第十二話 騒がしい朝、辛い…………
──高校生活二日目
朝目が覚めると、見知らぬ天井が目に映り込んできた。
「………」
そうだ、昨日から寮生活だったっけ。
寮生活初日だからか、どうも違和感を感じる。こればかりはどうしようも無い。
ベットから出て、伸びをする。実家から持って来たデジタル時計に目をやると、六時を回っていた。
「まだ、寝れる……」
『あら、二度寝ですか?』
夢の世界へダイブしかけたその時、聞き慣れた声がした。
「ミランケス……」
『はい?………って、耳!耳、千切れ……ハッ!まさか、奏美さん寝ぼけてらっしゃる!?』
頭がボーッとする。何だ?指先にフワフワした感触が……。
そのフワフワした感触を握る度に、ミランケスが奇声を上げた。
『あ、ダメ! そんな強くされたら……あ゛ぁぁぁぁ!!』
脳内が緩慢と覚醒していく。
「……ミランケス、あんたそんな所で何してんの?」
俺の足元でグダーっとなっているミランケスに問い掛ける。
すると、ミランケスは両耳を押さえながらこっちを向いた。
『貴女の所為ですよ!』
「何かしたっけ?」
『……完璧に寝ぼけてましたね、奏美さん』
ミランケスがジト目で睨んでくる。
寝ぼける?何のこと言ってるんだミランケスは。
コンコンと部屋のドアがノックされた。
『カナさん、起きてますか?』
外から、城田さんの声が聞こえる。どうやら、起きてるか確認しに来たようだ。
「うん、起きてるよ」
「入りますね、カナさん、朝食の準備出来てますからダイニングに来て下さいね」
エプロン姿の城田さんが部屋に入ってくる。
それと同時に食欲を誘う良い匂いが入り込んできた。
「おぉ! 城田さんの朝食!楽しみぃ! 早く行かなければ」
「ふふ、そんな大層な料理は有りませんよ」
ダイニングには既に、美味しそうな朝食の数々が並んでいた。
「おぉ!」
炊き立ての白米、暖かいワカメと豆腐の味噌汁に鯖の煮込みそれに漬け物まである!
こんな朝食、初めて!
驚きと感動が混じった感情が沸々と沸き上がってくる。
「さぁ、座って食べましょう」
「うん、頂きまーす」
先ずは、鯖の煮込みから……。
「ほぉぉ!」
一口入れた瞬間、天にも昇るような気分になった。
鯖特有の臭味もなく、醤油の風味が効いていて凄く美味しい!
「城田さん! この鯖の煮込みすっごく美味しいよ!」
「良かった、お口に合って」
次に白米、そして味噌汁。この味噌は白味噌かな?
あぁ、これぞ和食と言える朝食だ。
朝食を終え、学校へ行く準備を始める。
寮から学園へは数分とも掛からない。なぜなら、学園の敷地内に有るからだ。
国を挙げて支援する教育施設だけあって、何もかもデカい。デカすぎる!
