第十話 美味しい夕食、ところでデザートは?
ダイニングに入ると、そこには出来立ての料理がテーブルの上に並んでいた。
「すご!コレ全部城田さんが作ったの?」
「ふふ、コレぐらい普通ですよ。手の掛からない簡単な物ばかりですし」
照れ臭そうに、頬を掻き城田さんが台所から出てくる。
「いやいや、十分誇れるよ!城田さんって良いお嫁さんとかになりそうだよね」
「お、およ、お嫁さん!?」
何故か、城田さんが顔を真っ赤にして慌てふためき始めた。
落ちつきなく辺りをキョロキョロ見渡す。その様子がどうも、可笑しく見えて笑いそうになった。
「城田さん、早く食べよう?せっかくの料理が冷めちゃうし」
「そ、そうですね!じゃあミケちゃんも……」
魚の切り身を小皿に乗せ、城田さんが立ち上がる。
「あれ?ミケちゃんは?」
「あたしの部屋に居ると思うけど?」
「そっか、ミケちゃ~んご飯だよぅ」
パタパタと俺の部屋に向かう城田さん。
城田さん、あんた良い人だよ。勝手にきた居候に夕食あげるなんて……。
ミランケスを抱きかかえ、城田さんが戻ってきた。
「カナさん、ミケちゃん部屋の隅っこで丸まって居たんですけど……何かありましたか?」
「さぁ?寝てたんじゃない?」
「そうは見えませんでしたけど……」
ミランケスを床に下ろし、城田さんが魚の切り身を差し出す。
魚の切り身を見た瞬間、ミランケスは目を輝かせ魚の切り身にがっついた。
「ふふ、余程お腹が空いていたんですね」
いや、多分違うと思う。
『美歌さんは優しいですねぇ、どっかの誰かさんとは大違いですよ』
魚の切り身を食しながら、ミランケスがボソッと呟く。
「悪かったわね、優しくなくて」
お返しとばかりに、きつく睨み付けてやった。
と、そこであることに気付く。
「ミランケス、あんたなんで城田さんの名前知ってんのよ」
『奏美さんの心を読んだまでです』
得意げな顔をしながら、ミランケスがさらっととんでもない事を言う。
心を読むとか恐!
伊達に女神を名乗ってはいないと言う訳か。
「?さっきから何ぶつぶつ言ってるんですか?」
不思議そうに城田さんが覗き込んでくる。
「え、いや、何でもないよ!アハ、アハハ……」
危ねぇ、危ねぇ、城田さんからしたら独り言にしか見えないし、可笑しな奴だと思われかねない。気を付けないと。
せっかく出来た友達だから、失いたくないしな。
──夕食後。
「ふぅー、御馳走様でした」
「はい、お粗末様でした」
後片付けをし、食後のティータイム。
城田さんの煎れてくれるお茶は格別に美味しかった。
普通の麦茶の筈なのに、どうしてこんなに美味しくなるんだろう?
「城田さんこのお茶どう煎れてるの?」
「?特別な事はしてませんよ。普通に煎れてるだけですよ」
普通?普通にやってこんなに美味しくなるのか!?
俺は城田さんの腕前に呆気に取られた。
いや、しかし、料理が上手いだけでは無くお茶の淹れ方も上手いなんて……感服致しました!
でも、何か足りない…………。そう、何かが足りないんだ。何なんだ…………?
そうだ!
「ねぇ、デザートは無いの?」
「はい?」
食後と言えば、腹ごなしにデザートを食べるもの、何だが…………。どうやら、城田さんは作っていなかったみたいだ。
城田さんのキョトンとした愛らしい顔を見ていると、駄々を捏ねたように作ってとは言えないし。
暫しの沈黙の後、今晩の夕食は終了した。




