第十六話 ヒーローは遅れてやって来ます!!
で、デカイ。身の丈三メートルほどあるエレメントはその装甲も相俟って鎧武者のようだ。
エレメントが一歩一歩近付いてくる。歩く度、地面にヒビが入る。ただ、こっちに歩いて来ているだけなのに、息をするのも忘れてしまいそうな威圧感を発していた。
『フゥー、俺のカワイイ下僕をぶっ殺してくれたのは…………お前らか?』
────!?え、エレメントが喋った!!
ぎらつく相貌が俺達を捉える。毛穴が開き嫌な脂汗が沸き出てきた。
『まぁいい、殺っていようとなかろうと、オレには関係ねぇ。お前ら全員ぶっ殺す!』
エレメントが内包する魔力が増大していく。
この場にいる全員の魔力を合わせても、奴の魔力には遠く及ばないだろ。エレメントは膨大な魔力を太刀の刀身に注ぎ、振りかぶった。
太刀を振り下ろす。ただそれだけで辺りの地面が隆起し、物凄い風圧が俺達に襲い掛かった。風圧と共に石粒手が飛んでくる。
「くっ」
「わわっ」
「チッ」
「クソッ」
飛んでくる石粒手に視界が奪われた。
怯んだ隙に、エレメントが斬りかかってきた。
エレメントの斬撃を逸速く視界を取り戻したクリスさんが受け止めた。そして、薙ぎ払い突きを繰り出した。
『ほう、俺の斬撃を受け止めさらに反撃してくるとは…………なかなかやるな小娘』
「それはどうも…………貴方こそ他のエレメントとは違い多少知恵が有りそうですわね」
『ふん、当たり前だ。俺は“十臣柱”が第五柱、ベルセルク様だ!よく覚えとけ!』
ベルセルクと名乗るエレメントが、太刀を薙ぎ払う。クリスさんは、その攻撃を受け止め後ろへ後退した。
体制を立て直し、クリスさんが反撃をする。クリスさんの連続突きがベルセルクを襲う。が、分厚い装甲には傷一つ付いていなかった。
「硬いですわね…………」
『ふん、俺の身体に傷を付けられる者はいない!』
ベルセルクが猛烈な斬撃を繰り出す。一振り一振りが重く斬撃を受け止める度、クリスさんは顔を歪めた。
「くそ野郎、これでも喰らいやがれ!」
ベルセルクの背後に回り込んだ醍醐が魔弾を撃ち込んだ。一瞬、ベルセルクがよろめく。その隙を見逃さずクリスさんが突きを繰り出した。
魔力を矛先の一点に集中させ、貫通力を強化した一撃だ。ベルセルクの身体が僅かに浮く。そして、二撃目を繰り出すとベルセルクは数十メートル吹き飛ばされた。
多少のダメージを与えたものの、ベルセルクは平然としている。
「化け物め…………」
醍醐が呻く。
確かに化け物だ。クリスさんの強烈な連続攻撃を受けてもなお平然としているなんて…………。他のエレメントと格が違うどころじゃない、次元が違う。
「何をしてるの!攻撃を続けるわよ!!奴に休む暇を与えるんじゃない!!」
「は、はい!!」
デュナメスを構え、クリスさんの攻撃に合わせ斬りかかる。
四人の連携攻撃を意にも返さず、ベルセルクは太刀を振るう。
何度攻撃しても、厚い装甲に防がれダメージを与えられない。
後方でベルセルクの弱点を索的していた憂華が、俺達四人のインカムに通信を開いた。
「みんな!!聞こえる?あいつの足を狙って!!他の装甲と比べて薄くなってるからダメージを与える事が出来るはず!!」
「足ね!」
「よし、次で仕留めてやる!」
判明した弱点の足を重点的に攻める。すると、ベルセルクの動きが僅かに鈍くなった。
効いてる。
追い討ちをかけるように、如月さんが高密度な圧縮魔力砲をぶっぱなした。
『グオオオォォォォォォォ!?』
ついに膝を地に着けたベルセルク。
「これで、止めですわ!」
槍を構え、全力疾走していくクリスさん。
全身から蒼いオーラを出し、渾身の力を込め槍をベルセルクに突き刺した。
装甲の僅かな隙間を掻い潜って、ベルセルクの身体を槍が貫く。
「やった…………のか?」
「お、終わったぁ~」
勝利を確信したクリスさんが槍を抜こうとしたその時、ベルセルクが槍をがっしりと掴んだ。
