第七話 選択は慎重に
「おーい、西澤居るかぁ?」
城田さんと談笑していると、先程出て行った赤坂先生がひょっこり戻ってきた。
「はぁい!ここです!」
「おーいたいた。西澤、お前まだ学科決めてないだろう。ほれ、この紙に学科の種類が書いてある。今この場で決めてしまえ」
いきなり決めろと言われても……。
どう言う学科があるのか、手渡された紙に目を通す。
〈戦闘学科〉、〈医療学科〉、〈情報学科〉の三つか。
どれにしよう?
そうだ!
「ねぇ、城田さんはどの学科に属しているの?」
「え、わ、わたし、ですか?わたしは〈戦闘学科〉に属しています」
「へー……って、えぇ!?」
内気そうな性格している癖に、一番危険な学科を選択するなんて……。
自殺願望があるのか?
いやいや、偏見を持つのはいけないよな。
「そ、そんなにわ、わたしがソルジャーに属しているのが可笑しい、ですか?」
涙目になりつつ、コッチを見つめてくる城田さん。
「いやいや!ちょっと驚いただけだから。城田さんって、〈医療学科〉に属していそうに見えるからさ」
「そう、……ですか?」
「俺も城田は、メディックが似合うと思うぞ。城田って意外と白衣かナース服似合いそうだし」
先生がそう言った途端、城田さんが頭から湯気を出しそうな勢いで顔を赤くし慌てふためき始めた。
言った当人は、ニヤニヤ厭らしく城田さんを嘗め回すように眺めている。
「先生、セクハラはやめて下さい。それ以上、城田さんを厭らしい目で見たら教育委員会に訴えますよ?」
「ご、誤解だ!おおお、俺が生徒にそんなことするわけ無いだろ!」
目に見えて動揺の色を見せる赤坂先生。
俺は、赤坂先生を横目に城田さんに振り向く。
「城田さん、大丈夫だよ。あたしも似合うと思ってるから、自信もって!」
「カナさんがそう言うのなら……いえ、でも」
物凄く葛藤してる。
葛藤すること数十秒、城田さんが決断を下した。
「先生、わ、わたしメディックに転科します!」
「そうか、よし分かった。この転科届に名前を書け」
用意周到にも赤坂先生が転科届を懐から出し、城田さんに手渡す。
先生、あんたはいつもそう言う書類を懐に閉まっているんですか!?
言われるがまま転科届に名前を書く城田さん。
転科するかどうかの判断基準が、白衣やナース服って言うのはどうなんだろうか?
ん?そう言えば何か忘れてるような……。
「あーーーー!」
「ひゃい!?な、なななんですか!」
俺の上げた声に、城田さんが驚き身構える。
ヤバ……城田さんの事ですっかり忘れてた。まだ、俺決めてないよ。
……どうしょう。
「ど、どうかしたんですか?カナさん」
城田さんが不安げな声で聞いてきた。
「え、いやぁ……あたしまだ決めてないと言うことを思い出してつい」
「そうですか、ん~カナさんにはソルジャーとか似合うとわたしは思いますよ?」
ソルジャーか……。エレメントと直に戦える力を得るには最適な学科何だろうけど、他の学科と比べると死亡率が一番高いんだよな。
でも、この二度目の人生色んなものに挑戦するべきだと思う。ここは、リスクはあるがスリルのあるソルジャーを選んでみるか!
よし、決めた!
「先生、あたしソルジャーに入ります」
「本当に、それで良いのか?今ならまだ変えられるぞ?」
「はい、覚悟は出来てます。大丈夫です!」
「そうか、分かった。じゃあソルジャー担当の先生方には俺からその旨を伝えとく」
赤坂先生は俺の返事を聞いた後、手をヒラヒラ振りながら去っていった。
「……あ、あのぅカナさん、そろそろ移動しないと授業に遅れてしまいますよ?」
「え、ヤ、ヤバ!」
時計を見ると、授業開始五分前だった。
俺達は急ぎ、授業が行われる教室へと走る。
教室に入ると同時に、チャイムが鳴った。教室には既にクラスメート達が揃っており、遅れて来た俺達は注目の的に……。
「おい、何してんだ?授業始まってるぞ。さっさと席に座れ!」
「「は、はい!!」」
教室に入ってきた先生に怒られ、慌てて席に座る俺達。
そんな俺達の様子を見たクラスメート達が、一斉に笑い出す。
うぅ……、とんだ笑い者だ。
◇◇◇
午前中の授業が終わり、俺は机に突っ伏していた。
お、思ってた以上にハードだこの学園!
