第十一話 第一小隊出陣!!
◇◇◇
──オフィス街のとあるビルの屋上
『こちら、α。ポイントBに到着』
『β、ポイントCに到着』
『Ω、ポイントAに到着』
次々と、無線機に通信が入ってくる。
「了解、指示を待て」
『『『了解!』』』
通信を終え、GAT第一小隊の隊長──日下部正臣はオフィス街の景色を眺める。
正臣の手には、2m程の赤い刀身のバスターソードが握られていた。
もう直ぐ、“奴”が来る……。
ギュッとバスターソードを握る手が強張った。
この小隊の隊長に赴任してから約一カ月。正臣は隊長らしく在ろうと試行錯誤していた。
様々な戦術を学び、如何に小隊の練度が良くなるか考える日々。
そして、今日正臣にとって人生を分けるミッションが始まる。
今回の目標は、警戒心が強く動きが素早い。過去何度か討伐隊が出てるが、毎度煙に巻かれていた。人的被害も裕に100件を越えている。
そこで、このベモンと呼称されたエレメントを正臣が所属する第一小隊が討伐することとなった。
『こちら、β、目標出現!』
インカムに隊員からの目標出現の報が伝えられる。
「よし、作戦行動を開始する。β、如月、聞こえるか?」
『はい』
正臣の問に、インカム越で女性が応えた。
「予定通り、目標を指定のポイントに誘導しろ」
『了解』
「後、無茶はするなよ……」
『分かってる。心配しないで、マサ』
──ポイントC
通信を終え、目標へ狙いを定める。
如月尊はスコープを覗き込む。
「標準をY軸3度修正……」
スコープ越しに目標──ベモンが写り込んだ。
「見えた!」
引き金を引き、スナイパーライフルの銃口から濃密度に圧縮された魔力弾が放たれる。
魔力弾は真っ直ぐエレメントに飛び、左腕部分に命中。
「ビンゴ!江藤、今よ!」
「了解!」
江藤と呼ばれた青年が、手にしているサーベルに魔力を集中させ切りかかった。
ベモンの右肩にサーベルが食い込む。
『グウゥ……』
右肩から青紫色の血液が噴き出すように出る。
不利を悟ったのか、ベモンは移動を始めた。
「マサ、聞こえる?目標が指定のポイントに移動したわ」
『了解』
正臣は飛行術式で、指定のポイントへ移動。
ふと、背後に人の気配を感じ振り返る。
「ふふ、気付かれましたか……。意外とやりますわね」
「君は……?」
銀色の髪をした少女が、正臣の背後を飛行術式で飛行していた。
少女は、たいして驚いた様子も無く正臣に付いて来る。
かなりの速度で飛んでると言うのに、少女は悠然と速度を落とさず飛行を続けていた。
「君は何者だ」
「私、ですか?私はクリス・ヴォークライ」
ヴォークライ!?何故、十二聖騎士団の一人が?
クリスと名乗った少女がクスリと笑う。
「心配しなくても、手柄を横取りするような無粋はしませんわ」
「何故、十二聖騎士団の一人である君がここに?」
銀髪の少女──クリスはキョトンと首を傾げた。
「あら?聞いてませんの?今日の貴方方のミッションに参道し見届けろと言われてますの」
「そんな話し、初耳なんだが……」
頬を掻き、正臣はじっとクリスを見つめる。
十二聖騎士団がこのミッションに参加すると話しは受けていない。上層部は何をしているんだ。
「何にしても、十二聖騎士団の一人が参加してくれると言うのならば、こちらとしても有り難い」
「……あくまでも、私は見届け人です。最低限の補助はしますが、それ以外はしませんわ。その点を勘違いしないで下さいまし」
「了解した」
前方に、目標のベモンが目視出来た。
ベモンの方もこちらに気付いたらしく、戦闘態勢に入る。
「ふふ、手負いのようですがやる気満々のようですわね」
クリスが手を前に翳し、拘束術式を展開させた。
エレメントの身体を囲おうように魔法陣が展開。
「今ですわ!」
「拘束術式解除、『村正』に境界を接続……」
“一式禅の太刀”
赤い刀身のバスターソード──『村正』から強大な魔力が発せられた。
辺り一帯の大気が震えるのが肌でヒシヒシと感じる。
不安定だった魔力が、安定し形を有していく。元の刀身よりも巨大になった『村正』を正臣が振り下ろした。
『グゥオォォォォ!?』
ベモンは振り下ろされた村正によって真っ二つにされた。
消滅したエレメントを確認した後、正臣は『村正』を亜空間にしまった。
「終わったようね」
今到着した尊が駆け寄る。
見たところ、どこも怪我をしていないようだ。
「ん?その子は?」
クリスの存在に気付いた尊が、首をクリスの方へ向ける。
「あぁ、この子は……」
「初めまして、クリス・ヴォークライと申します」
一歩前へ出て、クリスが挨拶をする。