「なっ!?」
そして、槍ごとクリスさんを引き寄せ、殴り飛ばした。
「キャァッ!?」
「危ない!!」
地面にぶつかるギリギリの所で、クリスさんの身体を受け止める。
醍醐と如月さんが銃を構え、戦闘体制に。
「さっきのは、ちぃーと効いたぜ。でも、惜しかったな俺を倒すには火力不足だな」
醜悪な口をにやけさせ、首を鳴らすベルセルク。
数で勝っている筈なのに、圧倒的過ぎる。
絶望にうち伏せられ、俺の身体から力が抜け落ちた。
「火力不足、そうか…………ならこれでどうだ!!」
紅い閃光と共に人影が俺達の前に舞い降りた。
その人影に見覚えがあった。数十分前会ったばかりの───、
「ま、マサ!どうしてここに!?」
如月さんがその人に駆け寄る。
現れた人影──日下部正臣さんは、さっと手を上げ如月さんを制止した。
赤い刀身のバスターソードを構える。
全身から溢れ出るオーラに俺達は息を呑んだ。
「ここからは、俺が相手だ」
『さっきの攻撃、テメェか…………。へぇ、面白い。オラ、かかって来いよ!』
日下部さんの姿が消えたと思いきや、あっという間に間を詰めていた。
ベルセルクの装甲と、バスターソードがぶつかった衝撃波が地面を抉る。その衝撃は離れている俺達にも伝わっていた。
粉塵が晴れ、ベルセルクと日下部さんの姿が見えてきた。ベルセルクの身体をよく見ると、小さな傷が出来ていた。
「流石に、堅いな…………」
『…………ククッ、クハハハハハハ!!テメェ気に入った!!この俺に傷を付けやがった!テメェみてぇな奴初めてだ!!』
歓喜し、太刀を薙ぐ。連続して攻撃を仕掛けていく。が、斬撃は事如く防がれた。
『ほお、俺の連撃を防ぎきるとは…………テメェ、名は?』
「…………日下部正臣」
『正臣か…………。よし、正臣光栄に思え俺の本気の技を受けられることを!!!!』
太刀を一本投げ捨て、上段の構えをとるベルセルク。太刀の刀身に魔力が注がれていく。
「ふぅ…………、拘束術式解除、『村正』に境界を接続…………」
日下部さんも、バスターソードに魔力を注入して構える。
次の瞬間、
「一式禅の太刀!」
『喰らえ!暴食の斬撃ァァァァァァ!』
二つの魔力がぶつかり合い、眩しい閃光が放たれる。
「くっ」
「わっ」
「キャアッ」
衝撃波と光によって、視界が奪われた。
数十秒後、視界が徐々に戻っていき、戦いの結末を見ることに。
ベルセルク、日下部さん共に武器を構えたまま立っていた。
『………………グフッ』
ベルセルクは厚い装甲に亀裂が入り、砕け生身の身体から紫色の血を流し倒れた。
勝ちを確証した後、日下部はバスターソードを亜空間にしまいこんだ。
「たお、した?一人で、あの化け物を…………」
「うそ…………」
「………………」
「信じがたいですわね」
ホッと息をつき、日下部さんがこっちに向かってくる。とても、さっきまで死闘を繰り広げていた人物と同一とは思えない警戒心のない顔をしていた。
「みんな無事で良かった。大きな怪我はしてないようだな」
「え、ええ…………ってそれより、マサ!どうしてアンタがここに!?」
「任務だよ、この区域に──」
言葉を止め、日下部さんが目を細めた。
『…………ッテテテ、やるじゃねぇか正臣。さすが俺が気に入った奴だ』
倒した筈のベルセルクが起き上がっていた。
みんな一斉に武器を構える。
「もっと、テメェと殺り合いてぇんだけどよ…………残念ながら、時間切れだ。正臣!次会うとき、ぜってぇテメェをぶっ殺す!!いいか、覚えとけよ!」
そう言い残し、ベルセルクは空間の狭間えと消えていった。
「やれやれ、面倒な奴に目を付けられたな」
「マサ、まだ説明して貰ってないんだけど?」
「そうだな、まあ、一旦帰ってから説明することにしよう」
日下部さんの言う通り、俺達はボロボロの身体を引き摺りながら学園へ戻った。