何せ、東京ドーム十個分の敷地を有している、らしい。
登校初日は、緊張と不安でそう言った事を気にする暇もなかったから、今更ながらに驚く。
普段、生活する本校舎、訓練や部活に使用する体育館にグランドこの三つだけでも東京ドーム二つ分使っているそうだ。
他にも、図書室ではなく、国立の図書館があり、しかも!コンビニやスーパー果ては病院まである快適な学園だ。
残りの敷地は商業エリア、工業エリア、医療エリアで分けられている。
因みに、教員の自宅や学園関係者の自宅も学園の敷地内にある。
学園へ向かう通路を城田さんと二人歩く。
周りには、俺達と同じく学園へ向かう生徒達。自転車で通う奴、ビードと呼ばれる宙に浮かぶボード状の乗り物で通う奴、様々な奴がいるな。……当たり前だけど。何つーか、ここまで揃っていると、どこぞの学園都市みたいだな。こっちの場合は超能力じゃなくて魔術だけど。
「そう言えば、今日“実地”が訓練の時間に入ってましたね」
唐突に城田さんが話し出した。
「実地?」
「カナさんは入学後のオリエンテーションに居ませんでしたし、知らなくて当然ですね。
えーと、実地とはソルジャー、メディック、サポートでパーティーを組み実際にエレメントを討伐する三学科合同の訓練です」
「へー、かなり大掛かりな訓練なんだね。でも、あたし達はエレメントとの交戦権が与えられてるけど、プロって訳じゃないし危険なんじゃないの?」
「その点は大丈夫です、実地にはGATから人員が派遣されて各パーティーに配属されます。
緊急事態の場合、GATの隊員の指示に従うのが義務付けれています」
「なるほど……」
登校二日目にしていきなり実践とか、無理。いくらGATから人が来てくれるとは言え俺は周りの皆よりも素人だ。
何かしらのヘマをしでかすかも知れない。もしかしたら、俺の所為で怪我人をだしてしまうかも。
訓練の時間は、確か六限目。まだ時間が大分あると言うのに、今すっごく緊張している。
気付くと、手汗が大量に出ていた。
「ヤッホー、おはようー二人とも」
ビードに乗った優華が現れた。
ブレザーを腰巻きみたいにしている。六月に入って確かにちょっと暑いかなと思うけど、ブレザーを脱ぐまでじゃないと思う。
Yシャツ越しに薄らとピンク色の下着が見えた。
………Eはあるな。
初めて会った時はブレザーを着てたから分からなかったけど、優華って意外と着痩せするんだな。
「ん? カナっち、ジーッと見つめてどうしたの?」
「べ、別に何も!」
慌てて視線を外す。
しかし、その行為は逆効果だったらしく優華がニヤニヤしながらにじり寄ってきた。
「カナっちぃ、もしかしてアタシのオッパイ見てた?」
「み、見てない!///」
「んふふふ、遠慮しなくても良いんだよ? 大きさでは、カナっちに劣るけど形と感触には自信あるんだ」
優華は俺の手を取り、自分の胸へ運んだ。
や、柔らけぇ……っ、いやいやそうじゃないだろ俺!
バッと手を引っ込め、優華との間を取る。
「あん、まだ触ってても良いのに」
「な、何アホな事してんのよ、あんたは!」
「別に女同士なんだがら、恥ずかしがる必要無いじゃん」
「有るよ!? あんたには羞恥心って物が無いの!?」
優華はフッと小さく笑い、とんでもない事を言い出した。
「そんなもの臍の緒と一緒に子宮の中へ置いてきたわ!」
「置いてくんなボケェ!」
本当にこの娘は、女の子か!?中身まるっきしおっさんじゃねぇか!
いや、中身男の俺が言えた義理ねぇけど……。
朝っぱらから頭が痛い。
「カナさん、はい……」
城田さんから何かを手渡される。
それは頭痛薬だった。
城田さん……。あんた本当、良い人だよ。
感謝の念を送り、城田さんから薬を受け取る。
「ん? カナっち、頭痛いの? ストレス溜まってんじゃない?」
ストレスの原因であるネコ娘が、心配そうに俺の顔を覗いてくる。
心配してくれるのは嬉しいんだけど……、すっごく苛つく! 血圧上昇しまくるつーの!
この歳で高血圧とか嫌だ……。
「はぁ……」
もうね、この状況ため息吐くしかないと思うんだよね俺は。
「カナっちぃ、ため息ばかりしてると幸せが逃げちゃうぞ!」
ピクンと身体が反応する。
優華に成美が重なって見えた。
俺はまだ、未練がましくあいつの事を……。
「────っ」
首を左右に振り、沈んだ気持ちを切り替える。
なるべく自然な笑顔を作り、優華へと振り向く。
「カナっち? ……ぁイ゛ダダダダ!?待ってギブ、ギィブ!──あっ」ガクッ
そして、無言のまま首締めを決め優華を堕とした。
よし、今日も一日頑張るぞ!地面でのびてる優華をほっとき俺は学園に向かうことにした。




