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改編  作者: masaya
一章 識別血族
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蒼月血漿Ⅲ

鼻歌を陽気に歌う西院の後ろ姿はまるで女性のように見えてしまい、優しくふわりと柔らかい雰囲気に出雲の表情は険しくなる一方である。友人が始めて家にやって来て嬉しい。と、浮足立ち初々しささえ感じてしまう。確かに、西院は学校でそこまで友人が多い方ではない。が、それでも何人かの親しそうな同性の友人は居る事も知っている。きっと、彼らは西院家に来たことだってあるだろう。しかし、目の前で嬉しげにあともう少ししたらスキップさえ始めてしまいそうな彼から伝わってくる思いは、始めての来客に嬉しさを隠せない。どのようなおもてなしをしようか。と、言う感情だけである。それに、ここまで喜ぶほど来客が嬉しいものなのだろうか。そのような出雲の不安が伝わったのか西院は振り向き出雲の表情を窺う様に顔を見つめてくる。

「大丈夫?別に君をとって食べちゃおうなんて思っていないよ。久々に逢えたから嬉しいだけだよ」

「久々?」

なんでもないよ。なんて屈託のない笑顔を向けると出雲はその表情を見るなり何も言葉を発することが出来なかった。ただ、純粋に彼の笑顔に見蕩れてしまい昔の自分を思いだしてしまう。この世の中であれだけ純粋無垢な笑顔を作れる人なんて今まで見たことが無い。幼い感情。痛みを知らない笑顔。遠い昔に置いてきた感覚。純粋に人のことを信じれていた頃にあんな笑顔を作っていたな。なんて感傷につい浸ってしまう。出雲は過去を振り返ることは弱さだと決めつけ殆ど切り捨ててきた。過去を振り返って得るものは殆どない。ただ、現状に満足していない弱い人間が頼る邪魔な物。と、思い生きてきた。偉そうにそう思っていた癖に実際はこうやって昔の事を思い出してしまうなんてまだ、自分の心は弱いな。と、自虐的な笑みをこぼしてしまう。

「ねえ。西院くんはこの家に一人で住んでいるの?あと、妙に嬉しそうだけど人ってあんまり家に来ないの?」

自分でも何故この様な発言をしたのかよく分からず、口元へ手を持って行ってしまう。つい、あまりにも嬉しそうな姿を見てしまったため自然と出てきてしまったのだろう。しかし、それは問われた側からしたら心地よい質問だったのだろうか?もしも、自分が同じような立場だった場合、きっといい気持にはならないだろう。出雲からの問いに何か面白い話でも聞いたかのように笑いだす。視線こそ振り向きこちらを見てくることはなかったが、不快になっている様子はない。西院の笑いが収まったと思えば、視線を夜空へと向ける。

「確かに来客なんて久々だけど、それだけでこんなに喜ぶはずはないよ。さっきも言ったけど、ただ、私はキミと逢えたからこんなに気分が高揚しているんだ。あと、一人暮らしではないよ。今は五人ぐらい住んでるかな?」

両手を広げ一回転する姿はどこから見ても一人の女性としか思えなかった。西院なんだけど西院ではない。それだけは出雲にも分かってしまう。それでも、出雲はその事を口にする事はなかった。ただ、その優雅に舞い月光に照らされる西院に見蕩れてしまっていた。まるで、先ほど聞いた童話に登場する健気な少女にも見えなくはなかった。徐々に近づいてくる西院家は美術館と言ってもいいほどの大きさでありこの館にたった五人だけで住んでいるなんてどこか寂しさを感じてしまう。すると、今まで気にせずにいようと思っていた視線がより強く感じ始める。恐る恐る視線を向けてみると黒松欅がこちらを妬ましくゴミでも見ているかのような禍々しい視線を送って来ている。明らかに敵意まる出しの視線は流石に出雲も彼女に向ける視線が多少強くなってしまう。が、それでも彼女が向ける視線には叶う訳もなく、視線をこちらから逸らしてしまう。しばらく歩き欅が立っている扉へと向かうと前を歩いていた西院の雰囲気が先ほどの柔らかく明るいものから刺々しものへと変わる。もちろん、その視線の先には黒松欅が立っていた。

「欅さん。どうして、来客者の彼女を一人で歩かせたの?」

自分との会話をしている時よりも刺々しく怒っているようにも感じる。その言葉、雰囲気に自然と息を飲み制止させることが出来ずただ、ただ彼の後ろで立ち止まっていることしか出来なかった。欅も西院の唐突な言葉に驚いたのか目を見開き固まったままであった。主は解答を求めている。なにか言葉(いいわけ)を言わなければ。そう思ってしまうほど言葉が上手く出てこなく口を動かすことしか出来ずにいた。が、欅をかばう様に後ろから檜が駆け足でやってくるなり深々と頭を下げてくる。

