魔王リストラされました2
「ー魔王さま、本日を持ちましてあなた様を魔王職からリストラ致します。」
あまりにも衝撃的な宣言にも関わらず
顔色を変えない魔王とあまりにも衝撃的すぎて半泣きの側近を尻目に
大臣は続ける
「近頃魔族達から不満の声がひっきりなしに上がっていましてね
魔王さまが戦っているところを見たことが無い(悪魔族/男性)
魔王さまの能力を知らない(サキュバス族/女性?)
そもそも魔王様を見たことがない(サイクロプス族/男性)と。
人間たちなどここ何百年も勇者が選ばれていないという話です。正直舐められているとしか思えません。このままでは魔族の威厳が地に落ちてしまいます。」
「…」
「魔王さま、リストラに異論がお有りならこのミノタウロスを倒して皆にそのお力を示してください!」
「…妾にも魔王職に就いた理由があるのでな、それなりに。おとなしくはいそうですかとリストラされる訳にはいかぬのじゃ」
「ならば…!」
大臣はいつでも来いと言わんばかりに戦闘の構えをとる。大きな体躯に鍛え上げられた筋肉、そして手にした大きな斧を振り上げた大臣は正に魔物の中の魔物といった風体だ
対して魔王は構えを取るわけでもなく棒立ちのまま…とても戦闘が出来るとは思えないひょろい身体つきにやる気のない瞳、しかし溢れ出る魔力だけは確実にその場を支配していた
ーさすが魔王だ…
可愛らしい見た目からは想像出来ない程の圧力を感じ、大臣は額に汗を滲ませる
「さあ魔王様!魔王様の最大の魔法でわたくしを倒してみてください!」
大臣は畏怖の感情を隠しつつ魔王を挑発する
「そんな魔法は使えぬ」
「え」
「そんな、魔法は、使えぬ」
予想外な答えが返ってきて大臣は真っ白な頭で考える
ーいや待て、魔王はもしかして魔法が得意なタイプではないのかもしれない、ああ見えて意外とガチの肉体派でスタンドみたいの出してきてボコボコにされるやつかもしれないではないか
人を見た目で判断してはいけない、それは力あるものなら誰でも知っていることだ
逆に言えば見た目で判断する奴は弱い、そしてそれは死に直結する
「ならば純粋なる力で!その腕力で!脚力で!このわたくしを倒してみてください!」
「え、無理」
「え」
「無理じゃて」
すっかりやる気を失った大臣は諦め混じりで尋ねてみる
…なんならできるのですか?、と
辺りに色濃く漂う失望感…そんな残念な空気も読まずに
「ゲームならば」
としれっと答える魔王はやはり大物なのかもしれないと側近はぼんやり思いながら菓子のゴミや食べカス、そして積まれたゲームがひしめくある意味愛着のある部屋を見納めとばかりに眺めていた
ーガラガラガラガラガラガラ
ポイッ
べしゃっ
数分後、案の定魔王と側近は城から追い出されていた
「…やっぱりリストラされちゃったじゃないですかぁぁぁあだから言ったのにぃい」
側近は人目をはばからずびゃーびゃー泣いている。
金髪褐色肌のダークエルフというクールビューティの権化みたいな恵まれた容姿をしているのに子供みたいに泣いているせいで全てが台無しになっている
側近はいろいろな意味でとても惜しい女だった
ーあの鼻水垂らしの肉団子野郎めが、妾が本気を出せばあんな脳筋1周で終わるというに…
元魔王は舌打ち混じりにミノタウロス大臣…改めミノタウロス新魔王へ毒を吐く
「…で、これからどーします?」
幾分落ち着きを取り戻した側近はとりあえず追い出されただけですんだ事に安堵し、
老後の隠居暮らしのようにまったりするのもありかもなんて考えていたのだが元魔王は当然そんなに甘くはない
「うむ…」
この時元魔王はやりかけで取り上げられたゲームのことで頭の中がいっぱいだったのでこうなることはある意味予定調和だったのかもしれない
「勇者に転職しようかの」