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改編  作者: masaya
一章 識別血族
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蒼月血漿Ⅱ

小さな(チクタク)、白い(チクタク)、急げ周れ(チクタク)。懐中時計の秒針が歩く足取りを急がせるような変則的なリズムが耳へと刻み込まれ始める。変則的で不快な音を避けるように耳を両手で押さえてみるけれど脳に直接送り込まれているようで物理的な方法ではどうしようもできないようだ。グルグルと視界が揺らぎ始め先ほどまで合っていた視点さえ定まらなくなり自分が真っ直ぐ西院館へ向かっているのか分からない。チクタク、チクタク、チクタク。ただの針音なのにもかかわらず意思があるように感じる。久々の来客(にんげん)だ。これは珍しい。是非、私たちの奏でる演奏会へご招待しよう。永遠を刻む時間(りょこう)へのチケットを渡しましょう。さあ、私たちの奏でる音楽で舞踏会を開きましょう。パンやワインだってあります。綺麗な青と白色のドレスを着て真っ赤で大きなリボンを差し上げましょう。様々な角度から針音と共に意思(ことば)が投げかけられる。子供の笑い声も聞こえてくる。確か、つい先ほどまで子供どころか言葉を発するような生き物なんて居なかったように感じる。が、確かに出雲へと向けられる言葉がある。深く、深く突き刺さる言葉に出雲はつい、頷きかけてしまいそうになる。頷く瞬間を今か、今かと針音たちは楽しそうに待っている。頷きかけようとした瞬間に聞き覚えのある声が聞こえてくる。微かに消えかかりそうなか細い声なのにどこか力強くも感じ声が聞こえる方へと歩きだす。しかし、針音たちは久々の来客をすぐに帰すわけにはいかない。出演者(じぶんたち)だけの演奏会なんて飽き飽きしていたところ。折角、来てくれた観客(にんげん)を簡単に帰すほど彼らたちは性格の良い集団ではない。出雲の対して誘惑(ことば)を向け続ける。ふらつきながらも彼らたちの言葉よりも小さくけれど力強い声がする方へと歩きだす。針音は離れつつあるはずなのに余計に五月蠅く脳へと響かせてくる。逃げるくらいなら、この場で息の根を止めてやる。針音が次第に重く突き刺さるような音圧へと変わっていく。ぐにゃりと頭がい骨が変形させられてしまったような激痛が襲ってくる。それでも必死に出雲は歩き続け小さく聞こえていた声が針音と同じぐらいの大きさに聞こえ始め体中に眩い光が覆う。

「出雲!」

目を開けると西院有希が心配そうな表情をしながら体を揺すり安否を確かめるように、何度も、何度も出雲彩乃の名前を呼び続ける。状況が呑み込めず西院の言葉に反応する前に辺りを見渡してみる。と、先ほどまで歩いていた場所からたった数歩しか進んでいなかった場所で倒れ込んでいるようだった。上半身だけ抱きかかえられていた。未だ上手く声が出せず、ただ上半身を揺らされ続けている。と、館の入り口辺りで妙に鋭い視線を感じる。視点も定まらないが気になり見てみると、欅だろうか?女性が心配しているというよりも悔しそうな、憎悪が混じったような鋭い視線を西院ではなく自分に向けてきている事はなんとなく分かる。が、すぐにそんな禍々しい視線には気にならなくなるほど体を揺らされる。

「し、心配してくれてるのはありがたいけど・・・もう大丈夫だから」

出雲が言葉を発した瞬間に西院は見た事もない優しく安堵した表情をつくるなり地面へとへたり込む。こんなに弱々しいと言うか人間っぽい表情を見たのは久々のように感じつい、何故か頬が緩んでしまう。相変わらず西院に関わると訳が分からない出来事に襲われてしまうな。なんて思ってしまったのだろう。出雲の頬笑みに気が付いたのか西院は安堵した表情から一転、眉間にしわを寄せ睨みつけてくる。相変わらず西院の鋭い視線には目を逸らしてしまう。