「西院様。すみません。姉は私の体調が悪いと知り医務室まで急いで運んでくれたんです。本当は出雲様をお迎えしようとしたのですが、私がわがままを言って先に運んでもらったんです。御客様である出雲様よりも自分の事を優先してしまい誠にすみませんでした」

檜が頭を下げると欅も、出雲様。誠に申し訳ございませんでした。と、深々と頭を下げてくる。そこまでされる覚えもなければ怒ってもいない。そこまで反省されてしまうとこちらが気を使ってしまいそうになるため近づき頭をあげるように言葉をかけようとした瞬間に西院の手が彼女たちを遮るように出雲の前へと出される。月光に照らされる西院の横顔は鬼気迫るものがありつい、息を飲んでしまう。

「そうなんだ。理由も知らずに刺々しい言葉を向けてしまったんだね。欅ごめんね。けれど、今度からはちゃんと彼女が来た時には案内してあげてよね?や・く・そ・く・だよ?」

頭を下げたまま欅、檜は返事を返す。出雲はどうしていいのか分からず戸惑いつつ立っていると西院が振り向いてくるなり、この敷地内の落ち度は自分にも責任があるため許して欲しいと彼もまた深々と頭を下げてくる。一日にここまで人に頭を深々と頭を下げられ謝罪をされたことなんて始めてだったため出雲はすぐに西院の肩を持ち体を置きあがらせる。後ろで頭を下げている二人にも声をかけなんとか頭をあげさせる。

「やっぱり、キミは優しいね。私はちょっと部屋に用があるから先に部屋に行ってて。檜よろしくね。あと、欅はちょっと私と一緒に来てもらえるかな?」

そう言うと檜が開けた扉へ欅と共に先に入っていく。その後についていくように出雲は西院家へと足を踏み入れる。ただ、ほんの少し敷地内を歩いただけなのに心労がとてつもない勢いで襲ってくるような感覚を覚えてしまいため息をついてしまう。館へと足を踏み入れた瞬間、目に入ってきたのは大きな額に収まった油絵であった。いや、油絵と言うには一瞬躊躇してしまうほどの美しさであり、生きた人間をそのまま紙の中に入れてしまったのではないか?と問いたくなるほど、生々しく、美々しいものであった。その絵に見蕩れて閉まっている出雲の耳元で声が聞こえる。振り向くと檜が安堵した表情を浮かべランプを片手に持ち立っていた。

「最初にこの館へ来られた方はこの肖像画に魅了されてしまうんです」

「そ、そうなの?でも、確かにこれってずっと見ていると心が奪われてしまいそうなほど美しくて怖いね。これって誰なの?有名な人なのかな?私ってこう言う芸術には疎くて」

不思議と美しさの中にも恐怖を感じてしまう。と、共に自然と疑問も出てきてしまい檜に質問をしてしまう。

「えっと・・・」

「ん?」

振り向くと一瞬だけ躊躇した表情を作ったかと思えばすぐさま口元を綻ばせ、

「昔、この館に住んでいた方だと言うことは分かっているのですが、一体何者かと言うのは分かっていないんです。一説には中世ヨーロッパで魔女狩りにあってしまった一人の貴族だとも言われております」

さて、部屋へとご案内します。と、絵から興味を逸らすように部屋へと歩き出すため出雲も絵に対して名残惜しさを覚えつつ檜の後をついていく。廊下は外よりもどこか肌寒さを感じ転々とランプが廊下の左右に点々とかけられている。この時代に電気ではなくランプの明かりを使っている所が館の主のこだわりが感じられる。

「檜さんは幼いころからずっと居るんですか?」

来たこともない場所でずっと沈黙は耐えがたかったのか出雲は気を誤魔化すように檜に話しかけてしまう。

「はい。私は幼少期から西院様のお世話をさせて頂いております」

「そうなんだ。と言うことは幼馴染的な?」

「私が西院様と幼馴染なんて・・・私たちは西院様と同じ立場ではないので」

「・・・?」

先ほどから話しかけてみても外で会話をした時よりも人間らしさが無くなり操り人形のような感情が無いモノのような気がしてならなかった。色々と質問をしてみるが、相変わらず返答は最初から用意されていたかのような模範解答(ことば)ばかりでつい、出雲も言葉をかけることを止めてしまう。しばらくランプの薄明かりに照らされる廊下を歩き檜が扉の前へと立ち止まり、

