第六話 憧れの学園生活スタート
◇◇◇
二ヶ月に及ぶ長い入院生活がやっと終わり、今日俺は高校生活初日を迎えた。
「うぅ……緊張する」
教室の外で待機している間、嫌な想像ばかりしてしまう。
ちゃんと挨拶できるか。皆に好印象を与える事が出来るか。
今の俺の心境は、正に転校生その物だ。
えーと、先ずは自己紹介だよな。……自己紹介って何言えば良いんだ?
当たり前だが、名前は言うだろ。それから、えーと……、
「おーい、西澤、入ってこい」
「は、はい!!」
担任の赤坂先生に呼ばれ、教室に入る。
うぅ……めっちゃ視線感じる。
赤坂先生の隣に立ち、目線を教室の一番後ろの壁にやる。
緊張し過ぎて、クラスメートの顔を見渡す余裕すらない。
「えー、西澤、自己紹介」
「は、はい!西澤奏美と言います!皆さん宜しくお願いします!!」
シーン……。
あ、あれ?俺何か変なこと言った?
皆こっちをポカーンと見つめている。
誰一人として、口を開こうとしない中目の前の席に座っている女子生徒が勢い良く立ち上がった。
「………か」
「蚊?」
「可愛い!!」
「え、えぇ!?」
女子生徒は席から離れ、そのまま俺に抱き付いた。
女の子特有の甘い香が、鼻腔を擽る。
突然、抱き付かれ俺は軽いパニック状態に。
「あ、あの……ちょっと」
「わぁー、髪サラサラ!いい匂い……」
女子生徒は俺の首筋に顔を寄せ、匂いを嗅ぎだした。
前にもこんな事された覚えあるな。
「それに、顔も可愛いし何より……」
「ひゃあん!?」
この感覚……まさか!
目線を下に下ろすと、案の定胸を揉みしだまれていた。しかも、制服の中に手を入れて!
「何だ!このけしからん乳は!!羨ましすぎる!!」
「やめ……あふっ。……いやぁ、あんっ///」
声が出ないように我慢しているのに、出てしまう。
必死に手を離そうとするが、力が抜けて離す事が出来ない。
助けを求めるように、クラスメート達に視線を向けるが、女子の大半は顔を真っ赤にし、目線を外している。
白状物ー!
男子の方はと言うと、ほぼ全員前屈みになっていた。
最後の頼みの綱である赤坂先生に助けを求めようと顔を向けるが、我関せずと入った感じで椅子に座りチョコを堪能していてこっちに見向きもしない。
何なんだこのクラス!思春期のエロガキと白状物ばかりか!!
「そこまでです!三鏡さん、西澤さんが嫌がってるじゃないですの。……それに、そう言う事は時と場合を弁えるものじゃないんですの?」
もう諦めかけたその時、助け舟が現れた。
ん?あの子……どっかで……。
一番右端の席に座っていた銀髪の女子生徒が、三鏡と呼ばれた今俺の身体をまさぐっている女子生徒に近付く。
「うっ……」
銀髪の女子生徒に鋭い目つきで睨まれた三鏡と呼ばれた女子生徒は、背筋を固めた。
その隙をつき、俺は三鏡さんの手から脱出。
やっと、三鏡さんのセクハラから逃れる事が出来た俺は改めて銀髪の女子生徒をまじまじと見る。
セミロングの銀色の髪。勝ち気そうなライトグリーンの瞳……、そうだ!あの時の女の子だ!