「てか、どうして出雲が家の敷地内に居るの?ここは危ない場所なんだぞ」

腕を組み理由を問うてくる。ここで誤魔化しても意味がないと思い、

「ある筋から聞いた話しなんだけど、最近連続殺傷事件がこの辺りで多発しているって知ってる?」

「・・・」

沈黙。つまりは出雲がこの連続殺傷事件と言う言葉を聞いた瞬間に出てきた思考が正しい。と、いうことが直感で分かってしまう。西院は極力、この事件の事を隠し通そうとしているようだけれどその時点でもう遅い。出雲は昨日の出来事から勘が研ぎ澄まされており少しでも動揺、隠蔽を測ろうとするならば分かってしまう。きっと、極限の状態から開花してしまった一つの才能なのかもしれない。数秒前まで倒れ込み衰弱しきっていたかと思えば、西院を睨みかえすほどの体力は戻っていた。出雲から繰り出される鋭い視線につい、西院は視線を逸らしてしまう。こうなれば出雲の勝利は約束されたも同然。西院は一度、大きなため息をすると立ちあがり、分かった。話すよ。と、言うような表情を向け手をさし伸ばしてくる。手を掴むと思った以上に男らしいゴツゴツとした手に驚くのもつかの間、ふわりと立ちあがる。立ちあがりふと、周りを見渡してみるが西院以外に誰も居るような気配はなかった。確かに隠れようとすれば凛々しく立っている木々に隠れれば見えない事もないけれど流石にそれは無理がある。先ほど聞こえていた言葉の数々は一人、二人の数ではない。それこそ何十人と言う意思が頭がい骨へと響き渡っていた。立ちあがり辺りを気にしている出雲に気が付いたのか、何故か申し訳なさそうに西院が口を開く。

「ごめん。アレは屋敷を外部の侵入者から守るための結界(まほう)の一つなんだ」

「結界?」

「この屋敷に侵入する魔法使いはいないだろうけど念には念をってね。まあ、魔法使いに対する防犯用の家の鍵みたいなもの」

そう言うと手招きをしつつ歩きだすため西院の後を追う様についていく。歩きながら西院は月へと視線を向ける。

「出雲って本当に運がないよね」

急に何を言いだすかと思えば笑いだし意味不明な言葉を向けてくる。意味なく笑われることに普段の生活ならきっと苛立ち、怒りを覚えているのだろうけれど出雲はそのような感情は今回ばかりは抱くことなく、意外そうな表情を向けてしまうだけだった。西院はここまで気さくに笑う人間だっただろうか?いや、イメージではもう少し堅く冷たい。けれど、今目の前に居る西院有希はそこまでの冷たさを感じない。まるで別人のようにも感じる。

「ん?どうかした?」

「あ、いや・・・それでさ、その結果に私は捕まっていたってこと?」

「捕まっていたというか囚われかけていたというか。不思議な終末道化師(エトリフィ・ヴァジュ・アリス)。これが出雲が囚われそうになった魔法。彼らは中世ヨーロッパでで誕生した童話なんだ。ケルクって言う幼い少女が書いた物語なんだ。世界的には有名じゃあないし、もしかしたら地元でも有名じゃあなかったのかもしれない。けど、この童話がとても悲しくて大好きなんだ・・・」

そう言うと西院は陽気な鼻歌でも歌う様に語りだす。ある小さな湖の近くに住んでいた少女の物語。その頃は革命などが起こり治安はよくなくその煽りを受けどこの家庭もとても貧しいものだった。それでも、少女と両親たちは仲睦まじく生活をしていた。父親も母親も弟もいつも明るく少女にとってはそれがかけがえのない宝物であった。朝になれば欠かさず湖へと弟と共にバケツを持ち水を体よりも数倍大きな何個も連なっている樽へ何度も、何度も運ぶ。それはとても果てしのない作業。それでも、生活をするため、父親と母親が喜んでくれるならば、と弟と共に働く。夜になると一切れのパンとコップ一杯のぶどうジュースを片手に歌を歌いながら食事をしする。裕福とは口が裂けても言えない夜ご飯だったが少女はそれでも十分幸せであった。お腹いっぱいにならなくても家族が側にいてくれるから。久々に父親が出稼ぎをしお金が入ったという。家族は喜び出来る限りのお洒落をして街へと出かけることにした。父親は息子に古く錆びた時計を、娘には真っ赤なリボンをプレゼントした。二人は両親からのプレゼントに大そう喜んだそう。