「紅茶をお持ちしますのでお先にお部屋に入りお待ちくださいませ」

そう言い頭を下げ横切る瞬間に、すみません。と言う言葉を残し歩きどこかへ行ってしまう。出雲も檜の言葉を聞いた瞬間に檜と外で歩いていた時の会話を思いだす。しまったな。と、自分が先ほど廊下でしていた事を思いだし苦笑いを浮かべ反省をしつつ扉を開け部屋へと入る。流石に部屋には電気が通っており人工的な明かりが目に入りほんの少し堅くなった表情も柔らかくなる。案内された部屋は客間だろうか?妙に高級そうなソファーがテーブルをはさむ形でどっしりと腰を据えている。カチカチと大きな掛け時計が時間を刻んでいる。見るからに年代物で値も相当なものなのだろう。ソファーの気迫にほんの少したじろいでしまいそうになるが、実際に意思なんてあるわけもなく扉から近いソファーに座ると同時にため息が出てしまう。背もたれにもたれ窓から見える月を見つめてみると相変わらず青白く虚ろな光りを発している。しばらくするとノック音が聞こえたため返答をすると控えめに扉が開く。

「お待たせしてすみません。紅茶をお持ちしました」

そう言うとティ―ワゴンを押し檜が入室してくると手際良く紅茶を高そうなカップに入れ机の上に置いてくる。この間に一度もカップから音を立てることはなく流石、西院家に使えるメイドと言うところだと感心してしまう。

「温かいうちにお飲み下さい。あと、スコーンも置いておくのでよろしければお口直しにどうぞお召し上がりください」

「あ、ありが・・・」

感謝の言葉を向ける前に無表情の彼女は扉の前へとあるき立ち止まる。先ほどよりもより一層冷たい扱いだな。と、思うが仕方がないことだろうと思い目の前にあったカップに口をつけようとした瞬間に、扉が開く音がしたため振り向くと西院が笑顔でこちらへと向かい歩いてくる。出雲と向き合う様に目の前のソファーに座る。

「遅くなってごめん。じゃあ、早速だけど本題へ入った方がいいよね?」

そう言うと西院は扉に立っていた彼女にお礼を言い退室するように伝えると、彼女は静かに部屋を出ていく。二人きりになった部屋には妙な沈黙が流れる。と、その沈黙を破るかのように出雲よりも西院が先に口を開く。

「連続殺傷事件の事でしょ?」

今さら西院の言葉に驚くこともない。寧ろ、話しの展開が早くて助かる。

「・・・ええ。これってやっぱり、魔法使いが関係しているの?」

疑問形で言うところがキミらしいね。なんて笑いながらカップに口をつける。

「隠しても仕方がないから言うけど、当然これは魔法に関係しているよ。けれど、魔法使いは間接的に関わっているだけであって動いているのはその下っ端の魔使いだよ」

「魔使い?」

「魔使いと言うのは魔法の知識をほんの少しだけ得た人間のこと。よく、テレビとかで超能力とか言うでしょ。アレの類。魔法のようで異なるもの。所詮真似ごとだよ。そのちょっぴり能力を得た人間が自分は神だとか勘違いしているんだよ」

呆れたようにカップを持ちながら背もたれへもたれかかり紅茶をすすり鼻で笑う。

「でもね?そう言った勘違いした奴が私たちが所有する場所で好き勝手に暴れられるのは穏やかじゃあないんだよね」

鼻で笑いつつも西院の表情はどこか快く思っていないのか口調とは裏腹に表情は硬くなる一方である。重い空気が部屋を覆い沈黙が流れ、その数秒後に出雲のポケットから携帯の震動音が聞こえてくる。西院は、どうぞ。と、手を差し出してきたため出雲は液晶に目をやると木次瑞穂からの着信であった。

「もしもし?」

「ねぇ・・・どうしよう・・・変な人が私の後ろを付けて来てるんだけど・・・怖いよ」

何故か、嫌な予感しか頭の中に出てこなかった。それでも自分が焦ってしまえば余計に彼女を不安にさせてしまうと思い、冷静に、冷静にと言い聞かせ言葉を選びながら話しを続ける。

「大丈夫。落ち着いて。まずはどこでもいいから近くにある家にかけ込んで。いい?緊急事態なんだから大丈夫」

「そんなこと出来ないよ・・・なんか早足になってるっぽいし・・・」

「いいから!!早くどこでもいいから!!」

「・・・きゃっ!!!」

叫び声と共に電話が切れる。切れており瑞穂には声が伝わらないと分かっていても何度も名前を叫んでしまう。出雲の取り乱す姿に西院は驚き見ているだけだった。

「くそっ!!!」

自分の不甲斐なさを蹴散らすように叫び、出雲は部屋を飛び出す。

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