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改編  作者: masaya
一章 識別血族
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崩壊と破壊と非生命Ⅲ

静寂が濃くなり始める夕方の街。濃くなり始めると言っても今現在はそんな気配は一向に感じられない。寧ろ昼間よりも人がにぎわい騒がしくなっているぐらいだ。仕事帰りに夜ご飯の買い物をしている女性、何やら数人の仲良しグループでカラオケボックスへ入って行く若者、くたくたなスーツを着てどこか疲れきっている男性。夕方の街並には色々な命が蠢いている。禍々しい光景であったがなぜか恍惚として魅入ってしまう。いつもの彼女ならばそんな事を思うなんてことは無かった。視界に映る世界は当たり前の光景でありそれが普通だと思っていただろう。どんな心境の変化か見るものすべてが真新しい情報に見えてきてしまう。まるで始めて街に出かけている子供のように浮かれ左右に視線を向けつつ歩いていた。財布に余裕が出来てきたら買おうとウィンドショッピングもしつつなんの目的もなく歩いている。と、何やらどなり声のような熱のこもった声が遠くの辺りから聞こえてくる。これだけざわついている街なのにもかかわらず声が聞こえてくると言うことは相当に声を発している相手は何かしら気にいらないことでも会ったのだろう。どんな人間がそのような声を出しているのか気になったふらっと野次馬根性が働いてしまい声がする方へと足を向ける。出雲と同じようなことを考えていた輩は多々いたようで声が近づいてくるにつれて人も多くなってきていた。声がする場所へ着いたのだけれど人が思いのほか多く現場が良く見えなかった。見えるのは多くの後頭部であり目的のものは見えずにいた。彼女は咄嗟に近くに居た女子高生に声をかけ何が起こっているのか聞いてみる、と

「女の子が一人で劇の練習してるらしいですよ」

「げ、劇の練習?」

意外にも普通の返答であった。別に殺人事件や事故など重大な事件は求めてはいなかった。が、それでも男女の喧嘩ぐらいは見れるものだと思っていた。勝手に想像し勝手に期待した自分が悪いに決まっているのだけれどなんとなくこの肩透かしを食らった感があり唇を尖らせてしまう。彼女と同じように非現実(きたい)を持って来た野次馬たちは次々ともとの自分の現実(せいかつ)へと戻って行く。彼女もすれ違う人々と同じようにすぐさま自分が持っている現実へと戻ればよかったのだけれど、なんとなくどんな人物が一時期でも他人の注目を集めさせたのか気になり足を前へと進める。と、一人の少女が出雲を見つめていた。白いワンピースに黒い髪の毛。

「私・・・この子知ってる・・・え?」

自分で言った言葉に驚き口元に手を持って行く。無意識に彼女の事をどこかで見たことがあると思い不意に出てきた言葉だった。が、これだけ整ったまるで人形のような少女を一目でも見たなら必ず記憶に刻まれるだろう。しかし、いくら思い出そうとしてもまったく思いだせずにいた。少女は瞬き一つせず一直線に出雲を見つめてくる。少女の瞳はこの世の中の不吉を現しているかのような漆黒色をしており目が合っているだけで体の自由が奪われてしまったかのような錯覚に陥る。

「なんなのあのこ・・・」

少女との距離は30メートル以上も離れているのにどうしてか胸倉に鋭利な刃物を突き付けられているような緊張も襲ってくる。しかし、これだけの距離が離れていれば危害を加えられることは先ず無いだろう。彼女が色々と思考を巡らせているとある異変に気がつく。彼女が知っている現実ではありえない現象。しかし、軽度の緊張に陥っていた彼女にその異変を気付くのには思いのほか時間がかかってしまった。

「・・・音がない?・・・どうして!?」

無音。日常生活で必ずと言っていいほど身近にあるもののひとつである音。それが彼女の取り巻く空間には無くなっていたのだ。この辺りは商店街もあり車通りも多い。無音になることなんてまずあり得ない場所である。それなのにどうしてか音が無くなってしまっていた。

「な、なんで・・・でも、声は聞こえているよね」

動揺しつつも冷静に状況分析に努める。こればかりは彼女の特技(せいかく)なのだろう。パニックになっていたかと思えばすぐさま状況分析をし始める。ぶつぶつと少女を見つつ周りを見渡してみるけれどさほど変わった様子は見当たらなかった。すると、先ほどから無表情であった少女の口元が少しだけ微笑みへと変わり、

「凄いね。死んだのにどうして生きかえってるの?」

口調こそ柔らかいが言葉の中には殺意が込められているような重圧を感じる。

「・・・どう言うこと?・・・はぁ・・・」

出雲の言葉を聞いた瞬間に少女はいかにも年相応な驚いた表情を向けてくる。

「へー。記憶もないんだ。これが転生ってやつなのかな?それとも蘇生?んーよく分からないけど、あなたは最後まで行き着いたんでしょ?ふふっ。ホント面白いわ。本当は時間のズレを直そうと思って貴方に会いに来たけどもう少し様子を見ようかしら。胆も据わってるようだし」