「凄く良いお話しだね」

うん。そうだけど、まだ続きがあるんだ。そう言いながら西院はどこか悲しそうな表情に変わる。

永遠だと思っていた幸福は非情な現実に絶たれてしまう。父親が出稼ぎの最中、落石に遭い死んだという連絡が手紙によって知らされる。つがいの鳥は一羽死ねば追う様に死んでいく。母親は日に日に弱っていき寝たきりになってしまう。母親を喜ばせようと、少女と弟は懸命に水汲みを続ける。いつもこの作業をすると両親は喜んでくれたため必死に手足が切れ痛みが襲おうが必死に寝たきりの母親の笑顔を見るために働いた。数日後、弟も栄養失調で倒れてしまい床へと伏せてしまう。少女は懸命に水汲みを続けた。それが、家族を幸せに出来ることだと信じて。そして、ある事件が起こった。

「事件?」

少女が湖の辺りで水を組んでいると見たことが無い大人数人が家へと入っていき数秒足らずでその大人たちは急ぐように家へと出ていく。少女は健気にも水の入ったバケツを家へと運ぶとそこは地獄絵図だった。母親も弟も見るも無残な肉塊へと変わってしまっていた。辺り一面には夥しい血が流れ少女は叫ぼうとした。が、声が出なかった。そう、少女は生まれつき発声障害だったため上手く声が出せなかったのだ。助けを呼ぼうにも自分たちの生活でいっぱいっぱいの人間に他人を助ける余裕なの無かった。それに人間なのに言葉を発することが出来ない人間を誰が近づこうとするものか。少女は一晩中助けを求め駆けまわる。石を投げられ、棒きれで叩かれもした。それでも少女は諦めなかった。が、誰にも助けの手をさし伸ばされることはなく疲れ家へと帰る。と、そこには大好きなパンとぶどうジュースが置かれていた。そして、なによりも大好きだった父親、母親、弟が笑顔で迎えてくれた。少女は喜び家へと駆け込む。

「・・・そして、最後には湖でリボンを頭に結んで少女が笑顔で水に浮かんでいる絵が二ページにわたり華やかに描かれて終わり。これが不思議な終末道化師の全貌」

物語(フィクション)だと分かっていても耳を塞ぎたくなってしまう内容。出雲は話しを聞き終わると悲痛な表情を浮かべることしか出来なかった。あんまりだ。物語は理不尽を教える以前に幸せを教えるべきだ。ただの、作り話なのにどうしてここまで悔しくて涙が出てきてしまうのだろう。どうしようも出来ない、理不尽さに奥歯を噛みしめることしか出来なかった。出雲の表情を眺めつつ西院は月へと視線を向け、

「これを聞いて残酷だとか思うかもしれない。けれど、俺はそうは思わないんだ」

「どうして?」

「だって、最後は少女が大好きだった家族に逢えたでしょ?死んだはずの家族に逢えた。少女はそれが全てだったんだよ。それはきっと幻影だったのかもしれない。それでも、命が尽きる瞬間に笑えるなんて素敵なことでしょ?だから、この童話がとって俺は大好きなんだ。そう、そう。この童話に囚われそうだった時に色々と楽しそうな声が聞こえてきたでしょ?それは物語に出てくる少女の願望だと思うんだ。正直なところ俺も幼少期に一度間違えて踏み込んだだけだから、思う。と、しか言えないんだ。魔法って使っているけど全てが分かっている産物(もの)だけじゃあないからね。そして、この童話の作者のフルネームはケルク・アリス。そう、湖に浮かぶ少女が書いた童話(ほん)。これは少女が望んだ偽物(うそ)本物(すべて)が合わさった悲しく美しい童話(ものがたり)

狂っている。嬉しそうに話しをする西院に対して思った感情。好きな話しをしてくれた。と、言うことには感謝している。心を許しそうになっていた自分に対して一喝する。こちらの世界に漬かり過ぎていた。感覚が麻痺していたのかもしれない。魔法の存在を知ったのは昨日。錯覚か、昔から知っているかのような気さえしてしまっていた。出雲は心静かに小さく息を吐きだす。まだ何一つ知らない世界なのにまるで全てを知っているかのような気さえしていた。あまりにも無防備な自分自身に身ぶるいしてしまい生唾を飲み込む。これではいつ死んでもおかしくない。魔物から逃げ切ったことだって奇跡が何度も、何度も続いたからでありそれは実力で手に入れたのではなく全てが偶然なのである。出雲は自分が立っている世界は狂い並大抵の精神力ではやっていけないことを悟るかのように月を見つめ、止まっていた足を動かし館へと歩きだす。

童話の内容を考えるのに少し時間がかかり遅くなりました。しかし、物語をいちから考えるのは楽しすぎますね!

※2015/10/20

童話の物語の少女の病名を変更

失語症から発声障害

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