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The Lost sky Online

作者: 御崎 茜

なんとなく書けてしまったので投降してみようと思いました。

 晴れ渡る空。抜けるような蒼いキャンバスに浮かぶ白い雲の下、低い草花が広がる平原を、風の様な速さで駆け抜ける三人の人影。


 三人がただ只管に走り続ける間に時間は過ぎ、この星の二つの太陽が夕陽となるにはやや早く、しかしこの星の三つの月は既に地平から既に姿を現す時間となり、蒼い空は徐々に深い青へ移り変わりつつある。その空の下、先頭に立って草花を掻き分けて駆ける人影は、健康的な小麦色の肌に明るいヘーゼルの髪。そして同じ色の獣の耳と尾を持った狐人族の少女。

 彼女のやや後ろには、二人の人影が並び、少女に付き従うように走る。

 一人は、日の光を映して淡く輝く鮮やかな翡翠色の髪に、爬虫類の様に鱗立つ青味がかった色合いの肌と、印象的な大きな翼と長い尾を持つ人竜の青年。

 一人は、日の光を吸って艶やかに煌めく淡い紅銀色の髪と、病的なまでに白い肌に、黄金の如く輝く琥珀の瞳を持ったヴァンパイアの女性。

 しかし少女は、並んで走る二人の事を気にもかけず、ただ前だけを見て、ただただ只管に平原を駈け抜ける。


 草花を分け、大地を力強く蹴って走る少女達は、やがて大地の切れ目に辿り着く。

 大地の切れ目である崖を視界に入れた少女は、その縁で足を止め、眼下に広がる広大な平野と大きな街を見下ろす。

 そんな少女の両側には人竜の青年とヴァンパイアの女性も並び立ち、三人は言葉を交わす事もなく街を見つめた後、視界の端に映った彼方にある山脈と、その山々を引き裂く様に聳え立つ巨大な塔に視線を移し、やがて塔に沿って紫紺へと変わりつつある空を見上げる。


 視線は遙か高く、幾重もの雲すらも貫き、遥かな天空へと聳え立つ巨大な塔の先へ。

 少女達が見るのは空では無く、今は遠く、帰る事の叶わない、空の彼方にある惑星(故郷)を幻視するように。



 The Lost sky online


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Someday, under the fair sky


 長い時間がかかる初期設定を終えてこの世界、アリステラの大地にまた一人、新たな冒険者が降り立つ。


 ここは仮想世界に広がる幻想の大地、ユーストレイル大陸の西方に位置する《グリーゼランド王国》の首都、《王都グリーゼ》の北部に広がる市街区。

 そのグリーゼ北市街区のほぼ中央に位置する《中央広場》は、このゲーム、世界初のVRによるMMORPG《ザ・ロストスカイオンライン》の最初のログインポイントであり、初めてゲームにログインするプレイヤーが須く最初に降り立つ場所でもある。

 その中央広場の脇に備えられた噴水が舞う広い泉のそばに燐光を伴う光の帯が現れ、その中から燐光を纏った明るい榛色の長い髪と、同じ色の獣の耳と尾を持った可愛い印象の少女が現れる。

 

 ゲーム内に現れた少女は、光の残滓が舞う中、自分自身の身体のあちらこちら、特に左腕の動きを確かめる様に動かし、やがて誰かを探す様に周囲を見渡し始める。

 だがここがゲームの中であるが故、整った容姿の者が多い中にあって尚、人目を惹き付ける容姿を持ったこの少女は、しかし辺りを見回した際に自分に視線が集まっている事を認識すると共に慌てて縮こまり、やがて直ぐ後ろにある泉の縁に座り込んでしまう。

「待ち合わせの中央広場って、確かここの事でいいんだよね。うぅー、樹はよ来いー。涼夏さんも早く来てー。なんか凄い見られてて落ち着かないよぉ……」

 そして少女が呟く言葉は一種恨み言であり、待ち合わせの相手である友人とその彼女が見当たらない事に不安を感じ、ひたすら自分の足下を見る様に俯くのであった。

 

 座り込んだ泉の縁にそのまま腰掛けて待つ事しばし。少女は自分の視界の中に人型の影が生まれた事に気付き、顔を上げる。

「こんにちはお嬢さん。君、暇? よかったらオレ達と一狩り行かない?」

 しかし見上げた人物の風体が聞き及んでいた待ち人、友人のアバターのそれでは無いことに気付き、それが幾人かの装備が整った男達を引き連れた、非常に整った顔立ちに鮮やかな金髪に鮮やかな碧眼の見知らぬ青年であり、さらに掛けられた言葉からこの青年達がただのナンパであると判断する。

 そして青年が少女に対して掛けた言葉とその声音は爽やかな印象だが、その目と表情は全く逆の印象を持ち、彼の取り巻きもまた同じ様に笑っている。一様に、以前にも向けられた事がある、下劣な欲が透けて見える笑みを。

「あ……。その、待ち合わせ、してるから」

 そのような欲に塗れた青年達の表情を見て、このゲームではそれら性的な行為を行う事も可能だと知る少女は、身体の奥底から生まれる嫌悪と恐怖にその身を僅かに振るわせながら、それでも怯えを見せることなく断りの言葉を青年に告げる。

「そう。でもまだ来てないんだろ? そんなの放って置いてオレ達と行こうよ」

 その断りの声に、常識を少しでも持ち合わせた者であれば身を引くだろう。しかしこの青年達は常識の逆に位置する悪い例に属し、またそれらの通例に漏れず、自分勝手な言い分と共に許可も無く少女の手を取り、無理矢理にも少女を連れて行こうとする。