「はぁ・・・」

出雲はきっと自分の周りに音が無くなり非現実の中に居る事をもう忘れてしまっているだろう。彼女の強みはその場にすぐに適応してしまうと言うこと。野生動物並みの適応力である。人間が唐突に無音の世界へと連れていかれてしまったらきっと出雲のように落ち着くどころか呆れつつ得体のしれない少女と言葉を交わすことなんてできないだろう。目の前の少女は出雲の命を再度狙おうとして接触して来たんだろう。が、出雲のペースになってしまっている。こうなれば出雲の一人勝ち。少女は控えめに手を顎へと向け視線を彼女から地面へと向ける。

「ねえ、少しだけお話しいい?」

突然の申し出に目の前の少女は驚きを隠せずつい目を見開き出雲を見てしまう。彼女も殺意を向けられているであろう人物に話しをしようなんて提案をするところがまたどこか普通の人間とはズレテいる。しかし、そのお陰か無防備な出雲に少女は毒気を抜かれてしまったのか、つい、出雲の申し出に控えめに頷いてしまう。その仕草を見るなり出雲は頬笑みを向ける。

「よっし。じゃあ、貴方のお名前は?」

「・・・」

「あっ!名前を聞く前に自分の自己紹介をしなきゃだよね!私は、出雲彩乃。高校生二年生だよ。よろしくね」

どこからそんな風に笑顔が作れるのだろうか?殺そうとしている人いよろしくなんて挨拶が出来るだろうか?彼女の適応力は少女にとって恐怖だった。微笑みながらこちらへやってくる出雲を見るだけで何故か緊張してしまい背筋が自然と伸びてしまう。近くまでくると出雲はもう一度微笑み少女の横へと座ってくる。出雲が起こした行動は少女にとって始めての事でありどう対処したらいいのか分からなかった。命を狙ったものは確実に殺して来た。実際に今回だって彼女を殺すつもりで待っていた。必殺。少女はこれを一つの支え(プライド)として胸に刻み込んできた。が、そのプライドも彼女の前ではなんの役にも立たなかった。

「それで、えっと・・・お名前は?」

「・・・」

「言いにくい?」

「・・・」

「・・・そっか!えっとね・・・じゃあ、質問なんだけど、死んだのに生きかえったってどう言うことかな?知っておけばなにかしら協力とか出来ると思うんだよね?」

出雲が口走っている言葉はどう言う意味で言っているのかさっぱり理解できない。単なる善意で言っているのか?または計算をして言っているのか。きっと出雲の場合は前者なのだろうけれど、少女はその善意のようなものに触れたことがないためよく分からず口を紡いだままだった。

「私がどうしてそう言うことを言うのか分からないでいるんだね?ふふっ。なんかね?私って困ってる人を見ると助けたくなっちゃうらしいの。それに、流石にここまでくればなんとなくだけど普通の人じゃあないんでしょ?」

「・・・どうして?」

頷いたもののそのまま黙っていよと思っていた少女も何故か彼女の言葉に反応してしまう。少女が返答をしてくれた事が嬉しかったのか出雲は口元を緩ませ、

「ちょっと前に気がついたんだけど周りに人が居ないんだもん。これって貴方がした事なんでしょ?普通じゃあこんな事できないよね?・・・ふふふ」

まるで出雲はこの状況を楽しむかのように微笑み少女を見つめる。少女も何故か彼女の言葉につられるように口を開く。

「別に私は貴方が死のうが生きようが興味はないの。でも、魔法協会からすれば貴方は蘇生の根源へとたどり着いた唯一の存在。本当は魔法協会の事を無視して貴方を殺すつもりだった・・・のに」

「のに?・・・えっ!?」

少女は空を仰ぎ左手を空へとかざした瞬間、そこは先ほどと変わらない景色へと戻っていた。隣に座っていたはずの少女は消えてしまい一人道の真ん中で座り耳に入ってくるのはいつもと変わらない雑音。周りを見渡しても感じるのは不快な視線ばかり。咳払いをしつつ立ち上がり彼女は帰路に就く。少女は一体何者だったのだろう?その疑問ばかり頭の中に出てくる。商店街付近は人が多くさまざまな音を奏でていたが彼女の家に近づくにつれて人が奏でる雑音は聞こえなくなってくる。バスで通学する生徒もいるが、彼女はどの部活にも所属して居らず、歩き学校に通っている。彼女曰く、部活もしていない生徒がバスを使って通学するなんて甘すぎる、と言うよく分からない彼女なりのルールを決めているため毎日歩いてい登下校している。流石に、帰り時間が遅くなった場合はバスを使っているが殆どの場合、彼女は徒歩を好んでいる。

「それにしても、あの女の子は私の命を狙っていたんだよね?でも、どうしてなんだろう?」

日常生活ではありえないような単語を吐きつつ空を仰いでみると1つ、2つと星が光りはじめる。星を見た瞬間に大きな鼓動が1度だけ彼女の体を襲う。

「おっ・・・こほっ」

ついせき込んでしまい視線を空から地面へと移る、と同時にその瞬間を狙っていたかのようにポケットに入れていた携帯電話が震える。

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