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改編  作者: masaya
一章 識別血族
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崩壊と破壊と非生命Ⅶ

川のように流れていく景色。街灯、車光などが線のようにゆらゆらと繋がっていく。見た事もない景色に出雲はただ、驚きつつも一つ一つを確かめるように視覚へ入れ脳へと情報を補完していく。知らないことを知ることはそれだけ命を繋げる事となり得るため必死に混乱しない様、西院に手を引かれつつも冷静に物事を分析しようとしていた。きっと西院、出雲は人外的な速度で移動している事は間違いなかった。そもそも空中に浮いている自分にもう驚きもせずに受け入れ他の事を考えているところが普通の人間とは逸脱しているところだろう。流れる景色を見つつも笑い声が聞こえたため視線を西院の方へと向けてみると案の定子供のような表情で微笑んでいた。

「何がそんなにおかしいの?」

「え?私、笑ってた?まいったなー」

口調こそまいったなんて困ったような事を言っているけれど相変わらず子供がおもちゃを買いに行くような希望に満ち溢れている表情を崩す事はなかった。崩すどころか出雲の問いかけが嬉しかったのか二割増しで表情が明るくなってくる。

「いや。確かに君には色々と迷惑をかけてしまって本当に申し訳ないと思ってるよ。だけどさ?こう言うのって楽しくない?」

「こう言うの?」

「そう。こうやって命がけで逃げるなんて滅多にできないことだよ?それに君だって望んでいたことなんじゃないかな?」

唐突に笑いながら西院は何を言っているんだ。命がけで逃げる出来事なんてそう頻繁にあってたまるものか。確かに、日常とは違う刺激的な出来事が起こればいい。と、思ってことは人生の中で数多くあることはあった。が、流石に自分の命を危険にさらしてまでそんなスリルを求めるほど自分の人生に退屈はしていない。流石に出雲も不快に思ってしまったのか軽蔑する視線を送りつつ口を開く。

「人の感情を勝手に決めつけないで。私は西院くんみたいに現実と創造(フィクション)の分別は弁えているつもり。確かに現にこうして私は宙に浮いているしトンデモナイ速度で移動しているかもしれない。これはこれで結構楽しいしドキドキだって止まらないよ?けれど、それはそれ。私は別に命を賭けてまでこんな世界に足を踏み入れたいなんて思っていない。そもそも、なんなの?あのゾンビみたいな人形みたいな感情を失っていた人?あと、小さな子供だと思ってたら急に変な雰囲気になって私たちに殺意を向けてくるし・・・訳が分からない!」

出雲らしからぬ後半からは感情的な言葉を口にしてしまう。いや、今まで感情的に言葉を発しなかった彼女が異常だったに違いない。今がまさに、普通、の人間の反応なのだろう。西院も出雲の気持ちが痛いほど分かっているのか先ほどまでの表情とはうって変わり痛々しくどこか泣いている子供を見ているかのような表情になって・・・はいなかった。相変わらずずっと笑っている。出雲はその表情も気にいらなかった。そのせいかより一層に出雲に人間らしさが戻ってくる。

「ちゃんと話しを聞いてる?何でそんな表情なの!?」

「え?だって、面白いから」

西院は出雲の発した言葉が意外なものだったのかほんのちょっぴり驚いた表情になる。

「面白い?」

「そうだよ。だって、君は口では正しいことを確かに言っているのかもしれない。現実では起こり得ない現象だって見たし今現在だって体験している。それを先ずは受け入れなくちゃ。それにね?どうしてもあらがえない出来事(もの)だってあるんだ。それが何だか分かる?」

笑顔の奥にナニカ深い闇のようなものに触れた気がした。目の前には西院しか居ないのだけれど何故か足の先から頭の先まで寒気が襲ってくる。次に発せられるであろう言葉を聞いてしまうときっと精神が折れてしまう。そう本能的に察した出雲はふと一番大切にしていたであろう情報源でもある視界を思い切り閉じてしまう。ブチブチと目の中の目血管が膨れていくのが分かる。決して視界を閉じることで西院の言葉が聞こえなくなる訳ではない。寧ろ視覚が閉じられたことによって他の感覚機能が鋭く敏感になってしまうだろう。が、そでも出雲は目を閉じてしまう。純粋に今まであれだけの出来事を見てきた出雲であったが西院の瞳の奥に渦巻いている闇に恐怖してしまった。後数秒ほど見つめてしまっていたら彼女の感情は折れてしまい人形(パペット)になっていたに違いない。それぐらい西院の目は笑っていなかった。進行形で純粋に命を救ってくれているのだろうけれどそれでも今の西院の近くには痛くないと思ってしまう。防衛反応か小刻みに出雲の体が震えてきてしまう。それでも、彼女はその震えを誤魔化すように空いている方の手を握り締め手のひらに爪を思い切り立てる。握っている手の内側が暖かく手の先にねっとりと暖かいジェル状の液が広がっていくのが分かる。痛覚で恐怖を誤魔化そうとする彼女を見て西院はほんの少しだけ、眉を寄せてしまう。