疲れすぎて、午前中どんな授業を受けたのか覚えていない。
「だ、大丈夫、ですか?カナさん」
「うん、……大丈夫、……平気」
心配そうに、声を掛けてくる城田さん。
「大丈夫そうには、見えませんけど……」
「本当に大丈夫だよ。それよりお昼一緒に食べよう?」
「は、はい、良いですよ、じゃあ食堂に行きましょう」
「しょ、食堂!?」
何だと!この学園、売店じゃなく食堂があるのか!?……そう言えば、学園のパンフレットにそんなこと書いてあったような気がする。
城田さんに付いて行くと、体育館入口手前、右側にある通路を進んだ先にそれは、それは大きい食堂があった。
いや、これ、もはや食堂じゃなくてレストランじゃん!
忙しく動き回るウエイトレスにウエイター。厨房では五、六人の料理人が腕を振るっていた。
「ほぇ……」
驚きのあまり、目が点になる。
そんな俺とは反対に、城田さんは空いているテーブルに足を進めた。
「カナさぁ~ん、こっちでーす!」
「あ、今いく!」
城田さんがいるテーブルまで行き、椅子に座り、改めて辺りを見渡す。
「す、凄いね……ここ」
「そう、ですね、でも暫くしたらカナさんも馴れますよきっと」
「そ、そうかな……?」
よくよく見ると、天井にシャンデリアが吊されていた。
さすが国立と言うべきなのか。
「やぁやぁご両人、アタシも相席宜しいかね?」
メニュー標を見ながら、どれにしようか悩んでいると一人の女子生徒が話しかけてきた。
「あ、み、三鏡さん!ど、どうぞ!ね、カナさん良いですよね?」
「うん、良いよ」
「良かったぁ、じゃあ遠慮なく……」
俺の隣に猫耳少女──三鏡さんが座る。
無意識に、身体が強張った。
今朝の出来事が脳内にリフレインされる。
ま、またセクハラされる!?
「そんな、警戒しないで。別に何もしないよ?」
警戒するなと言う方が無理な話、なぜなら、三鏡さんには前科があるのだから。
それに───、
「ん?カナっちどうかした?顔赤いけど……」
「いや、あのちょっ……」
言ってる事と、やってることが逆!言ってるそばからセクハラしてるし!
三鏡さんが俺の太股に手を置き、弄るように動かす。
「──ひゃう!?」
スーッと三鏡さんの指が太股を撫でる度に、鳥肌が立った。
「み、三鏡さん、今朝クリスさんに注意されたばかり、じゃあないですか!や、やめてあげて下さい!」
俺以上に顔を赤く蒸気させている城田さんが助けに入ってくれた。
あぁ、今城田さんが女神に見えるよ。
「アハハハ、まぁまぁ、そんな息立たないでミカっち。ごめんね?カナっち、もうしないからそんな顔しないで」
「うぅ~~」
「アハハ……こりゃ参った」
本当何なんだこの娘。初対面でいきなり、む、胸揉みしだすし……。
三鏡さんは軽く苦笑いするだけで、全然反省していない様子だった。
もう嫌このセクハラ娘!
キッ、と三鏡さんを睨むと、何故か頬を赤く染め身じろぎし出した。
「か、カナっち……そんな見つめられると照れるよぅ♡」
ダメだこの娘、頭の中桃色一色だ。
「え、え~と、カナさん、三鏡さん早く決めちゃってお昼済ましちゃいましょうよ、ね?」
オロオロしながら、城田さんが提案をする。
すっかり忘れてた。俺達、お昼食べに来たんだっけ?
「そうだね、ちゃっちゃと決めよーっと。さて、どれにしようかな……」
「あ、た、しは……カナっちを食べるぅ♡」
「※§○★‡☆~~~っ!?」
三鏡さんに耳を甘かみされ、つい変なん声が出てしまった。
「もうー!三鏡さん!いい加減にして下さい!!」
「いやぁ~ついうっかり、てへ★」
このノリとテンション、どうもある黒猫と被るな。