第九話 ミケの突撃!晩御飯!!
登校初日、一日の授業日程を終え俺は今これから住む寮の部屋の前にいる。
「303号室……ここだな」
部屋は相部屋なので、一応礼儀としてチャイムを押してから中に入った。
「お邪魔しまーす」
「あ、カナさん!」
中に入ると、城田さんが砕けた服装で現れた。
おー、城田さんの普段着!意外とお洒落だな。
つーか、城田さんと部屋一緒か。
「城田さん、部屋一緒なんだね。これから宜しく」
「うん、宜しくお願いします。そうだ、カナさんの荷物は全部中に入ってますから」
「分かった」
それにしても………。
周りをキョロキョロ見渡す。
これ、寮てかマンションだよね。リビングにダイニング、オマケに個室まで付いてるよ。
「あ、カナさんの個室はリビングに向かって左側です」
「分かった、ありがとう」
言われた部屋に入ると、山積みになった段ボール箱が出迎えた。
「げぇ………」
俺の荷物、こんなに在ったっけ?
これ、全部出して整理するのか……。
考えただけで、げんなりとしてくる。でも、このままって訳にもいかないしな……。面倒だけど、整理しますか!
─── 一時間後、
「終わったぁ!!」
綺麗に整理された自分の部屋をじっくり見渡す。
見慣れた物を置くだけで、なんか実家の自分の部屋のように思えてくるな。
備え付けのベットの上へ腰掛ける。実家にあるベットよりも若干柔らかい。 俺、硬めの方が好きなんだけどな……。
ガサゴソ……。
「ん?」
怪しげな音が部屋からしてきた。
何だ?ネズミでも居るのか?
ガサゴソ……ガサゴソ……。
音の発生源は、開けるのを忘れていた段ボール箱からだった。
「………………ゴクリ」
意を決し、段ボール箱を開ける。
「うわぁ!?」
中から、黒い物体が飛び出した。
驚き腰を抜かす俺。
飛び出た黒い物体はベットへ着地。そして、ブルッと身体を振るわせた。
『ふー、やっと出ることが出来ましたぁ』
「み、ミランケス!?」
出て来たのは、なんと家に居るはずのミランケスだった。
ミランケスは伸びをした後、毛繕いを始めた。
「あんた、何でここに居んのよ!?」
『あぁ、奏美さんお帰りなさい』
「うん、ただいま……じゃなくて!」
『何ですか?そんな息り立って……。さぁ、コレを飲んで落ち着いて下さい』
どこから取り出したのか分からない牛乳瓶を手渡された。
今俺、確実に血圧上がってる。
『どうしたんですか?搾りたてで美味しい筈ですよ?』
「牧場でも行って来たんかい!?」
『いえいえ、そんな所行かなくても、お乳ならここに有りますから。ほら』
そう言い、ミランケスが自分の胸を指し示す。
え?それって……つまり、
「猫の乳なんか、飲めるかぁ!!」
窓を空け、思いっきり牛乳瓶を放り投げた。
『あぁ!私の搾りたてがぁ!?』
何てもん飲ませる気だよ、このバカ猫。
『うぅ、やっぱり奏美さんは酷いです。いえ、この場合は非道いですかね?私の身体を張った親切心をこうも容易く捨て去るなんて……』
「有り難迷惑なのよ!」
ミランケスの首根っこを掴み、グイッと持ち上げる。
「ミケェ、素直に答えなさい?どうしてここに居るの?」
『ハハハ……それは、その……』
額に脂汗を浮かべ、言いよどむミランケス。
更に睨めつけると、ミランケスは身体をビクッと振るわせた。
『す、すいませんしたぁ!つい出来心で段ボール箱に紛れ来てしまいましたぁ!』
口調変わっちゃってるよ。
ミランケスを下ろし、ベットへ腰掛ける。
「はぁ……、来ちゃったものは仕方ないにしても───」
どうしたものか、流石に寮でペットは不味いよな……。
ミランケスが入ってた段ボール箱が視界に入った。
いっそのこと、送り返すか?
『か、奏美さん?もしかして送り返そうとか思ってます?』
「あら、察しがいいわね」
『私は帰りませんよ!帰ったりしたら……』ブルッ
「帰ったりしたら?」
震えるミランケスに問う。
『帰ったりしたら……音波さんの玩具になっちゃうじゃないですか!!』
アハハ……確かに、玩具にされてたなミランケス。
音波の奴、可愛い顔している癖に結構惨い事するんだよな。
『カナさぁん、部屋の整理終わりましたかぁ?』
部屋の外から、城田さんの声が掛かった。
「うん、終わったよー」
『そうですか、じゃあ入りますよ』
「え!ちょ、まっ───」
無慈悲にも部屋の扉が開けられた。
入ってきた城田さんの目線が黒猫に注がれる。
「ね、猫?」
「いやぁ、これはその……」
「わぁぁ……可愛い!」
目を爛々と輝かせ、城田さんがミランケスを抱き上げた。
スリスリとミランケスに頬摺りする城田さん。
「あのぅ、城田さんこの事は二人の秘密にしてくれないかな?」
「別に秘密にする必要はありませんよ?」
「へ?」
「この寮、ペットOKなんです」
「そ、そうなの!?」
寮なのにペットOK?すげえな、もしかしてペット連れ込んでいる生徒多いのか?
「ニャアー」
「あはは、くすぐったいよ」
ミランケスと城田さんが無邪気にじゃれてる。
ペロペロと城田さんの顔を舐めたり、頭を擦り付けたりミランケスは精一杯愛嬌を振りまいていた。
「ねぇ、カナさんこの子何て名前なんですか?」
「ミケって言うんだよ」
「黒猫なのにミケ?プッ、クスクス……」
笑われた瞬間、ミランケスはあからさまに不満げな顔をした。
ふふ、ミランケス、恨むのならその名を付けた母上を恨むといい!
「おっと、すっかり忘れてました!」
不意に、ミランケスとじゃれついてた城田さんが声を上げた。
「カナさん、そろそろ夕食にしませんか?」
タイミングが良いのか、悪いのか俺の腹が「グゥー」と鳴った。
「そう、だね……」
お腹が鳴る音を聞かれ、恥ずかしさで顔が真っ赤に。クスリと笑う城田さんが、「それでは……」と立ち上がる。
「支度は出来てますから、ダイニングの方に来て下さいね」
「はぁーい」
城田さんが部屋から出て行くのを見送って、ミランケスの方へ振り向く。
「いい?ミランケス、あたしはこれから夕食を食べるの。その間、あんたはここに居なさい。分かった?」
『えぇぇぇ!?私の夕食は!?』
「そんなもん、無いわよ?」
ガーンと背景にそう見えそうな程、ショックを受けるミランケス。
『何で、私だけ夕食が無いんですか!?虐待ですよ!!動物愛護団体に訴えますよ!!』
「やれるもんなら、やってみなさいよ」
『うっ………』
ミランケスの声(人語)は俺にしか聞こえない。従って、訴えても動物愛護団体の皆様にはただ黒猫がにゃーにゃー言ってるとしか聞こえない。
つまり、訴えるだけ無駄!
悔しそうにミランケスが唇を噛み締める。
ふっ、勝った。
優越感に浸りながら部屋から出て行く。
「まぁ、気が向いたら何か食べられそうな物持ってきてあげるわよ」
『奏美さんは悪魔……悪魔の申し子です』
「ふっ、……なんとでも言いなさい」
悔しがるミランケスを部屋に置き、ダイニングへ向かった。
精々、俺が美味しい夕食を堪能している様を指をくわえ見ているがいい!
クククク…………。




