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第十四話 いざ実地訓練へ!!

 東京ドーム一つ分のグランドに大勢の生徒がごった返していた。

 三学科合同とあって、一学年全員が揃っている。皆、仲の良い友達と喋ったりマジックウエポンの手入れをしていたりと思い思いのことをしていた。



『おーい、整列しろよぉ。しないと成績下げるぞぉ』



 間延びしたやる気のない赤坂先生の声が、拡声器から発せられる。

 職権乱用とも取れる脅しに生徒達は一斉に整列しだした。

 俺や城田さんも、それぞれの学科の整列場所へ行き列に加わる。



『よし、並んだな。え~、では、今から三学科合同訓練“実地”を開始する。パーティーは以前決めたメンバーで組むこと以上!』



 以前決めたメンバー?俺、知らないんだけど……。

 赤坂先生の開始の号令と共に、生徒達がパーティーを組んでいく。


どうしよう、周りの皆パーティー作っちゃってるよ。完璧俺、修学旅行でどこの班にも入れて貰えないボッチだよ!



「カナさん、なにしてるんですか?」



 ポツンと突っ立ていると、城田さんが話し掛けてきた。



「えーと、パーティーが分からなくて……」

「カナさんはわたし達と一緒のパーティーですよ?赤坂先生から聞いてませんか?」

「そ、そうなんだ……」



 全然聞いてねーよ、そんなこと!あの手抜き糞教師ふざけやがって!

 ……まぁ、何はともあれパーティーが分かったんだ、一旦怒りを鎮めよう。



「皆さん待ってますから、行きましょう」

「うん」



 城田さんに付いていくと、そこには見知った痴女と不愉快そうに顔を歪めたクリスさん、それに見覚えのない男子生徒がいた。



「お、来たな。お前が最後のパーティーメンバーか。俺は“真島醍醐ましまだいご”マジックウエポンは『銃』を使ってる。よろしくな!」



 男子生徒──醍醐が気さくに話しかけてくる。



「うん、よろしく。あたしは西澤奏美。マジックウエポンは『剣銃』を使う予定」



 こちらも、軽く自己紹介をし握手を交わす。

 すると、突然、優華に醍醐との間を割かれた。優華はそのまま俺を抱きかかえ、醍醐を威嚇する。



「カナっちはアタシんのだからね!」

「いや、アンタの物じゃないし……」

「別に取ったりしねぇよ。ただ挨拶として握手しただけじゃねえか」



 醍醐が優華を宥めるように促すが、優華は猫特有の尻尾を逆立て威嚇し続ける。

 困り果てた醍醐は、「分かった、分かった」と手を振り退散していった。

 頼むから、退散しないでくれ!



「み、皆さん、GATの方が来られましたよ」



 城田さんの言葉で、パーティーメンバー全員が振り向く。

 茶髪の癖っ毛のない長い髪で、黒いジャケットを着た女性が、こちらを呆れてるような怒っているようなどちらとも言えない表情で見ていた。

 こっちに近づいてくる女性に何故かプレッシャーを感じる。ただ普通に歩いて居るはずなのに……。


 これが、プロ、なのか。


 女性のプレッシャーに気圧されたのか、優華がバッと俺から離れる。



「隊長、皆ビビっちゃってるじゃあないすか。顔、恐いっすよ?」

「失礼ね、別に脅してなんかいないわよ!」



 女性がひょっこり後ろから現れた赤髪の男の人の顔面に肘打ちを喰らわした。



「グホォッ!?……如月さんいい加減、俺への暴力止めてくれません!?」

「暴力じゃないわ、制裁よ!」



 何なんだこの人達。いきなりコント始めたよ。

 呆気にとられていると、二人のコントに割り込むように、クリスさんが前に出た。



「仲が良いですわね、二人共」

「え、なんでアンタがこの学園に!?」

「あ、クリスさんだ。ちーす」



 どうやらクリスさんは、二人と面識があるようだ。

 クリスさんがこの場にいるのを驚く、如月と呼ばれた女性がクリスさんの肩を掴む。



「これも上からの命令ですわ」

「ふーん、まぁアンタ本来なら学校に通ってる年齢だし、良いんじゃない?」

「うわー、ちょー上から目線」



 赤髪の男の人が冷やかすように言う。



「うっさい、あたしの方が年上なんだから問題ないでしょ」

「え~でも、立場ではクリスさんの方が上っすよ?」

「うぐっ……」



 痛いところを付かれ、言い淀む如月さん。そんな如月さんに追い打ちをかけるように、男の人が言葉を紡ぐ。



「軍人として、目上を敬われないってのはどうなんですかねぇ?如月た、い、ちょ、う」



 ここぞとばかりに、言葉責めをする男の人。

 俺に対して言ってる訳でも無いのに、何か無性にイライラする。

 如月さんがそっと、スナイパーライフルを男の人の眉間に当てた。


 って、えぇぇぇぇぇぇぇ!?



「ごめんなさいね……、目上を敬われないで。でも、そう言う貴方はどうなのかしら?」

「ちょ、ちょ……お、落ち着きましょう?如月さん」

「あたしは至って冷静よ?」



 バーンと銃声が鳴り響く。


 男の人が後ろへ大きく吹き飛ばされた。



「はうぅぅ……」

「ちょ、城田さん!?」



 城田さんが貧血を起こし、倒れ込んだ。咄嗟に城田さんを抱きかかえ如月さんを見る。

 本当に撃ったよこの人……。

 撃たれた男の人の方を見ると、男の人はケロッとした様子で起き上がった。


 え、起き上がった?