「・・・ごめん。情報が欲しいかと思ってちょっとだけ会話・・・飛ばし過ぎたね。とりあえずもう少しで目的地につくからそれまで我慢して」

西院は出雲にそう告げるとより力強く地面を蹴り飛ばし目的地まで速度をあげる。視界を遮断しているせいか耳に入ってくる音は先ほど以上に大きく感じてしまう。街、車、人間、が出す音ではなくただ、夜風が切れ音、西院が蹴っているであろう足音以外は耳に入って来なくなる。未だ視界を閉じている出雲にとってはどこへ向かっているのか見当もついていないだろう。そんな事を思っていると、徐々に聞こえて来ていた音が弱々しくなってくると共に宙に浮いていた感覚もなくなり重力が体を少しずつ地球へと押してくる。そんな事を思っていた瞬間、

「ぐべっ!」

体全体に壁にぶつかったような衝撃が襲ってくる。痛みと共に襲ってくるいつもの香り。どこかで嗅いだ事のある香り、どこかで触ったことがある感触、どこかで聞いたことがある摩擦音。衝撃で受けた痛みを和らげるように鼻を擦りながら恐る恐る瞼をゆっくりと開く、とそこは見たことがある場所であった。いや、いつもの彼女が毎日通っている場所でもあった。

「痛いな・・・てか、廊下?」

出雲、西院が立っている場所。そこはいつも通っている学校の廊下であった。そして、偶然にも便箋に書かれていた場所もこの学校をしていされていたのだ。流石にここまでくれば偶然だと言う単語で片付けるには無理があることぐらい分かってしまう。咳払いをしつつ先ほど見せた弱い部分を払しょくするかのように左手を腰につけ右手の人差し指を西院へと向け最大限の強がりを口にする。

「丁度私も学校に来たかったの!ありがとう!」

「ぷっ」

急に何を言い出すかと思えばまたもや訳のわからないことをいいだしたものだから西院は吹き出し笑ってしまう。出雲も自分の発言に対しての笑いだった事に腹が立ったのか頬を膨らませつつ眉間にしわを寄せ睨みつけてくる。流石に西院も緊張の糸が切れてしまったのか笑いつつも出雲の方へ視線を向ける。

「やっぱり、人間って強いよね。強がれるって本当に最強の武器なのかもしれないね。私たちの世界じゃあ、感情なんて二の次だからこういう風に人間らしさを持っている生命体は貴重だよ!本当に。あー面白い!普通、ありがとう!なんて言う?パニックにもならなければすぐに順応していくし。本当に君は凄いよ」

一体何に感心しているのか分からなかったし本当に褒められているのか馬鹿にされているのかもよく分からなかった。冷静で混乱しているようには見えない彼女だったけれど少しだけ思考回路が焼けてしまっていたのかもしれない。

「それで、学校についたけどどうしてここなの?」

当然のように彼女は順応しようと努力し始める。もしや?なんて西院は思ったけれど今そんな疑問を解決したところでなんの役にも立つはずがない、寧ろ邪魔になるだけであろうと思い出てきた疑問を飲み込み彼女の問いに答える。

