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紫蘇(しそ)

キャリアウーマンの春江さんは、花が嫌いだ。

だから、秋彦さんと春江さんの家には、花瓶が一つもない。

花は枯れるから、切り花は嫌いだ。その原点は、小学校の頃にあるようだ。秋彦さんが聞いたところによれば、小学生の頃、教室に切り花が飾られて、花が咲き終わった後始末を誰もしない。当時、学級委員長だった彼女は、それの後始末をさせられたようだ。こんな後始末をするくらいなら、花なんか飾るまいと、硬く、固く、堅く、難く、決意をしたらしい。その決意は変わることなく、生涯守り通している。


だから、キャリウーマンの春江さんは、おばあちゃんの小さなフラワーガーデンには、あまり興味を示さない。雑草と芝生とゴーヤとトマトとナスには、密かに注意を払っていて、見るに見兼ねると、雑草を抜いたり、ゴーヤに水をやったりしている。基本的には、おばあちゃんと秋彦さん任せだ。


しかし、例外が一つだけある。

紫蘇を育てろと、秋彦さんにいう。

秋彦さんは、「大丈夫だよ。紫蘇は自然に生えてくるから、待っていればいいよ」

ところが、去年は勝手に生えていた紫蘇が、今年は、いつまで経っても生えてくる気配はない。

きっと、もう少したてば、自然に生えてくるかもしれないが、春江さんの希望を、当てもなく放置するわけにはいかない。困ったときのホームセンターである。

なんと、紫蘇の苗木を売っているではないか。そんなものを買う奴なんか、僕ぐらいしかいないのではないか。


しかし、なんでもあるホームセンターである、恐るべし。


そこで、小さなポットを一つかったのだが、そのホットには、紫蘇が十本もひと塊りになっていて、とても株分けもできそうもないので、とりあえず、そのまま庭に植えておいた。

2週間後、少し、紫蘇の苗も大きくなったのをみて、このままではマズイとおもった秋彦さんは、紫蘇を掘り出し、苗、一本、一本に分割して植え直したでした。

そして、2週間後、おばあちゃんいわく、「この紫蘇の成長が悪いんじゃないの」


「えー!」


まあ、ここは我慢して様子を見よう。紫蘇なんて雑草みたいなもんだから、ほっておいてもどんどん大きくなるし、去年もそうだったのだから。それに、この紫蘇の苗木が、全部大きくなったら、小さな庭は紫蘇だらけになってしまうじゃないか。


なぜ、キャリアウーマンの春江さんが、紫蘇を育てろと、いうのかというと、去年、試しに、「紫蘇ジュース」を作ったら、うまくいったので、今年も、作ろうと企んでいるのだ。


と、ここまで書いて、今年、なぜ、紫蘇が生えてこないのか、わかったのだ。去年、大きくなった紫蘇の葉をむしってしまったので、紫蘇が種をつけて、地面に種が落ちることがなかったからだ。

この分では毎年、紫蘇の苗木を買ってくるしかないと、悟った、秋彦さんでした。

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