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改編  作者: masaya
一章 識別血族
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崩壊と破壊と非生命Ⅵ

「リュプッスの夜会?」

いつかの記憶。目の前の殺人者に彼女はつい疑問を投げかけてしまう。殆どの人間ならば悲鳴をあげこの場からすぐに逃げてしまうのが普通だろう。しかし、彼女の普通は周りで生活をしている人間とは少しだけズレている。自分の命よりも彼女は疑問をとってしまう。命よりも、知らない、と言うことの方が死よりも怖いのだ。いや、彼女の言葉を借りるなら、無知は死んでいることと同様であり知ってこそ生命は維持できる。つまり、知らないことがあればそれは死んでいることと同じであり知識があればなんら対処ができる、ということらしい。この様なズレた思考を持つようになったのは昔の集団自決の目撃者になってしまったから。中学生の頃まで彼女は普通のどこにでも居る普通の思想を持った女の子であった。が、初夏に数人の友人たちと肝試しなるものをしてしまった。どこにでもある青春のイベントであり誰もが体験する行事と言ってもいいだろう。ある友人は頑なに指定した肝試しの場所へと行かなかった。不思議に思いつつも深く考えることなくその友人を置いていき後の数人のメンバーで決行される。運が悪い事にそのビルに足を踏み入れた人間は自殺をしてしまう、夜道何者かに残虐に切り刻まれ殺されてしまう。と、言った色々と不気味な噂が絶えず出てくる場所であった。企画をした友人は知っていたらしいのだけれど彼女を含め後の人達はそんな事を知らされることなくその場所へと乗りこんでいった。どこか禍々しい廃ビルであり除霊もしていないただの中学生がそんな怪奇な現象に襲われてしまうのは時間の問題であった。

「あはっ!」

鼻につくような笑いが耳に入ってきたため思考を一度とめ視界をもう一度目の前に立っている少年へと向ける。未だ、満面の笑みを作りながらこちらをずっと見つめて来ていた。まるで、商品を品定めしているかのように頭の先からつま先まで舐めるような視線で上下に眼球が動いている。妙な視線に数歩ほど後ずさりをしてしまう。少年は夜空へとあげていた両腕を組み品定めが終わったのか数回頷く。

「今、君は過去を思い出していたようだね?だけど、それは君の本当の過去じゃあない。それはただの幻想」

「何を言っているの?」

自分よりも幼いであろう少年にここまで怒りを込めた言葉を向けたのは始めてであった。が、それでも何故か無性に胸の奥に湧き上がるストレスが彼女の思考、情緒を不安定にさせていく。ゆらゆらと水面が風で揺らされているような不安定な視界になってしまう上手く少年の姿をとらえることが出来ない。何度も目を擦り視点を合わせようとするけれどまったく合わない。彼女の仕草にまた機嫌を良くしたのか声色がより一層明るくなる。

「君は本当に面白いよ。流石第7の世界へたどり着いた生物だ」

「第七?」

すると出雲の疑問を聞いたところで自分の意見を言っていた少年であったが何やら言葉を聞いた瞬間に眉間にしわを寄せ顎に手をあてなにか考えているようであった。時間にして数秒だろうか?頬をあげ微笑みかけてくる、と

「そうだね。じゃあ、これだけはちゃんと教えておいてあげる。魔法には6種類の六芒星の力によって形成されるんだ。殆どの魔法使いが使えるのが秩序を司る第4の乙女座ゲルニマの導きによる力。けれど、君はそのどこの星にも属さない。いや、追放されたはずの第七の星の導きを得たんだ。それが魔法の終着点でもある生命の蘇生。最終地点へと足を踏み入れたのは長い魔法の歴史で君を入れてたったの二人だけなんだ。リュプッス・ファリ・クリスマス。魔法の祖とも言われている人物さ。彼女はその力を手に入れることによってある生命の救済をしようとしたのさ」

「救済?」

「生命の帰還そして蘇生」

胸の奥が大きく波打つ。先ほどまで霞んでいるようにはっきりと合わなかった焦点が少年へと合う。笑顔は消え目の色が赤色へと変化し薄気味悪くどこか視線が合っていないような虚ろな目へと変わっていた。何者かに乗り移られているのだろうか?ゆらゆらと体を左右に揺らしながら右左上下へと視線を飛ばしている。

「生命の帰還。つまりは厳選でもある。力あるものは生き残り繁栄して行き力なきものは淘汰されて行く。自然の原理を神として彼女は執行しようとした。が、一人の神が世界を変えることなんて出来やしなかった。一人の男性を愛してしまったのさ。神は全てが平等でなければならない。誰に対しても平等であり冷徹でなければならない。多くの感情を抱いてはいけない。必要か不必要かだけを厳選すれば良いだけの存在。感情をもって生きてしまったリュプッスは神ではなく魔女へと堕ちてしまったんだ。けれどね?僕の中では未だ彼女は神なんだ。そうだろう?だって、亡き命を蘇生させることができるんだよ?それって神様しか出来ないよね?でも、リュプッスは自分自身、最愛の人の蘇生までは出来なかったんだ。自身の魔法が彼女と彼の蘇生を拒んだんだよ。理由は分からない。けれど、それでも彼女はその最愛の人を生きかえらせるために自分自身の魔法さえも覆したんだ。転生と言う蘇生術を使って永遠と(いし)を繋いでいったんだ」

薄気味悪く笑いだす少年の姿に出雲は自然と生唾を飲み一語一句聞き隙を作らず見つめるだけで精一杯だった。きっと少年から受ける重圧に先ほど襲われた人間(にんぎょう)の事なんてきっと彼女の頭の中にはもう消え去ってしまっているだろう。それぐらい目の前の少年は危険すぎる。虚ろな視線を向ける少年は言葉を続ける。