「特に理由は無いんだ」

「はぁ?」

「いや!理由は無いけれどそれが強みなんだ」

「理由が無いのが強み?意味が分からないんだけど?」

「言いたい事は分かる。けど、本当に、理由が無い、ってことは唯一無二の力なんだ。魔法使いに対してはね」

命を狙われている人間がする会話ではない気がしつつも出雲は西院との会話をしてしまっていた。普段なら確実と言っていいほどこう言った類の話しは完全に無視をする。けれど今回ばかりは無視(ひてい)することができなかった。なぜなら、偶然か必然か彼女は一度、目の前でへらへらと笑っている西院有希に命を助けられた。きっと彼が居なかったら自分の命は消えてしまっていただろう。だから無意味に言っているような言葉の中にもきっと真実(ほんね)は隠されているはず、だと信じていた。言いたい事は多々あったけれどそれを言ったところで会話が進む訳でもなくジッと目の前に居る西院を睨みつけるように見つめる。

「話しを聞いてくれる体勢に入ってくれたね。でも、長々と説明している時間はないと思うから簡潔に言うね。分かってる!さっきも言ったけれどちゃんと終わったら説明はするから。今はただ一晩逃げ切ることだけを考えて欲しい。きっとこの夜が終われば君は新しい自分に星の導きによって巡り合えるから」

「ちょっと良い?貴方って一応、私の友人の西院有希君だよね?名前が女々しいって言ってしたの名前で呼ばせてくれないあの西院くんだよね?」

言いたい事だけを告げ歩きだそうとしていた目の前の彼へとふと気が緩んでいたのか疑問を口にしてしまう。いつも以上に彼は気さく過ぎる。それに表情だって豊かだ。確かに外見だけ見れば間違いなく本人であるしきっと彼女の問いを学校の友人たちが聞いたらきっと馬鹿にされてしまうことだろう。しかし、出雲は自分の品格を下げるような問いをする訳がない。純粋にナニカ違和感を感じたため口にしてしまった言葉。歩きだそうとしていた足を止め西院は振り向くと頬を優しくあげ笑いかける。

「私は私。どう見ても西院雪だよ」

「そ、そっか。そうだよね。ごめんなさい。急に変なことを言ってしまって」

帰ってくる返答は分かっていたはずなのに何故か西院の表情は悲しげで儚いものだった。深々と下げる出雲の姿に戸惑いを覚えつつ肩に手を添えようと思った瞬間にギロリ、と出雲の鋭い視線が向けられる。

「それとこれとは別で、どうして理由が無いことが強みなの?そろそろ意図的に疑問を無視してるなら怒るよ?」

圧倒的な威圧感に西院自身、数歩ほど後退してしまう。それぐらい出雲の眼力には力があった。

「だ、だから!魔法使いは理由が必要なんだって」

「理由?」

「そう理由。魔法使いってのはね?無差別に命を奪っていいものじゃあないの。それこそ自分の欲求を満たすために魔法を使うのは魔女に落ちるってこと。そんなの聖堂教会が許すはずないもの。理由もなく魔法を使うなんて私たちの世界じゃあ禁止されていること・・・」

深刻そうな表情をしつつぶつぶつと自分の世界へと入っているようだった。出雲は疑問をしたはずなのに余計に疑問が出てきてしまう。西院と言う人間はここまで意思疎通が出来ない人間だっただろうか?なんて思っていると校門の辺りから叫び声のような声が聞こえてくる。咄嗟に西院は出雲の手を引き窓から姿を消すようにしゃがみ込む。

「どうしたの?」

「奴が来たようだね。嗅覚が利くパペットを使ってる」

「パペット?」

「うん。多分、操ってる本人は私たちの事を見失ってる。だから数体のパペットを放ち街全体を探していたんだ。きっと自動で稼働するタイプでそこまで魔力はつぎ込まれていないようだから当の本人にまで情報は伝えれないみたいね。馬鹿ね。数多くのできそこないを放つよりもより精密で少量のパペットを放てばよかったものの」

そう言いつつ西院は顔を少しだけ窓から出し外の様子を窺っているようだった。彼女も真似をするように西院の隣へ行き外を見てみる、とそこには5メートルはあろうかと言う黒い生き物が地面に鼻をつけ匂いを嗅いでいるようだった。吐く息は白く人形と言うよりも野獣と言った方が正しいのかもしれない。

