第八話 高嶺の花
───二十分後。
やっと昼食を終え、今俺達は食後のお茶をしている。
昼飯食べるだけで、こんなに疲れるんなんて……。
三鏡さんからのセクハラがいつ来ても良いように、警戒しながら食べてた所為で精神的に疲れた。
「いやぁ~、満腹満腹!もー食べられない」
「そりゃそうでしょうね、そんだけ食えば」
「か、軽く三人前食べてますね……」
三鏡さんの前には、炒飯が乗ってた皿とビビンバが乗ってた皿、そして、極めつけはステーキが乗っていたプレートが並んでいる。
そのほっそりとした、体型のどこにあれだけの量の食べ物が入るんだろう?呆れを通り越して、感心するよ。
「げっ」
オレンジジュースを飲んでいた三鏡さんが、訝しげな顔をした。
「どう……したんですか?三鏡さん」
「ん、いやちょっと……」
「あら、三鏡さんまだこの学園に居ましたの?」
銀髪の少女が近付いてくる。
えーと、確かクリスと呼ばれてた娘だ。
威圧的な態度をとるクリスさん。
このままだと、また今朝みたいに……
「何?あんたまたアタシに喧嘩ふっかけてんの?」
「いえいえ、何故まだ学園に居るのか疑問に思いまして、ちょっとお声を掛けさして頂きましただけですの。勘違いしないで下さいます?」
二人の間で、見えない火花が散っている、ような気がする。
あぁ、やっぱりこうなっちゃったよ……。
「あんたいい加減に──」
「ちょちょ、落ち着こう?ね?」
仲裁に入ると、クリスさんは「ふん」と鼻を鳴らし立ち去って行った。
「まったく、何なのよもう!」
「まぁ、まぁ……」
それにしても、初めて彼女を見た時も感じたけど……
「ねぇ、城田さん。あの娘──クリスとか言ったっけ?いつもあぁなの?」
「う~ん、普段は物静かですよ?でも、何て言うか、人と距離を置こうと冷たい態度をとる節があるんです」
やっぱり……。クリスさんの態度、わざと冷たくしているような気がしてたんだ。
「ブクブク………」
不満と苛立ちで、ストローに息を吹きかけオレンジジュースを泡立たせる三鏡さん。
「ちょっと、汚いよ!周りに飛び散るじゃん!」
「あ、ごみん、ごみん。……ねぇ、クリスちゃんの話なんだけど、いくら『ヴォークライ家』のご令嬢であり、あの『十二聖騎士団』の一人だからってお高く止まりすぎと思わない?」
「え?く、クリスさんが『十二聖騎士団』の一人!?」
『十二聖騎士団』──世界中から化け物地味た実力者十二人を集めた組織、いや集団と言った方が良いか。
GATを地方警察とするなら、十二聖騎士団は軍隊だな。それほどの歴然の差がGATと十二聖騎士団の間にはある。
十二聖騎士団に憧れる人は少なくはない。言わば、十二聖騎士団は世界中の憧れの的。
そんな凄い集団にクリスさんが居るなんて……。
「知らなかったの?クリス・ヴォークライって言ったら、最年少で十二聖騎士団に入った天才児で有名だよ?」
「な、なんでそんな娘がこの学園に?」
「さぁ?エリート様の考えは凡人には秤知り得ないからねぇ」
皮肉たっぷりに三鏡さんが言い放つ。
ふてくされ過ぎだよ、三鏡さん。
「ハハハ……」と俺と城田さんは苦笑いを浮かべる。
ん~、クリスさんが十二聖騎士団っか……。そう言えば、『ヴォークライ』って……。
「ねぇ、『ヴォークライ』って、まさかあの『ヴォークライ家』?」
「そうだよ、GATや魔法具開発に投資するちょー巨大資産家オリバー・ヴォークライを輩出したり他にも、歴史的な英雄を数多く輩出している『ヴォークライ家』だよ」
ひぇー!十二聖騎士団のメンバーってだけでも驚きなのに、それに加えて『ヴォークライ家』の人間!?
格が違うとかそう言うレベルじゃねぇ!生きてる世界そのものが違う。
三鏡さんが頬付いて、溜め息を吐いた。
「はぁ……まったく、ホントどうしてこの学園に来たのかね」
「まあ、学校に来るかは個人の自由ですから」
また、不満げにオレンジジュースを泡立てる三鏡さん。
「あーーーーー!!」
「ハヒィ!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
ハッと何かに気付いたように、目を見開かせ三鏡さんが急に大声を上げた。
その声に、ビックリした城田さんが三鏡さんに向かって謝りだす。
「何よ、ビックリするじゃない!ほら、ビックリして城田さんがパニクってんじゃないの」
「あー、ごめん、ごめん。アタシすっかりカナっちに自己紹介するの忘れてたから」
「今更!?」
今まで散々(一方的に)絡んでいる癖に、今更自己紹介って……。
「えーと、アタシは三鏡優華。趣味はスキンシップです!」
「いや、スキンシップは趣味じゃないでしょ」
「いーの、いーの。後……スリーサイズは上から八六───」
ななな何を言い出すんだこの娘は!
「スリーサイズとかいいから!」
「えー?そう?まぁいいや、カナっちアタシのことは呼び捨てで優華って呼んでね」
ウィンクをしながら、舌をチロリと出す三鏡さん改め、優華。
物凄くわざとらしい。なんか見てるだけで胸の辺りがムカムカしてくる。
「う、うん……宜しく」
手を差し出されたので、自然と握手を交わす。
優華の表情を見ると、とても恍惚とした顔をしていた。
「お肌スベスベ……ウヒヒヒィ」
「ヒィッ!?」
涎を垂らしながら、俺の手に頬摺りをするな!
「あぁん、もうちょっとだけぇ」
「いい加減にしろ!」
「ぶへぇ!?」
優華にアッパーカットを喰らわせ、レモンティを啜る。
まったく、これさえ無ければただ純粋に美少女って言う印象を得ることが出来たのに……。
幸せそうに床に転がっている優華に目線を向ける。
「はぁ……」
ただ、溜め息が出るばかりだ。