転職
「勇者に転職しようかの」
突拍子もない事を言い出す元魔王に呆れた様子で
ーいや、むしろ駄々をこねる子供をあやすような
ーいや、ボケ老人を相手にするかのような口調で側近は優しく問う
「勇者に転職って…魔王さまの能力は正直使いづらいことこの上ないですし、というか使える能力だったらさっき大臣相手に使ってるはずですし魔王リストラになんてなってない筈ですよね。
かと言って攻撃魔法も使えなければ体力も並だし武器だって…いったいどうやって戦うおつもりで?」
「使いづらいのは妾のせいではなかろうに。あの肉団子があんなにぞろぞろその他大勢を連れてこなければよかったのじゃ。」
元魔王はブツブツ文句を言いながらも少し考えると
「お前が前衛。妾は後衛でアイテム係じゃな」
とさらっと言った。が、側近的には流す訳にはいかない様で言い終わると同時に拾い上げる
「ちょっとお待ちください、私が前衛なのはまあいいとして、アイテム係ってなんですか?あとどこの世界に後衛の勇者がいるんですか?」
「ここにおるぞ。アイテム係はアイテム係じゃ。
お前がピンチになったら即アイテムで回復してやるでな、任せろ」
「それ私割りにあわなくないですか?」
「気にするな」
「気にします」
ここで折れたら一人だけ苦労するのが目に見えている側近は一歩も引かない。引けない。引きたくない。
「以前からお前が前衛で妾は後衛だったであろうに…
何が不満なのじゃ?更年期かの?」
はぁとため息をつきながら元魔王は意味がわからないとばかりに頭を振る
まるで外国人のように大袈裟な動作だ
「以前は魔王だったからじゃないですか!一番奥で待ってて他の魔物と戦ってきてちょっといい感じに疲れてる勇者が相手だったからそれでも良かったんですよ!今度は立場が逆になるんですよ?!無理ですって!!!」
「…あと、更年期ってなんですか、私よりババァのくせして」
ボソッと嫌味も忘れない
が、
「合法ロリってやつじゃな」
元魔王相手には意味が無いようだ
「まぁとりあえずお前の言うことも一理あるし勇者の旅の始まりといえば仲間集めからじゃからな、街にでも行って金の力に物言わせて仲間でもゲットするかの」
「なんで言い方がそんなゲスいんですか…てゆうかそれは仲間じゃなくて傭兵を雇うってことですよね」
「違うビジネスパーティーじゃ」
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「街まで来たはいいですけどどんな人を仲間にするんですか?」
街は大勢の人で溢れている
特に今は昼時ということもあってか市場の客引きの声が賑やかだ
この辺りは魔族とはもちろんのこと近隣国との争いも無い平和な地域の為か人間と共に獣人なんかも普通に街を歩いている
なかなか面白い光景だ
「お前が魔法使い的立ち位置として妾は勇者兼アイテム係じゃ。ならばあと必要なのはイケメン剣士がRPGのセオリー。」
元魔王の瞳は珍しくやる気に満ち溢れている
「剣士はわかりますけどなんでイケメン?てか私魔法使いポジで前衛行かされるところだったんです?なにそれ怖い」
「あと欲をかけばイケメン召喚士かイケメン弓兵も欲しいのじゃ」
「前衛一人に後衛三人とかめちゃくちゃバランス悪いですよそのパーティ」
「お前はいちいち煩いのぅ…」
あーだこーだ言いながら二人は酒場を目指して雑踏の中を進んでいく
酒場で何が待ち受けているかも知らないで…