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第2話 邂逅と必然

暗闇の中で目を覚ますと、小さな男の子が泣いていた。


見覚えのある姿に、倖大はすぐにこれが自分の夢だと悟る。


昔の夢だ。


また小さくて、自分が周りと違うことや、周りに受け入れてもらえないとこが何より悲しかったころ。


【珠陽】

「あっ、こんなところにいたんだね、こーちゃん」


【倖大】

「……たまひ」


【珠陽】

「泣いてるの? また誰かにいじめられたの?」


【倖大】

「……だって……みんなおれが変だって……。父さんも、母さんも、みんな……」


【倖大】

「数字なんか見えないって……!」


【倖大】

「おれ、もう病院にはいきたくないよ……」


【珠陽】

「うーん、わたしもこーちゃんの言ってる数字はみえないよ」


【倖大】

「……」


【珠陽】

「だから、うらやましいな」


【倖大】

「……どういうこと?」


珠陽はにっこり笑うと、幼い倖大の手を引いて自宅のアトリエへと連れて行った。


画家だった彼女の祖父が残した小さなアトリエは、珠陽や俺たちの秘密基地めいた遊び場になっていた。


【珠陽】

「ほら見て、こーちゃん」


彼女はアトリエの書架から画集を取り出すと、いくつも床に並べはじめた。


どのページも風景画だったが、中にはいったい何を描いているのか解らないものもある。


【珠陽】

「昔、おじいちゃんがよく言ってたんだ」


【珠陽】

「人によって、こんなにも見ている世界は違う。だから、自分だけに見える世界を大切にしなさいって」


【倖大】

「……」


【珠陽】

「いっしょの世界が見られないのは、ちょっとさみしいけど……」


【珠陽】

「だからこーちゃんに人とは違う世界が見えててもおかしくないんだよ?」


色とりどりの絵の中で、珠陽が笑う。


古ぼけた記憶の中で、そうやって笑う珠陽言葉だけが俺のなかで今でも鮮明だった。


-----------------------------------------------------------------------


――強くて、明るくて、優しい幼なじみの珠陽。


彼女が泣いたのを見たのは、たった一度きり。


倖大が近所の悪ガキたちに、手ひどく虐められているのを見た時だった。


【珠陽】

「わたしが、こーちゃんを守ってあげる」


ぼろぼろと涙を流しながら、珠陽はそんなことを言った珠陽に、倖大は心を決めたのだ。


(ちがうよ、珠陽)


(これからは俺が、珠陽を守るよ)


(何があっても、もう二度とこんな顔はさせない――…)


不思議なもので、それから俺は自分だけに見える“数字”のことが大して気にならなくなった。


慣れてくると、数字を視認することで、嫌な奴かそうでないかを何となく見分けることも出来た。


これは珠陽を守る上で、非常に役に立った。


【??】

「……倖大。ねえ、起きてってば、倖大!」


【倖大】

「……?」


強い力で肩を揺すられて、倖大は古い夢の中から浮上した。


目を開けると、泣きそうな顔の珠陽が倖大を覗き込んでいる。


【倖大】

「……珠陽? 大丈夫……俺が守って……」


【珠陽】

「ちょ、もう、ななに、寝ぼけないでよ!」


頬に手を伸ばそうとすると、思いっきり頭を叩かれた。


【倖大】

「痛っ!」


だがそのおかげで、まだ寝ぼけていた意識がはっきりする。


【倖大】

「……あれ、どこだここ」


辺りは、闇に包まれていた。


と、いっても月は明るい。


目をこらすと、見慣れない木々が辺りに覆い茂っているのが解る。


どこかの森の中に倖大たちは倒れていたらしい。


【珠陽】

「もう、心配させてないでよね。起きたら変な所にいるし……、倖大は目を覚まさないし」


【倖大】

「……心配させてごめん。何ともない。珠陽は?」


【珠陽】

「私は平気。ケガもないし……」


【珠陽】

「でも、何がどうなっちゃったのかな? 携帯もつながらないの」


【倖大】

「……あー、災害時は回線が混雑するって、ネットか何かで見たことあるけど」


倖大はポケットから、携帯を取り出した。


電波はやはり、入っていない。


画面には緊急地震速報が通知されたままになっている。


(地震……、あったんだよな?)


(地滑りでも起きて、流されてきたとか?)


だがそれにしては、服も汚れてない上、辺りの地面はしっかりしている。


【倖大】

「とりあえず、ちょっと移動しよう。近くに誰かいるかも」


【珠陽】

「うん。このままじっとしてても、仕方ないもんね」


倖大たちは立ち上がり、移動しようと周囲を確認した。


――ガサッ。


【倖大】

「?」


ふいに視界の届かない木々の向こうから物音がした。


【珠陽】

「今、音がしたよね? 誰かいるのかも!」


【倖大】

「待て珠陽。もしかしたら獣かも。小さいのならいいけど、熊とかだったらやばいぞ」


走りだそうとする珠陽の腕を、倖大は咄嗟に引っ張った。


草をかき分けるような音は、徐々に近づいてくる。


やがて2人の前に姿を現したのは、妙な西洋風の甲冑を着込んだ3人の男だった。



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