「ちょっと、あれなによ!」

「あれは使い魔だね。魔法の搾りかす。あれぐらいの精密さなら携帯電話の方が優秀だよ」

鼻で笑う様にそう言い捨てると西院は姿勢を少し落とし歩きだす。出雲も立ち止まっている理由もないためそのまま西院の後ろへと歩きだす。目的地は不明のまま歩いているが流石に疲労が蓄積し始める。口調こそ元気そうに聞こえるが一人の女性が体験する出来事にしては情報量が多く肉体的以上に精神的にギリギリのところまで来ていた。それを見せないようにしていたのも彼女なりの意地(つよがり)だったのだろう。西院はそんな事は当然気がついてはいた。が、それでもその事を隠そうとしている出雲に気を使い何も言葉をかけずにいたのだ。きっとそこで優しい言葉をかけてしまい彼女の緊張が折れてしまった時が本当の最後だから。彼女が感じている負荷は相当なものであると分かっているがそれでも生きるためには仕方がないこと。出雲もまた本能的にその事は感じているのだろう。文句一つ言わず出雲の後をついてきているのがその証拠である。息を潜めつつ移動していると破壊音、叫び声が学校中に響き渡る。

「ったく、下品な声だね」

「これって?」

「うん。私たちがここに居るって知られちゃったね」

「知られちゃたねって!?」

「まぁ、でも大丈夫だと思うよ?私が付いているんだし!」

自信たっぷりに胸を叩き笑っているが出雲からしたらここまで頼りない人間がいるのか?と聞きたくなるほど頼りない威勢だった。一階の廊下を走り回っているのか激しい足音が二階の廊下にまで響いてくる。西院、出雲は立ち上がり旧校舎へと走り出す。旧校舎に繋がる道は今現在二人が走っている二階と四階にあり急ぎ向かう。旧校舎は近日取り壊しが予定されておりもちろん立ち入り禁止の看板がでかでかと立てかけられている。迷うことなくその看板の横を通り過ぎ二人は向かう。校舎へ入り一番奥の部屋であろう音楽室へ到着する。立てかけが悪い扉を静かに開けつつ二人で教室へと入る。カビ臭さ、ホコリっぽい不快な空間に嫌でも眉間にしわが寄ってしまう。そして夜と言うこともあり歴代の有名作曲家たちの肖像画が飾られており気持ちの良い安らぎ空間ではまったくなかった。

「やっぱり人がいなくなった場所ってこういう風に自然と劣化していっちゃうんだよね。不思議だと思わない?普通使っていないなら状態を保てて寧ろ劣化なんてする訳が無いだろうに」

「西院くんって馬鹿?放置と保管はまったく別物よ。使わなくなったまま放置するのと愛情を持って保管するのじゃあ全然違う。唯一合っているところと言えば、使わない、って所だけじゃない」

「ははっ。確かに勝手一度も使っていなかった服もちゃんと保管していなかったら使いものにならないものね。確かに君の言う通りだ」

ホコリっぽい部屋で雑談をしているともう一度大きな叫び声が先ほどよりも大きく聞こえてくる。二人の警戒感度が最高潮まで跳ね上がる。西院に笑顔は消え人差し指をたて口へと持って行く。出雲も小さく伝わるように頷き極力音を殺す。先ほどの表情とは違い明らかに西院の表情が強張っているように見える。張りつめた西院の表情に何故か心配になりつい肩へ手が伸びてしまう。

「大丈夫?」

「あ、うん。ありがとう!私の方が君に心配されるなんてね」

西院は微笑み返してくると同時に立ちあがった瞬間、豪快に部屋のドアが何者かに粉々に破壊されてしまう。鈍い足音をたてながらこちらを睨みつけてくる生き物は先ほど学校の校門で歩いていた四足歩行のパペットであった。両腕には殺傷能力が高そうな鋭利な爪、口元には似合わしくない鋭い牙が二本ほどつき出ている。よく見るとその両方に血痕のような赤い雫が地面へと落ちている。服の切れはしだろうか?口元に布のようなものが引かかっていた。

「意外にこの人形賢いかも。搾りかすなんて言っちゃってごめんなさい。けど、私たちだってこんな場所で消えるわけにはいかない!!」

西院が言葉を発した瞬間に鼓動のような大きな振動が音楽室、いや、学校中を震わせ西院の足元には青白く光る魔法陣が浮き出る。さまざまな歴史(もじ)が西院の周りを駆け巡り両腕に光を帯び始める。生き物のように青白い光は西院の両腕へと巻きついていく。

