酒場
元魔王は床にできた血だまりで不自然な程に存在を主張する、つい先程まで自分の体についていた筈の腕を眺めている
ー魔王さま!
側近が近寄って来るのが目の端に移ったがもう、遅い。
先程元魔王の腕を掠めていった何かが再び襲いかかる
次は、頭を。
だがそんな絶望的な場面で元魔王は薄く笑う
ーーさて、2周目じゃ
街は大勢の人で溢れている
特に今は昼時ということもあってか市場の客引きの声が賑やかだ
「さて、どうしましょう?もっかい酒場、行きます?」
側近が態とらしく聞いてくる
が、元魔王はそれを無視して商店の方へと進んでいく
「ここからここまで全て貰おうかの。
それと外に飾ってある風除けの護符を。」
毎度!と店のおっちゃんは威勢良く対応してくれた
「ところで店主よ、何故どの店も風除けの護符を目立つところに置いてあるのじゃ?」
「?なんだ嬢ちゃん知らないで買ったのかい?最近この街も物騒になっちまって、つっても他の街に比べりゃまだまだ平和なんだがなぁ」
「店主よ、」
「あぁすまん、話が逸れちまった。
最近通り魔が出るんだよ。んでそいつが風の力を使うって話でな、まぁ早い話がそいつに会っちまった時用の自衛グッズだな。」
側近は正直思った。
知らないで買ったのかよ、と。
店主に丁寧にお礼を(側近が)言って店を出る
「ところで酒場のアレ、攻略法わかったんですか?」
元魔王はまたもや側近の問いを無視して今度は路地へと入っていく
もー、なんなんですかぁとぼやきながら側近もそれに続く
それは路地に入ってすぐだった
「そろそろ出てきたらどうじゃ?」
側近の驚きも他所に元魔王は姿の見えない誰かに向かって話し続ける
「街に入った時からずっとついてきているのはわかっておるのじゃぞ?」
しかし『誰か』からの返答はない
「ならば妾からいこうかの」
元魔王がそう言うや否や妾からなんて無理でしょ!と側近が魔法をぶっ放した
前方に向かって放たれた炎の魔法はある部分ですぅと消えてしまう
「そこじゃな」
「魔王さま、酒場の奴ですか?」
側近の問いに元魔王は笑って返した
ーー味方、じゃ。暫定的にはの。