「嫌です。離して下さい。待ち合わせてるって言いましたよね」

「あ? 良いから来いって。オレ達と一緒の方が楽しめるからさ」

 世の常か、はたまたそれが類型なのか。彼らの質の悪さは一種のテンプレートに当て嵌まった何か、といった様相であり、現状も、少女にとっては取り繕いようも無いほどに悪くなっていた。

 少女は今日、つい先ほどゲームを始めたばかりであり、逆に青年達はそれなりの装備類を身に付けていることから、少なくともステータス上で相対することは絶対的に不可能であろう。事実、力だけでは少女は青年の手を振り払えないでいた。

 しかし類型やテンプレートというのは、それを回避する術もまた類型があり、テンプレートが存在する。

「本当に、離して下さい」

「お前はオレ達と来る。オレがそう決めた。どう見ても初心者のお前が、オレ達に逆らえるワケねえだろ」

「……」

 ここは仮想(Virtual)現実(Reality)空間内の世界。そしてこのゲーム、ロストスカイオンラインはレベル制とスキル制を併用した、戦えば戦うほどに強くなれる世界。だが、どのようなシステムであってもそれを覆す事が出来るモノも稀にある。

 例えばこのロストスカイオンラインの世界では、強さの源とはステータスやモーションアシスト、スキルに付随する魔導や戦技だけではなく、"現実(リアル)"で培った様々な経験を適応し、行動に対する大幅な上昇補正を掛けることが可能なのだ。それはつまり、プレイヤー自身が持つ本来の技術や実力(プレイヤースキル)をキャラクターが持つ能力に上乗せして発揮出来る、と言うことである。

「いい加減に……」

 例えばこの少女の場合。青年に引か寄せられまいと力を入れながら、しかし一瞬だけ力を抜き、それを好機と取った青年に身体を引かれる瞬間に掴まれている手首を返し、逆に青年の手首を取るとそのままさらに止まらずに、重心を落としながら青年に背を向ける。

「離して下さい!」

 そして、その勢いを使って青年の懐に入り込むと、そのまま勢いを殺さずに彼を泉に向かって背負い投げた。

「のあ!」

 この様に、この世界ではレベル1の初心者少女であっても、現実での武術の経験を活かし、レベルが10以上も離れている青年の力をも己の技の一部として使い、逆に泉に向かって投げ飛ばしてしまう事も可能となるのである。

「このガキ!」

「バラッドさんになにしやがる!」

 もっとも、少女がバラッド-少女が投げ飛ばした青年-を投げ飛ばしたのは正当防衛による行為だったにもかかわらず、青逆に年の仲間達は少女に詰め寄り、攻め始める、などと言う本末転倒な事態になってしまったが。 

「おい。お前らまたやってるのか」

 そんな事態にも、運は少女の味方をする様に、今にも少女に襲いかからん勢いの青年達に向かって低く、ややくぐもった声がかかり、彼らは声の主を振り返りながらもその途中で、まるで石像にでもなったかの様に一斉に動きを止める。

 少女と、動きを止めた彼らの視線の先には声を掛けてきたと思われる長身の、淡く青みがかった鱗立つ肌と翡翠色の髪を持つ青年と、その青年の右腕に腕を絡めて抱き付いている、真白い肌に淡い朱銀色の髪を持った女性が立っていた。

「……あ、樹?」

「ん? ああ、お前、優衣か。こっちじゃ俺はガイウス。こいつは涼夏で、こっちではクインティリスな。それよりお前らさ。またバラッドにひっついて強引なナンパやらかしてるのか? 次はジラードに突き出してやるって言ったよな。覚えてねえのか? 覚えてねえわけ、無いよな?」

 少女-優衣-は、青の青年ガイウスと朱銀の女性クインティリスが待ち人であると認めると同時に、ガイウスが睨み付けている青年達が、どうやらこう言った事の常習犯らしいと理解する。

 そして青年達は、ガイウスが告げたジラードという名前に顔を青くし、一人が投げ飛ばされたバラッドを水の底から引き摺り出し、その他は幾度も顔を縦に振って頷き続け、そして不意に、優衣に向かって土下座を始めた。

「……ねえガイウス。なんで、こんな事になってるの?」

「あー、なんでだろうなあ」

 当の優衣は、突然土下座を始めた男達に呆然とし、自らの待ち人であったガイウス-優衣の友人である樹のアバター-に向かって問いかけるが、実はガイウス自身、なぜこの男達が土下座を始めた意味をわかっていない。

「意味、わからないんだけど……」

 心底不思議そうに呟き、首を傾げて二人を見る優衣に対して、ガイウスは首を左右に振り、空いている左腕で彼女を包む様に抱き寄せ、そのまま踵を返して歩き始めた。

 

 両腕に硬軟両極の美女と美少女を抱き込みながら歩み去る青年と、彼らに向かっていつまでも土下座を続ける青年達。広場の様相はまさにカオス。

 

 この状況になった理由。その発端でもある、優衣がここ、ロストスカイオンラインの中に居る理由。

 それは、優衣がロストスカイオンラインにログインする、数時間前まで、時を遡ることになる。


 そしてここから始まるゲームとしてのロストスカイオンラインは数年の内に終焉を迎え、ゲームにログインしていた数万人のプレイヤー達を、地球から遥かに離れた"現実"の惑星アリステラへと連れ去ってしまうことになる。

続くようで続かない。

でも作品としては設定も続きも書いてあったりします。が、連載は今のところ予定にありません。

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