにお願いすると、これもまた従ってくれる。


【珠陽】

「……?? どういうこと? 倖大、何かしたの?」


【倖大】

「いや、俺は何も……。とりあえず行こう」


倖大は珠陽とともに、急ぎテントを出た。



【倖大】

「じゃあ俺たちトイレいってくるんで……、しばらく追い掛けてこないでくださいね!」


珠陽の手を引いて、キャンプ場から逃げ出す。


騎士は倖大の言葉通り追い掛けてこず、人形のようにその場に立ち尽くしたままだった。



//アルカディア王国VSヤズド王国戦場・夜


珠陽とともに、倖大は木々の中に全速力で駆け込んだ。


【珠陽】

「ハアッ……ハアッ……」


【珠陽】

「待って、倖大。早いよ」


【倖大】

「っ、悪い。大丈夫か」


【珠陽】

「うん……、平気」


【珠陽】

「普段はちょっと外に出ただけでぶつくさ言うくせに」


【倖大】

「こういうときだけは、逃げ足速いんだから」


【倖大】

「火事場の馬鹿力ってやつかな」


珠陽の呼吸が落ち着くのを待って、茂みの中を歩き出す。


【倖大】

「とりあえず、あいつらから離れよう。俺たちが抜け出したことがバレたら、まずいかも……」


――ピイイイイ!


鳴り響いた警笛に珠陽と倖大は同時に顔を上げた。


キャンプ場の方角から、ちらちらとたいまつのような光が近づいてくる。


【倖大】

「やばい、さっそく見つかった。いくぞ珠陽!」


【珠陽】

「う、うん!」


珠陽の腕を掴んで、倖大は再び走り出す。


だが夜の森を走るのは、慣れない2人には困難なことだった。


みるみるうちに、追っ手の気配が迫ってくる。


【騎士】

「あっちだ、追え!」


【騎士】

「奴らは我がヤズド軍の兵を“支配”した。アルカディアの戦算士に違いない」


【騎士】

「必ず生きて帰すな! 始末せよ!!」


(戦算士って……、さっきのドゥアトっておっさんも言ってたな)


(一体なんだ? 魔法使いみたいなもんか?)


【珠陽】

「きゃっ……!」


【倖大】

「珠陽!」


木の根に足を取られ、珠陽が地面に転がる。


あわてて抱き起こした倖大は、そのときになってようやく珠陽の異常に気づいた。


【倖大】

「熱い……、珠陽、お前熱が」


【珠陽】

「へ……平気だよ。これくらい」


息を荒げながら、珠陽はにこりと笑った。


【珠陽】

「ごめんね……、早く逃げよう……倖大は……わたしが……」


【倖大】

「おい、無茶するなって、珠陽!」


無理矢理立ち上がろうとする珠陽を、倖大は急いで支えた。


だが――。


【騎士】

「いたぞ、こっちだ!!」


木々の枝をかき分け、騎士が姿を現す。


(見つかった!?)


(まずい……、こうなったら戦ってでも逃げ延びるしかない)


近くに落ちていた枝を拾いあげ、構える。

倖大が戦いを決意した、そのとき――。


【??】

「第1隊前へ! その方たちを救出してください!」


戦場には不似合いな優しげな声と共に、数名の騎士が倖大らを取り囲んだ。


【??】

「ヤズドの兵よ! 十露戦争に民間人を巻き込むのは御法度です。神の裁きがくだりますよ」


(誰だ? 味方か?)


声の方角へ振り返る。


そこには、数名の騎士を率いて馬にまたがる少女の姿があった。


月夜に、美しい銀の髪がきらりと反射する。


【??】

「アルカディア王国所属正戦算士アナスタシア・アークフィールズの名において」


【??】

「森羅万象を統治する神の名の下、いまここに聖戦を宣言する。――戦盤よ、展開せよ!」


【ヤズド兵】

「敵軍の戦算士だ! 応対を!」


【ヤズド兵】

「騎士、前へ!!」


そうして――、


倖大の目の前で、あっという間に騎士たちによる戦いが始まった。




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