「けれどね?君はリュプッスの生まれ変わりじゃあない。リュプッスの転生には周期があってまだ星の導きでは時期が違うんだ。けれど、存在した。リュプッスと同じ星の導きを得た者。蘇生を司る第七の氷蠍座インドラ。君こそ本当の神の器に成り得る存在。君は人間として生きてきたかもしれない。けれど、それもすべて演技。本当の君は人間に、いや・・・生命に何ら興味はないんだ」

「私の何を知っているって言うの!?」

つい、声を荒げてしまう。何故なら多少、少年が言っている言葉に心を動かされそうになった自分が居たからである。叫びともとれる言葉を聞くなり少年はゆったりと手を差し出してくる。

「君が居る世界はこちら側じゃあない。真理を知りたいんだろう?だったらこちら側に足を踏み入れるしかないんだよ。僕が連れて行ってあげる・・・神の領域まで・・・だから、僕と一緒に・・・」

そう言いかけた瞬間、青白い発行体が少年、出雲の間に落ちる、と同時に少年はいつの間にか数十メートルほど離れた場所へと移動していた。魔法使いでもなんでもない彼女はただ、ただ驚きその場に立ち止まっているだけであった。辺りを見渡しても少し離れた場所で高笑いしている少年以外は誰もいない。地面を見てみると原形を留めることなく高温で溶かさ小さなクレーターが出来ていた。コンクリートが溶け異臭が彼女を襲い本能的に彼女もその場所から少しだけ離れる。

「凄いや!やっぱり君は素晴らしいよ!目の前で起こった爆発を気にすることなく辺りを見渡すなんて・・・本当に君はズレてて凄くいいよ!やっぱり君が神の器になるべきだ。リュプッスの夜会はもうすぐそこにあるんだね。楽しみだ。生命の帰還。やっと世界は一つになれるんだね。救済を生命の帰還を与えたまえ」

そう言うと少年は片腕をあげ月へとつきあげる。月光に照らされる少年は神々しく見蕩れてしまいそうになるほど美しかった。そして少年が立っている場所へもう一度青白い光がどこからともなく生成され殺意が向けられる。鈍いコンクリートが破壊される音と共に噴煙が巻き上がる。両腕でなんとか噴煙を振り払う、とそこには青白い瞳をした西院有希の姿があった。

「どう言うつもりだい?」

少年が口を開く。出雲に投げかけている言葉ではなくきっとその横に立っている西院に言っているのだろう。西院もまた自分に投げかけられている問いだと言うことが分かっていたのか口を開く。

「お前たちがしようとしている事を容認する訳にはいかない。こちらで保護する」

西院が口にした言葉を聞いた瞬間、少年は吹き出し笑い始める。それこそ上品に笑うのではなく相手を馬鹿にした聞いているだけで不快になる笑い方。それでも西院は表情一つ変えず少年を見つめている。

「君の口から保護するなんて言葉が出てくるなんて思ってもみなかったよ!あはっ!一度、彼女の血で染めた手で保護するだって?なにを言っているのか分からないよ?馬鹿なの?」

「別に分かってもらおうなんて思ってもいない。私はただ、自分の感情のままに動くだけ」

「はぁ?なに言ってんだよ?一人占めするつもりなんだろ・・・セコイぞ・・・」

少年の穏やかな雰囲気が夜風と共に流されて行く。ふつふつとわき上がってきているあの禍々しい雰囲気は一体何なのだろうか?そんな事を思っていると西院が耳元まで顔を近づけてくる。ドクン、と恐怖とは違う鼓動が大きく一度跳ねる。

「私が力をあげちゃったせいでこんな風になってごめんね。だけど、任せてちゃんと守るからね」

「え?」

そう言うと女性らしいウィンクをすると少年の方へと視線を向ける。先ほどまでの虚ろな目とは違いより暗く生き物全てを拒絶するような視線。先ほど出雲に向けられていた視線とは正反対で全てを拒絶するかのような孤独な色をしている。

「ダメ。それは僕のモノだ。やっとリュプッスの器を見つけたんだ。僕のモノ。ダメだよ?神の器は僕のもだ!!!!!」

雄叫びのような奇声をあげる、と同時に両膝を曲げ地面へと踏み込み数センチほど両足が地面へとめり込む。と、同時にこちらに飛びかかってくる。

「行くよ!」

西院の声が耳へと入り込んでいた時にはもうすでに手を引かれる形で走り出していた。景色が霞んで見えるほどのスピードで走っているのにもかかわらず足は疲れていない。視線を足へと向けると彼女は浮いていた。

「わ、私、飛んでる!?」

余りの驚きに興奮気味の声を出してしまう、と西院はからかう様に笑い

「なんか驚くところがどこか!?って感じだね。やっぱり君は面白いよ。私の力をあげて正解だった!ごめんね。ちょっとだけ人気の少ない所に行くね。じゃないと、後ろから追ってきている彼が何をしでかすか分からないからね」

後ろを振り向いてみると暗闇の中に二つの紅い小さな光が見えるだけ。きっとあの位置からして少年の瞳の色だろう。

「一体、あなた達は何者なの!?」

出雲はそう言うと西院は苦笑いをしながら

「まあ、普通に考えてそこから説明しなきゃいけないだろうね。けど、この逃走から逃げ切った後にちゃんとお話しをするからちょっとだけ、ほんのちょっとだけ非現実に付き合ってね?」

そう言う西院の表情はどこか楽しげでこれから起こるナニカを楽ししみにしているようだった。

更新が遅くなり本当にすみません。

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