「ヴォークライ?」
クリスの名を聞いた瞬間、尊が眉を潜めた。
尊の反応は極普通だ。なんせ、目の前にあの十二聖騎士団の一人が居るのだから。
正臣はこの状況をどう説明したら良いのか、思考を巡らせた。
「……そうですか。私は如月尊、どうぞ宜しく」
「えぇ、こちらこそ」
状況説明をする間もなく、事態が動く。
身の毛も弥立つ程の冷たい笑みを浮かべ、尊がクリスと握手をした。
その笑みにも動じず、クリスはにこやかに微笑む。
妙な空気が流れ始めた。
「隊長ー、無事ですか……って、ありゃ?」
タイミングの悪いことに、空気の読めない奴が来た。来てしまった……。
赤髪の青年──江藤が、尊とクリスを交互に見る。
「ありゃりゃ?これはまさか、“修羅場”と言うやつなのか!?」
「ば、馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ江藤!」
「痛って!」
ニヤニヤと笑う江藤の頭に、拳骨を落とす。
江藤が、頭をさすりながらこっちを見てくる。
「うぅ……痛いですよ隊長ぉ」
「お前は黙ってろ……。二人ともミッションは終わった、本部へ戻ろう」
未だ、冷たい笑みを続ける尊と、それに対し臆することなく微笑むクリスに帰投するよう促す。
すると、尊が近寄って来て耳元で──
「ちゃんと、説明してもらうわよ?」ボソッ
「………っ!」
背筋がゾッとした。エレメントと対峙している時よりも恐怖を感じたかも知れない。
綺麗な声でドスを効かせたその物言いに正臣の身体は強張った。
本部へ帰投し、ミッション完了の報告をする。
報告後、司令室を出て自販機のある休憩室へと向かう。
休憩室に入って早々、中にいた尊に睨まれた。
「さぁ、説明してもらうわよ!」
「えーと、何というか──」
「上の命令で貴方方のミッションに参加しただけですわ」
正臣の言葉を遮るように、クリスが事ここに至る経緯を簡潔に述べた。
今にも取ってく食い付きそうな尊の表情が、さらに険しくなる。
二人の間に、現場にいた時のような空気が流れ始めた。
「おぉ!一人の男を美女と美少女、大人と子供が奪い合う……正しく修羅場っすね!」
「ちょっと、黙ってなさいよ江藤」
奥の方で江藤とラフな私服姿の女性──神崎志帆の会話が聞こえる。
出来れば、俺もそっちの会話に入りたかった。そう正臣は思いながら尊とクリスに目をやる。
「あたしはそんな話し聞いてないわよ」
おお、なんてデジャヴ。
尊の言葉を聞いたクリスがクスッと笑った。
「反応が全く一緒ですわね、まぁ仕方ないのかも知れませんが……貴方方へ連絡が届いて居ないのは上のミスでしょう。
私は先程も述べた通り、上の命令でここに居ます 別に貴女の男を奪いに来たのではありませんからご心配なく」
「なっ………///」
顔を赤くし、狼狽する尊。その様子をクリスは微笑みながら見ていた。
「アハハハ、見事に見透かされたっすね副隊長」
「ば、バカ!」
江藤がこれまた空気の読めてない発言をする。
江藤、それは火に油だぞ……。
神崎が止めに入るも、時既に遅く猛獣が標的を江藤にシフトさせた。
「江藤、あんたいっぺん死んできなさい!」
「え、ま、待って下さいよ!如月さんが嫉妬深いのは周知の事実で──デブシャァ!?」
言い訳を言い終えるよりも先に、尊の渾身のストレートが江藤の顔面に命中。
江藤は三メーター程殴り飛ばされていった。
拳をさすりながら、尊が振り向く。
「事情は分かった。ヴォークライ、さんでしたっけ?ごめんなさい、あたし貴女の事誤解してたわ」
「いえいえ、誤解が解けたのならそれで良いですわ。それと私の事はクリスとお呼び下さいな」
「分かったわ、クリス」
「はい」
先程とは打って変わり、和やかに握手を再度交わす二人。
良かった、この状況を無事脱出する事が出来たようだ。
約一名、負傷したが……。
「さてと、私はこれでお暇させていただきますわ」
正臣達に一礼し、クリスは去っていった。
銀髪の少女……。ふと、正臣はあることを思い出す。
二ヶ月前、まだこの小隊の隊長に赴任する前に栄守学園に入学する女子生徒と一般の少女がエレメントに襲われると言う事件が発生した。
当時、正臣が所属していた第一小隊が駆けつけたのだが、エレメントは既に何者かに討伐されていた。
そのエレメントを討伐したと言うのが、銀髪の少女だったと言う。
まさか、彼女が……?
去っていくクリスの後ろ姿をじっと見つめる。
後日、先のミッションの功績が認められ、正臣は大尉から少佐へ昇格した。そして、GAT選りすぐりの強者が集う第零小隊に召集された。