「三鏡さん、貴女は何故いつもそうなんですの?少しは自重しなさい!貴女のその行いの所為で学園の評判が落ちたりしたらどうするんですの?」
「ク、クリスちゃん、そんなに怒らなくても……。それにこれは、そのスキンシップなんだからさ」
クリスと呼ばれた銀髪の女子生徒の気迫に、気圧されながらも言い訳をする三鏡さん。
しかし、クリスさんは言い訳に耳を傾けず冷たい目線を三鏡さんに向ける。
「別に、貴女が誰とスキンシップをとろうが構いません」
更に三鏡さんに近寄るクリスさん。
「ですが……」とクリスさんが言葉を繋ぐ。
「貴女のスキンシップは度を越えています!貴女はこの学園に相応しくない、自主退学をお勧め致しますわ」
「なっ!そこまで言わなくても良いじゃない!」
クリスさんの刺々しい物言いに、三鏡さんが憤慨した。
まぁ、退学しろって言うのは言い過ぎかもな。
「あら、私は親切心で言ってあげているだけですのよ?それに対して逆ギレされるとは、驚きですわ」
「……アンタ、あたしに喧嘩売ってんの?」
「そんなつもりは有りませんわ。ただ貴女は、この学園に相応しくないから出ていけと仰っているだけですの。
それに、もし喧嘩を売ったところで結果は既に見えていますし」
おいおい、何だか険悪な雰囲気になってきたぞ……。
「……あ、あんたね────」
「はい、そこまで」
先程まで無視を決め込んでた赤坂先生が、二人の間に割って入ってきた。
止めるの遅せよ!
赤坂先生は面倒くさげに二人を席に戻るよう促す。
二人は渋々と言った感じで、席に戻って行った。
戻って行く間も、二人の間に火花が散っているように見える。
「じゃ、西澤の紹介も終わったことだし、……城田、お前ちょうど席隣だし面倒見てやれ」
「ふぇ?」
理不尽な理由で指名された、眼鏡を掛けた地味な女子生徒が、スットンキョな声を上げた。
「返事は?」
「は、はい!」
「よし、それじゃ解散!」
そう一言言い残し、赤坂先生は教室から出て行く。
そして、残されたクラスメート達は、思い思いに授業の準備を始める。
指定された席に付き、俺も早々に準備を始めた。
「あ、あの……西澤さん」
「うん?」
俺の面倒を頼まれた城田さんが、怖ず怖ずと声を掛けて来た。
何故か、城田さんの肩がビクついている……。
俺、何かしたか?
「ひゃっ!ごめんなさい、ごめんなさい!!」
じっと見つめているのが悪かったのか、睨まれたと思ったらしく城田さんが謝りだした。
俺的には、普通に見つめているつもりなんだけど……。てか、そこまでビクつかなくても……。
ヘコヘコ頭を下げている城田さんを見ていると、こっちが悪いことしているような気分になるよ。
「えーと、城田さん?いいから頭上げて、ね?」
「はいぃ!すみません、ごめんなさい!すみません!ごめんなさい!!」
あぁー、駄目だ。完全にテンパってるよ。
城田さんはただひたすら、『ごめんなさい』と『すみません』を連呼している。
早く、この場を何とかしないと周りの皆から在らぬ誤解を招いてしまう!
それだけは、何としてでも阻止せねば!!
「ちょ、ちょっと落ち着こ?はい、大きく息吸って……」
「スゥウ……」
「はい、吐いて」
「ハァ……」
何か、一連の会話が医師と診察を受けに来た患者みたいになってる。
まぁ、これで落ち着いて貰えれば良いんだけど。
「どう?落ち着いた?」
「は、はい……大分、落ち着きました」
「良かった。で、あたしに何か用?」
気を取り直し、本題へ。
「え、えーと、わ、わた、わたし“城田心歌”って言います……。不束者ですが、その……宜しくお願いします!!」
最敬礼までして、自己紹介されてしまった。
不束者って……あんたは嫁入り娘か!
突然、こんな事をされた俺は慌てて頭を上げるよう促す。
「し、城田さん、そんなことしなくて良いから顔上げて」
「は、はい!」
頭を上げた城田さんの顔は、茹で蛸のように頭頂まで真っ赤になっていた。
何なんだこの子……。かなり落ち着きがないし、いや、落ち着きがないとは違うな。何か自分に自信が無いって言う感じだ。う~ん、もしかして内気な子なのかな?
「城田さん、そんなに不安がらないで。あたしのことはカナで良いから。よろしくね?」
「は、はい!よよよよ、よろしくお願いしましゅ!」
「しましゅ」って……、ヤバ、不覚にも萌えてしまった。
恐るべき地味メガネっ娘……。
「あ、あのカナ……さん。わ、分からない事があればいつでも聞いて下さいね?」
「うん」
登校初日どうなるかと思ったけど、早速友達が出来た。これで、ボッチは回避したな。
よかった、よかった。