「永遠の道。永遠の光。永遠の歌。」

両腕をその獣へと向ける、と光を帯びた両腕から眩い光の球が獣へと放たれる。と、同時にその衝撃に西院は後方へと吹き飛ばされてしまう。咄嗟に出雲は彼を受け止めようと立ち上がり全身を使い吹き飛ばされる西院の体の方向を窓ガラスではなく壁へと軌道を変える。全身で受け止めたところで一緒になって学校から落ちるだけ、ならばと考え付いたのが軌道を変えるために全力で体当たりをするという選択だった。それが功を奏したのか見事壁へと鈍い音を立て激突するが落下は逃れる事に成功。

「ありがとう。ごほっ」

激突してしまったせいで背中に炎を炙られているような熱さが襲ってくる。しかし、そんな事で蹲っているわけにはいかない。幸い、見事渾身の一撃で発した魔弾は見事相手の顔面に命中したのか雄叫びをあげつつ両足で立ち手をがむしゃらに振りまわしているだけであった。あの状態であれば鼻もすぐには正常に稼働しないだろう。咽つつ床へ蹲っている出雲の両腕を持ちあげる。

「あんな無茶するなんてダメだよ!」

「ごほっ・・・馬鹿。私が体当たりして軌道ずらさなかったらこのまま落ちてお陀仏だったのよ」

「そうだけど。あんまり無理はしたらダメだよ。君は普通の人間なんだから」

「普通ってなによ。今私たちは確実に普通の空間にはいないわよ!普通なんて馬鹿みたい。それに自分で出したアレにふっ飛ばされるってどれだけ足腰弱いのよ!」

出雲が発する言葉に何故か納得してしまい不謹慎だと思いつつも笑ってしまう。出雲も西院に対して言っているのではなくこの理不尽でありえない光景を受け止めきれずに憎まれ口を叩いているだけだろう。本心から言っているのではなく反射的に言葉が出てきていまっていた。

「動ける?」

「ええ・・・」

西院は出雲に肩を貸し魔弾の衝撃で開いてしまった穴から音楽室を後にする。未だ背後からは叫び声、破壊音が聞こえてくる。焦る気持ちを抑えつつ一歩一歩進み距離を取ろうとした瞬間にもう一度大きな叫び声が背後から聞こえてくる。二人して振り向いてみると先ほどよりも凶暴性がましたのか顔面に大火傷を負いながらも執念で目を見開きこちらを見つめてくる獣。

「嘘でしょ!倒したんじゃあないの!?」

「あはは・・・予想外に早い復活でしたね」

まるで人ごとのようにまいったなこりゃ、なんて言いたそうな表情を浮かべる西院。

「どうするの?」

「どうするって言ってもとりあえず死なないためには・・・こうっ!」

左足のつま先を立っている場所へコツン、と一度だけ衝撃を与える。すると水面に水の雫が落ちたかのように優しい音が響くと同時に西院の両足が先ほどと同様に淡い青色の光が薄くまわりに集まった瞬間、二人はいつの間にか最上階でもある四階へと移動していた。瞬間的な事に出雲は未だ状況が理解できていない様だった。理解できたのはその数秒後であった。目の前には破壊されていたはずの音楽室ではなく視聴覚室へと変わっている事にやっと気がつき横へ視線を向けると呼吸が少しだけ乱れている出雲が廊下へと座っていた。

「ちょっと、私たちどうしてここに居るの?」

「ああ。咄嗟の事だったからちゃんと言えなくてごめんね。一応魔法を使って移動したんだ。本当は場所を変えたかったんだけどご丁寧にこの学校全体に魔法陣が書かれててでることが出来なかったからとりあえずアイツと一番距離があるであろう場所まで飛ばして来た」

「飛ばしたって・・・私には一瞬にしか感じれなかったけど」

「そりゃあ、君は普通の人間だし」

「・・・」

無言の抗議を視線に込めて送ってみてもまったく伝わる気配はない。それどころか、夜の学校はやっぱり怖いね、なんてお気楽な声色で話しかけてくるほどだ。

「でも、ちょっとは安心してもいいかも。アイツ今動いている気配はないっぽいから。多分、少しの間は体力を回復させるために動かないんじゃあないかな」

「と言うことは私たちもちょっとは休憩できるってこと?」

小さくため息を吐く出雲に西院は顔を左右に振りながら微笑む。

「多分これが最初で最後のチャンスだよ。今からやつの息の根を止めに行くんだ」

そう言う西院の表情はどこかで見覚えのある冷たく冷徹な頬笑みだった。

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