「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「ちっ……」



 何がどうなってるんだ?あの男の人は、確かに撃たれたはず……。


 起き上がった男の人を見て、舌打ちする如月さん。額をさすりながら男の人が近づいてくる。



「咄嗟に防御術式を展開するとは……なかなかやりますわね」

「お誉めのお言葉ありがとうございます」


 

 クリスさんがボソッと呟く。その呟きに、男の人が微笑みながら応えた。

 無言のまま、また如月さんがスナイパーライフルを構える。

 如月さんの目は、完全に獲物を狩る狩人の目になっていた。


 そんなに、その人のこと殺したいんですか!?



「ん?ウァァァァ!?もう、勘弁して下さいよ如月さん」

「ダメよ……。あんたが死んでも許さない」

「根に持ちすぎっすよ……」

「あ゛ぁ!?」



 眉間に皺を寄せ、ドスの効いた如月さんの声にクリスさん以外の全員がビクついた。

 グリグリと如月さんが男の人の眉間に、銃口を押し当てる。



「大体ね、目上に対して礼儀がなってない奴に敬う云々言われたくないのよ!

 いつもいつも……人が大切に取っといたプリン勝手に食べるし、雑誌捨てるし……せっかくマサと二人っきりのところ邪魔してくるし……ブツブツ」



 相当、ストレス貯まったるんだな……。

 血走った如月さんの目に、男の人は完全に怯えきっていた。助けを求めるように周りの皆に目線をやるが、俺を含め全員が目線を下に下ろした。


 流石にその距離では、防御術式を展開する事は出来ないらしく男の人の顔が真っ青を通り越して真っ白になっていく。遂には、身体全体の色素が抜け落ちたかのように真っ白になった。



「江藤……、最後に言い残す事はある?」



 如月さんがそう言うと、男の人──江藤さんは死期を悟ったのかそっと瞼を閉じ──



「では……すぅ……如月さんのおっぱい揉ませて下さい!!」



 一呼吸置いてのまさかの発言。


 もう夏が迫ってくると言うのに、この空間だけ真冬のように寒くなり俺達は固まった。

 その発言、殺して下さいと言ってるようなもんですよ江藤さん……。



「ふふふ……死ね江藤ぉ!」



 引き金が引かれるその瞬間、瞼をギュッと瞑った。


 ………あれ?


 一向に銃声が鳴らない。試しに目を開けてみると、如月さんの手からスナイパーライフルが消えていた。

 この場の全員が呆気にとられた表情をする。



「おい、学生達の前で何してんだお前らは!」

「ま、マサ!」

「正臣さん、どうしてここに!?」



 如月さんと江藤さんが同時に声を上げた。二人の間に割って入るように正臣さんとやらが駆け寄る。



「どうしてって……、呼ばれたからに決まってんだろ」

「さっきの強制転移……あんたでしょうマサ!」



 如月さんが正臣さんにとって食うように迫りよる。如月さんの迫力に一歩後ろへ足を置く正臣さん。



「何で邪魔すんのよ!」

「いや、邪魔ってか普通に止めるだろ!お前なに考えてんだ、公衆の面前で殺人なんて……。

 江藤をやるなら人のいない場所でやれ」

「ちょ、正臣さん!?」



 江藤さんって皆から嫌われているのか?

 江藤さんが何やら抗議しているが、正臣さんはそれを右から左へ受け流している。

 正臣さんの提案?を聞いた如月さんはふぅ……と息を吐き、



「それもそうね、あたしどうかしてたわ。江藤、ごめんなさいね。ちゃんと後で殺してあげるから……フフフ」



 美女からの死刑判決。

 殺すの確定なんだ。

 江藤さんの顔を見ると、全て諦め半笑いしながら遠くの空を眺めていた。



「話しが済んだのなら早速実地に行きましょう。私たちのパーティーに同行するのはお三方の内のどなたですの?」



 事の終わりを確認して、クリスさんが三人に話しかける。


「アタシよ」



 如月さんが一歩前に出てそう言った。



「そうですか……。尊さん、ここでこうしていては時間の無駄ですわ。早急に実地を終わらせてしまいましょう」

「え、ええ。そうね、江藤、実地が終わるまでに覚悟しておきなさいよ?良いわね?」



 江藤さんをキッと睨みつけ、如月さんは校門の方へ歩いていく。

 もう何がなにやら……。クリスさんを除く俺らパーティーメンバーは、終始呆気に取られ会話に参加することなく実地に入ることとなった。



「さて、俺も自分の任務を遂行するとするか」

「あれ、正臣さん、正臣さんが入るパーティーはどこにいるんですか?」

「ん?俺はどこのパーティーにもはいらねぇよ」

「え、じゃあ何で……」

「呼ばれたからって、さっき言ったじゃねぇか。それに、ちょっとした任務もここであるしな」

「それって……」

「ほらほら、生徒達が待ってんぞ。行ってやれ」

「え、あ、ちょ正臣さん!」

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