第十五話 油断禁物ですよ!
「そう言えば、第一小隊の隊長は正臣さんではありましたわよね?」
「ああ、マサは昇進して第零小隊に転属したわ。今はあたしが隊長よ」
実地現場に向かう、俺、城田さん、優華、醍醐はビードを使い如月さんクリスさんは飛行術式で空を飛んでいた。
ビードとは違い、複雑な演算をし常に魔力制御しつつ飛んでいると言うのに如月さんもクリスさんも平然と会話を交わしている。しかも、相当な速さで飛行しているにも関わらずにだ。
さすがプロと言うべきか、俺達はまだ飛行術式なんて教わってないし、習っていたとしてもあんなに上手く飛ぶ事なんて出来ないだろう。
「ねぇねぇ、カナっち。如月さんのオッパイ大きいよね」
何を言い出すんだこいつは…………。
俺の隣を飛んでいた優華が、目尻を垂れませ口端から涎を溢しながら如月さんの胸を凝視していた。
「カナっちのとどちらが大きいかな?」
「バカなこと言ってると、お花畑なその頭まっさらな更地にするよ」
殺気を込め優華を一睨み。ついでに、デュナメスを優華のこめかみに突きつけた。
「ひいぃ!?すみません!!それだけは勘弁してください!!」
「そこ!なにふざけてんの!!もう実地は始まってんのよ!集中しなさい!!」
「「は、はい!!」」
優華の為で俺まで怒られてしまった。とんだとばっちりだ。
任務開始地点に到着。……でも、一体どこにエレメントが?十分待ってみても現れないんだけど……。
「あの……本当にここ何ですか?如月さん」
「ええ、そうよ。……三鏡、数値の変動は?」
そう言われた優華はホログラフディスプレイを展開させ、空間変動数値の観測に入った。
「ん?────っ、二時の方向、空間湾曲指数上昇、エレメント出現します!」
「総員、迎撃態勢!」
俺、醍醐、クリスさんそして如月さんはウェポンを召喚し迎撃態勢に入る。
優華の指定した二時の方向に空間の歪みが発生し徐々にエレメントが姿を現した。
『グオォォォォォォォ!!』
空気が震えるほどの雄叫びが、辺りに響き渡る。
現れたのは、上位種と比べれば差ほど強くない“アタッカー”と呼ばれるエレメントだ。
比べればとは言ったけど、会ったことが無いからどのくらい強いのか、アタッカーがどの程度弱いのか分からない。
脅威であるのは変わりないし、例え雑魚でも油断禁物だ。
「いい?クリスとえーと……」
「西澤です」
「西澤ね、二人は前衛であたしとそこの男子は後衛から仕掛ける。相手の動きと味方の動きをしっかり把握して戦うのよ」
「「了解!!」」
「分かりましたわ」
作戦通り俺とクリスさんが前衛で攻撃を仕掛ける。クリスさんがアタッカーの左側に回り込んだ。 俺は、右側に回り込み、刀身へありったけの魔力を込め斬りかかった。が、アタッカーは盾のような腕で俺達の攻撃を防いだ。
そして、口から灼熱の炎を吐いてきた。
「ワッと!」
微かに掠り、ジリジリと服の袖が焦げる。
避けたのも束の間、アタッカーが鋭い爪を立て迫りかかってきた。
剣銃で受けるも、力が強く押され気味に。
『グアッ!?』
数発の魔弾がアタッカーを襲った。
その隙に、俺はアタッカーとの距離を置き体勢を整える。
怯んでるアタッカーに、醍醐がさらに追撃をする。
「クリス、今よ!」
如月さんがクリスさんに声を上げた。
「言われなくても分かってますわ!」
クリスさんの槍が展開し、魔力が集まっていく。
あの構えは…………!
以前、アタッカーに襲われクリスさんが助けてくれた時見た構えだ。
強靭な肉体を持つエレメントを一撃で倒す、必殺技の槍がアタッカーを襲う。
「汝に我が主の御加護を…………」
アタッカーの身体に大きな風穴が空き、じわじわと消滅していく。
「ふぅ…………倒したな」
「お疲れ皆、でも油断しないことよ。いつ何が起こるか分からないから」
「は、はい!」
「ラジャー!」
「準備運動にもなりませんでしたわね」
地面に腰を下ろし、一息つくみんな。
初めての実戦で、俺の身体はもうクタクタ。それに比べ、醍醐とクリスさんすごいな。
あんだけ激しく動いたってのに、全然疲れた様子がない。俺もあれぐらい余裕を持てるようにしないといけないな。
皆で話しをしていると、妙な感覚に襲われた。
肌がざらつく風が吹き、悪寒を感じた。
誰かに見られてるそんな感じにも感じられた。
ビービー!
優華のホログラフディスプレイから、耳をつくアラートが鳴り響く。
慌て優華が確認をとる。
「え、嘘…………空間湾曲指数上昇。大きい!南東に十秒後出現します!!」
「皆、すぐさま戦闘準備!!」
マジックウェポンを構え、戦闘体制に移る。
南東の空間が歪む。それも先程よりも大きく。
空間の歪みから出てきたのはアタッカーでは無く、重厚な装甲に覆われ二本の太刀をもった見たこともないエレメントだった。




